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877.〝天神〟

 映像の中では、戦いは最終段階に移行していた。

 〝亜人〟が本領を発揮し、キラが〝天神化〟を果たす。その様子は、まさしく二柱の神が対立しているかのよう。

 キラは〝雷〟と〝闇〟をうまく使い分けつつ、敵の領域に踏み込む。

 想像もできないほどにハイレベルな戦いだった。互いに同じ手は通用せず、ほぼ即興で敵の想定外をつく。

 そのため、想像以上に早くタイミングが回ってきた。


「来たよ!」

 〝亜人〟が〝天神〟の背後に現れる。

 心底ヒヤリとしたが、〝天神〟は正確に対応。〝雷業〟で迎え撃つ。

 これに対して〝亜人〟は、歪に渦巻く何かを――三十キロ離れていても分かるほど強大な〝波動術〟をぶつけた。

 その衝突で、地上を覆う分厚い雲が一気に散らばっていく。


 〝ヨアラシ〟も大きく揺れ――しかし、誰も悲鳴などあげない。皆がなすべきことに集中していた。

 滞空姿勢を即座に立て直し、ドローンの位置を再調整し、超常現象の観測結果をゴーグルに流す。

 そして――。


「ココ!」

 〝モデル・アール〟が爆発のような轟音を立てて、〝氷枷弾〟を発射する。

 ネメアはレタとともに、その衝撃をどうにか抑え込む。


 着弾までの三秒間が、随分と長く感じた。

 何せ映像の中の戦況は、じっとしてはくれない。


 〝天神〟は、今に〝亜人〟の〝波動術〟に堕とされそうになっていた。

 が、ギリギリのところで持ち堪える。

 〝雷業〟に〝闇〟を混ぜ込んだのである。これもまた即興。


 すると真っ白なマントが美しく輝き、かと思うと、〝亜人〟が〝雷〟の檻に閉じ込められた。その様は、さながら〝ママ・ポッド〟に突き落とされたかのよう。

 だがそれでもなお、〝亜人〟は〝波動術〟を解くことはなく、逆に”天神”を突き落とそうとする――そのタイミングで、届いた。

 〝波動術〟を凍らせ――〝天神〟が反撃に出て――〝黒い雷業〟を〝亜人〟にぶつける。


「……やった」


 〝亜人〟は……〝カミ〟は、死んだ。

 何千年と煮湯を飲まされ続けた人類は、突如として訪れた未来人たちによって、その辛苦から解放されたのである。

 まさしく〝神〟。まさしく〝福音〟。

 その瞬間を目撃したことがどれほどの幸運か……。

 言い表しようのない感情に、ネメアもレタも〝ヨアラシ〟クルーも、言葉を持つことができないでいた。


「ぼうっとするな……! 船を出せ……っ」

 医務室で眠っていたはずのブラックが、船医に支えられながら甲板に上がってきた。絞り出すような声だったが、妙に船内に響く。

 まるで止まった時が動き出したかのように、〝ヨアラシ〟クルーたちは慌ただしく動き始めた。


 戦場で気を失っただろうキラの救出のために、船を出す。

 ネメアも手伝うべきだったが、極度の緊張から解放されたためか、身体が思うように動かなかった。

 レタも言わずもがな、寝そべったままでぴくりともしない。


「キラくん……!」

 なんとか立ち上がり、大破した〝モデル・アール〟に足を取られつつ、船縁をつかむ。

 〝ヨアラシ〟は、ゴウンゴウンッと低く唸りながらも、安定して飛んでいた。

 数十秒して、船首の先に落ちゆくキラを捉える。

 ブラックが〝闇の神力〟をつかって、なんとか落下速度を緩め……他の皆が毛布なり布団なりを持ち寄り、そっと受け止める。


「あれは……?」

 みんながキラを受け止める一方で、ネメアは上空を見つめていた。

 〝亜人〟が散ったその場所に、強い〝波動〟を感じる。二つに分たれた〝亜空〟の力が、心臓の如く、どくどくと脈打っていた。


「放置は……出来ないか。――ねえ! もうちょっと高度あげて!」

 皆に囲まれるキラの容体も気になったが、〝亜空〟の力を放置することもできない。

 徐々に近づく〝力〟の塊ふたつに、ネメアは警戒心を強めた。

 〝波動術〟で無理やり体を操り、何があってもいいように体勢を整える。


 目の前に降りたのは、真っ黒な塊ふたつ。

 その表面は、血が流れるかのように気味悪く波打っていた。揺れ動く〝波動〟からも、まだ生きていると判断できる。

 心なしか、脈打つ〝波動〟が強くなっている気がする。

 何か処理をしなければ。

 ネメアは頭を回して……〝氷枷〟を思い出した。ちょうど二つ、残っている。


「これで……」

 それぞれにぶつけて、〝氷の神力〟を発動させる。

 すると〝力〟の塊は、あっけなくもクリスタルのような〝氷〟に包まれた。〝亜空〟の力は完全に閉じ込められ、ごろりと床に転がる。


「……〝波動〟の流れは止まった。とりあえずは良しかな」

 ネメアはほっとして二つのクリスタルを手に取った。手のひらに収まるサイズのそれが、あの〝亜人〟のものであると考えると複雑な気持ちになる。

 〝ムゲンポーチ〟に雑に突っ込み、レタの様子を確認する。


「大丈夫? 手、貸そうか?」

「へーき……。力が抜けただけだから。それよりも……」

 あまりいい予感はせず、近寄りがたさが優っていたが……ネメアは、レタの示した通り、キラの元へ駆け寄った。

 彼は、〝ヨアラシ〟クルーに囲まれており……緊急の開胸手術を受けていた。


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