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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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885.キセキ

「一つ、聞いていい?」

『なんだ?』

「君らは、人間の世に……人がいる〝界域〟に降りてくるの?」

『否。〝界域〟の支配者がいなくなったことで、扉は開かれた。だが〝物質界〟……人間界に干渉することは禁忌。頼もしい門番も控えているゆえ、間違いが起こることもなかろう。……こういう応え方であっていたか?』

「ん。安心した。もし何か起こりそうだったら、〝混沌〟に加えて〝亜人〟たちとの戦争にもなりかねなかったから」

『ふっふ……。そうか』


 〝雷之神〟は何かを思い出すようにして笑ったが、その真意を問うようなことはできなかった。

 徐々に精神世界が遠のいていく。


『ああ、そうだ。〝界域之力〟はそのまま人間に預けようと思う。どうやら、長兄よりもよほど上手く使ってくれるようだから』

 その意味を理解する前に、キラもエルトも目を覚まし……。


「わお」

〈わお〉

 ブラックやネメアやレタをはじめとして、たくさんの顔が見下ろしてきている状況に、どきりとした。


「起きたか」

 ブラックはいつもの表情を崩すことなく。

「お、起きた〜……!」

 ネメアは今にも泣き出しそうで。

「ほんとに寝てただけだった……」

 レタは静かに驚いていた。


「んー……。ん?」

〈ねね。どういう状況?〉

 寝起きということもあるが、飲み込みにくい状況ではあった。

 ブラックたちには変わりはないようだった。〝ヨアラシ〟クルーも全員無事で、互いに無事を喜んでいる。

 しかし彼ら以外にも、たくさんいた。人混みのする街中に一人寝転がっているような、妙な気分になる。


「一体、何が……?」

 ふと空を見ると、七つの〝雲島〟が所狭しと身を寄せ合っていた。空飛ぶ船も無数に行き交い、大型船も中型船も混じっているその様は圧巻。

 地上の人混みも相まって、絶望とは程遠い光景だった。


「脅威は去った……というわけではないが。どうやら、俺たちは古代人をまだ理解できていなかったらしい」

 ブラックに助け起こされて、彼が指し示した方を見る。

 そこには台座があった。〝パレイドリアの村〟の〝神殿〟で見たような、長方形の箱のような台座に、クリスタルが鎮座している。


「〝界域之力〟の……?」

「……なに?」

「あ〜……。後で話す。あれは、要は、〝亜空〟の力を封じ込めた……〝氷枷〟?」

「らしい。そして、アレの乗っている台座が〝シールド発生装置〟」

「シールド? ……ああ、なるほど」


 〝魔物〟たちに追い詰められている時と違って、よく頭が回る。

 確かに、二千年もの歳月をかけて〝亜空〟の力を研究していた古代人たちならば、大元となる〝界域之力〟を目の前に怯むはずがない。

 むしろ、彼ら彼女らは嬉々として飛びつくだろう。

 詳しいことは理解もできないだろうが、〝界域之力〟でシールドを展開し、黄昏色の空をも寄せ付けない空域を造り出したのである。

 久しぶりに思える青空は、なんとも美しいものだった。


「いや〜……。私たちもその可能性に気づけたはずなんだけどね〜……。ちょちょっと改造すれば、船が墜落するなんてこともなかったよ」

 ネメアが恥ずかしそうにそう言い、レタも付け加える。

「うん。私たちがもっとしっかりしてれば……。あの状況に狼狽えてさえいなければ。あなたが無理を通すこともなかった」

 二人とも何かがぷつりと切れたのか、感極まったように抱きついてきた。

 ネメアもレタも、人目を憚らずわんわんと泣いてしまう。


「お、おお……? と、とりあえず無事だったからさ。いいじゃんか」

 なんとか宥めようと二人の背中を撫でていると、またも見知った顔がやってきた。

「良いか悪いかで言えば、悪いだろうな。一時は心臓が止まっていたと言うじゃないか。無茶をした証だ」

「イロンまで……。っていうか……ぼろぼろじゃん」

 もう顔を合わせることもないと思っていた天才医師イロンとは、ずいぶんと様変わりした格好での再会となった。

 平然を装っているが、その体はボロボロ。頭には包帯を巻き、左目に眼帯をつけている。さらに左足を引き摺りながら杖をつき……痛々しい姿だった。


「そうとも。かくいう私も、人のことをとやかくいえんのだ。他所様の心配はありがたく受け取っておけ」

「そうしておくよ」

 キラは体の力を抜き、ネメアとレタの好きなようにさせた。気を抜いてうっかり倒れてしまいそうになるが、そこをブラックが支えてくれる。


「オロスたちは?」

「集中治療室に隔離中だ。特にオロスは、左腕が吹き飛び、腑が飛び散った。当面の間は絶対安静。……残念ながら、面会も謝絶だ」

 イロンは付け加えるようにしてブラックに言い、ブラックは「そうか」とだけ返した。

 そっけない返し方だったが、律儀なところのある彼のことを考えると、どこか残念そうに思えた。


「で……? 実際、何が起こったわけ? きっと〝亜空〟の力をシールドの展開に応用したんだとは思うけど……」

「なんだ、わかってるじゃないか。その通りだ。ドーム型から円筒型に変更して、少しでも〝魔物〟とやらへの迎撃体制をとりやすくしたのだ」

「二つあったはずだよね? 〝心臓〟」

「もう一つは研究用に厳重に保管してあるが……。〝心臓〟だと?」

「神サマがそう言ってた」

「〝亜人〟が?」

「いや……。〝雷之神〟。寝てる間に〝神通力〟ってやつで接触してきてさ」

「ふむ……。君は……というより、今もなお続くこの大騒動も含めて、我々は随分と大きな事象に直面したようだ。話を聞いてもいいか?」


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