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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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883.ワケ

「掴まってろ」

 ブラックは甲板を滑り降りた。ネメアとレタもそれに続く。船縁におり、船首へと伝って、空中へ飛び出す。

 むろん、その間にも複数の〝魔物〟が押し寄せる。

 ブラックは一切構うことなく、ネメアとレタに対処を任せる。


 キラも二人を邪魔しない程度に〝センゴの刀〟で〝魔物〟を押しのけ、周りを確認。

 どのグループも、すでに目視できる場所にはいなかった。濃すぎる〝魔素〟のせいで、ぼんやりとしか探知できない。

 〝魔物〟たちは魔法を使い始めている。レタが狙撃で優先的に排除してはいるが、弾数も無限ではない以上、かなり厄介。


「ネメア、そっち!」

「任せて! ――ブラックくん!」

「む。――我が主、任せてもいいか」

「……その呼び方、やめてほしい」

〈レタちゃん、三十メートル、左! 狙ってる!〉


 互いに呼びかけ、神経を尖らせて対処にあたり、ひたすら前へ。

 キラはほぼ何もできない代わりに、必死に策を練った。

 〝座標〟にたどり着いて元の時代に戻ればゴールだが、ネメアたちはそういうわけにもいかない。ようやく地上を取り戻しつつあるのだ。


 黄昏色に染まった世界を戻さねば、これより先の未来はなくなる。

 濃くなった〝魔素〟を抑えれば……。〝魔物〟を一掃する方法があれば……。せめて一息つける場所を作れれば……。

 だが、何も思い浮かばない。気休めの妄想すら、何一つ。

 そうしているうちに――。


「わっ……!」

「船が……!」

 船と〝コ・ポッド〟とが、まとめて爆発した。

 その規模たるや。周辺の〝魔物〟を、有無も言わさず一掃するほど。

 爆発に伴う衝撃波も異様だった。

 その凄まじさはいうまでもないが、バリバリッ、と〝雷〟が奔ったのだ。


 キラはともかく、ブラックもネメアもレタも、少なからずダメージを負った。〝覇術〟あるいは〝波動術〟で防御を固めたとて、到底防ぎ切れるものではない。

 あと数十メートルで着地できたところを、四人まとめて墜落する。各々受け身は取ったものの、赤茶けた地面に打ちつけられた。


「みんな……。無事……?」

 皮肉なことに、〝コ・ポッド〟の爆発で〝雷〟も〝お守り〟も満タンになった。キラは〝センゴの刀〟を頼りに立ち上がり、周囲を確認する。

 三人とも無事ではあるが、すぐには動けそうにもない。身じろぎするだけで、〝雷〟による痺れが走るらしい。


 少し離れたところに目をやると、別のグループがいた。同じように、〝コ・ポッド〟の爆発で全員地面に突っ伏している。

 〝気配面〟で感覚を広げてみると、〝ヨアラシ〟クルー全員を見つけることができた。半径二百メートル以内に、点々と散らばっている。

 だが、全員が全員、立ち上がれもしない。


「……くそ」

 せっかく一掃された〝魔物〟も、たったの十数秒で次々と湧き出す。

 ペガサスにワイバーンにグリフォンに、ドラゴン……ありとあらゆる形態の異形の獣たちが、見下ろしていた。

 希望はないのだと、突きつけられた気もする。

 それでも、〝センゴの刀〟を構えた。


〈キラくん……。死んじゃうよ〉

「……無駄死にだろうね」

 〝覇術〟で〝雷〟を汲み上げ、左腕に帯電させる。

 引き出したのは五パーセントほど。それでも、心臓が恐ろしいほどに暴れ回る。

 疲労と緊張と精神的なダメージとが、想像以上に負荷をもたらしているらしい。少しでもコントロールを失敗すると、心臓がもたない。

 だからといって、キラは戦わないという選択肢を選ぶなどできなかった。


〈最後だから聞いとくけどさ。キラくんのその執念はどこから来るの?〉

「うん……? さあ。考えたこともないけど……」

〈けど?〉

「みんな死んで、僕が一人だけ生き残ったのだとしたら……戦うのをやめると思う。……答えになってないか」

〈ふふ。だね~〉


 キラは、記憶がない。数々の検査からもそれは確か。

 それでも時折、身体が、頭が、感情が……勝手に動き出すのは、〝記憶の保管庫〟とやらがまだ残っているからだろう。

 良くも悪くも、過去がなくなったわけではないのだ。

 だからこそ戦い続けることができるのだとしたら……。少しくらいは、その過去に感謝してもいいかもしれないと思った。


「エルト。飛ばしていくよ」

〈うん。ついてく〉




 使うのは〝ショック〟と〝インパクト〟のみ。

 〝覇術〟と〝波動術〟の併用はなし。

 軸となるのは〝センゴの刀〟。


 そうやって戦い続けた。

 本当はもっと大技で蹴散らしたかった。

 だがそれでは、一発で終わってしまう。ブラックたちが復活するまでの時間稼ぎにもならない。


 だからこそ、動き続けられることを絶対条件として、戦った。

 身体は傷だらけ。疲労感もずしりと重い。その上で、心臓を中心として裂けるような痛みが強くなっていく。

 それでも、耐えて、耐えて、耐えて……。


「フゥ……フゥ……」

 何十体か、何百体か。

 わからなかったが、ともかく、あたり一帯から〝魔物〟がいなくなった。

 それを考えるに、〝ポイント〟と同じく、湧き出る〝魔物〟の数や時間に制限があるらしい。〝コ・ポッド〟の爆発も影響しているだろう。


 とはいっても、それも五分ともたない。

 だがきっと、そのわずかな時間が今後の行く末を明るいものにするはず。それだけの知能と実力を、ネメアたちは持っている。

 キラはそれを信じて地面に突っ伏し、意識を手放した。


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