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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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873.降臨

「出番だよ、〝ちびぶらっく〟」

 蓋を開けるや否や飛び出したのは、エルトと同じように〝精霊化〟を果たしたブラック。

 エルトと違って生身の人間である彼は、船に待機して〝闇の神力〟を操ることだけに集中し、〝ちびぶらっく〟を造ったのである。


〈遅い〉

 本物の妖精のようなエルトとは違って、〝ちびぶらっく〟は悪魔のような見た目をしていた。

 手のひらサイズの真っ黒な黒い毛玉に、うっすらと光り輝く双眸が嵌め込まれている。

 気持ち悪さと可愛らしさを兼ね備えた〝ちびぶらっく〟は、彼の気持ちを現すかのように、半眼になってジトっと見つめてきた。


「い、いや、そうでもなかったじゃん?」

〈……最初から出ても良かったと、俺は思う〉

「結果論的じゃない? タイミングなかったでしょ」


 なおもぶつぶつと文句を言っていたが、左手を差し出すと〝ちびぶらっく”〟は素直に手のひらに乗っかった。

 ズズズ、と〝闇の神力〟が染み込んでいくのをみて、エルトも準備に入る。肩に降り立ったかと思うと、耳を足がかりに、髪の毛を掴みつつ、よじよじと登ってくる。


「ちょ、痛い痛い……っ」

〈我慢して! 集中!〉

 〝神〟を前になんとも締まりがないが……だからといって隙を晒しているわけではない。

 すでに、キラの体には〝闇の神力〟が浸透していた。

 〝ちびぶらっく〟が憑依しているおかげで、少し意識を傾けるだけでも〝力〟を使える。

 さながら、ブラックの分身体になったかのよう。肌は真っ黒に染まり、目はらんらんと黄金色に光る。


 そこへ、

〈〝装衣転化〟!〉

 エルトが仕上げに入る。

 キラの頭の上でくるくると回っていた彼女は、フワッと広がるマントそのものになった。

 真っ白なマントで頭頂部から覆い被さり、真っ黒となったキラを足元まで包み隠す。


〈ふふん、どうよ? 〝てんじんさま〟の御成だよ〉

 〝雷の神力〟、かける、〝闇の神力〟。

 その百パーセント同士を掛け合わせたのが、この〝天神化〟。

 古代人たちとの訓練をする最中、〝精霊召喚〟のその先にある段階として、ネメアとオロスが考案してくれたものだった。

 実際に使って訓練したことはなかったのだが、エルトとブラックという天才肌の二人が無理やり完成させた形である。


 ただ、想像よりはるかに負荷が重い。

 心臓が破裂しそうなほどに唸り、気を抜けば方向感覚を失ってしまう。

 その苦しみを、根性やら気合いで押し殺し、隠し通す。エルトもブラックもその状態をわかっているはずだが、言及するような無粋な真似はしなかった。


「随分な当てつけよな……」

「……当てつけ?」

「体躯を覆う白き衣に、面持ちすらひた隠す黒き姿。そして金色に輝く双眸……。それは真なる人の……〝神の使い〟たちが用いた装い。その姿を以って叛逆の証とするか」

「何を言ってるかサッパリだけど……。気に入ってもらえたなら結構。満を持してお披露目した甲斐もあるってものさ」

「――笑止」


 〝神〟は募る苛立ちを振り払うかのように、〝力〟を示した。

 辺り一帯に、凄まじい圧力が加わる。

 まるで嵐にかき乱された気流のようで、逃げようのない自然現象を思わせる。

 そのままでいたならば、身体がぐちゃぐちゃになっていただろう。引き伸ばされるか、あるいは、圧し潰されるか。

 そうなる前に、キラは〝闇〟の力を使った。


 球状の結界を張って、半径一メートル以内の空間の安全を確保。〝ちびぶらっく〟が保持してくれている間に、〝波動術〟で強化する。

 どくん、と心臓が暴れるも、これを無視。


 続けて、人差し指を〝神〟へ向ける。

 じ、と狙いを定めて――。


「〝ショック〟」

 静電気のようなごくごくわずかな〝雷〟は、しかし、圧力にさらされることなくまっすぐに飛んでいく。

 通常であれば、門前払い。惜しくもなく、払いのけられるだろう。

 だが今この場は、〝神〟が呼び出した超常現象に支配されている。その規模が規模だけに、細かな〝気配〟の動きは到底感じられない。

 だからこそ、小さな〝力〟が届く。


「ぬ……」

 それだけでは到底効かない。蝿が止まるも同然。

 だから。


〈〝ギガヴォルト〟!〉

 直撃の瞬間に、何百倍にも膨れ上がらせる。

 瞬く雷光に、響く雷鳴。まごうことなき〝雷〟の奔流が襲う。


 それでも、ダメージを与えるには至らない。

 奪えるのは、〝神〟が〝キューブ〟を張って凌ぐコンマ数秒のみ。

 とはいえ――戦いが始まってからずっと、そのわずかな時間の取り合いだった。


 すかさず、次なる一手を打つ。

 〝闇〟を伝って、〝神〟の背後へ移動する。


「――そう来るよな」

 読まれていた。というより、釣られた。

 乱気流のような超常現象は、接近戦に持ち込ませるための罠。

 どうやら〝神〟も戦いのうちに学習するらしい。肝心要の一手は至近距離からと見抜き、そこから逆算して手を打ったのである。


「――」

 〝神〟は振り向きもしない。

 なのに的確に、〝キューブ〟で囲んできた。〝波動〟の高まりを感じる。


 キラは瞬間的に思考した。

 今の状態で耐えるのは簡単――回避にしても難しくはない――だがその分だけの隙を見せてしまう。

 そうなれば後手に回って、詰み。

 ゆえに、なすべきことはたった一つ。


〈――開ける!〉

 言葉にして指示をせずとも、〝ちびぶらっく〟も同じ判断をした。

 〝神力〟の主導権を握って、〝キューブ〟に〝闇〟を浸透させる。そうして〝シャドウゲート〟で無理やり風穴をあける。


 そうして続けて、

「〝雷業〟」

 〝ゲート〟もろとも〝キューブ〟を壊した。

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