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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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872.臆病者

 剣が纏っている〝亜空〟の力と拮抗――一瞬ののち、その膜を砕く。

 抜刀の勢いのままに、〝翼剣〟を弾く。


 そこでキラは確信した。

 明らかに、〝神〟は弱体化している。

 〝神〟に感情があるかどうかは別として、恐怖に似た何かに支配されていた。敗北に近づきつつあるという事実を、受け入れられないでいるのだ。

 だからこそ、あっけないほど接近戦を制することができた。


 その上で、

〈〝モード:ガトリング〟――〉

 〝ちびえると〟が畳み掛ける。

〈〝エンドレスファイア〟!〉


 エルトは可愛らしい妖精姿をヒトサイズに調整し、左腕をガトリング砲に変化。右手で取っ手を掴むなり、ぐるぐると回し始める。

 すると、ボンボンボンッ、と無数の〝雷〟の弾が飛んでいく。


 それぞれ片翼の悪魔に着弾するなり、小さく爆発。

 鎧のように纏っていた〝亜空〟の力に、着実にダメージを与えていく。


 〝雷の神力〟では、やはりその防御を崩すまでにはいかない。

 とはいえ、〝波動〟は乱れに乱れている。それこそ遠目からでも感知できるほどに。


〈――キラくん!〉

 エルトの〝声〟が響く前に、キラは動いていた。


「〝術式:着火〟」

 すぐそばを通り過ぎる〝雷〟の力を借りて、〝センゴの刀〟に火を入れる。

 燃え盛る刀を手に突撃して――悪魔の胸に、突き刺した。

 〝亜空〟の鎧を貫き、心臓を守る〝キューブ〟にも食い込む。


「ぐ、ぬっ……!」

「――〝灰燼〟!」


 〝波動術〟により、炎を前方向へ放出。

 エルトには遠く及ばない、威力重視の雑なコントロール。

 ただし、〝神〟の心臓までほぼゼロ距離である。

 〝センゴの刀〟の切先を伝って〝キューブ〟の内側へと潜り込み――一気に吹き荒れる。


 〝キューブ〟も〝亜空〟の防御膜も粉々に砕き、〝神〟が纏っていた義体にも大きなヒビが入った。

 しかし――。


「あと一手か……!」

 心臓そのものを焼き尽くすには至らなかった。

 その事実を前に、一瞬にして思考を回す。

 心臓は弱っている――もう少し踏み込めば刀が届く――だが〝神〟が反撃の一手を打とうとしている。


「――」

 そこでキラは、その場から退避する選択をとった。

 何かが飛来するのを直感したのである。


 ソレは、一瞬後に〝神〟に着弾。

 パキッ、と空気の割れるような音がするや、心臓あたりにクリスタルのような〝氷〟が取り付いた。

 ネメアたちが――狙撃手を担うレタが、〝氷枷〟を撃ったのだ。


「直撃――したけど……!」

〈まだ足りない……ッ!〉

 改造スナイパーライフルで放たれた〝氷枷〟は、確かに悪魔の義体の心臓を凍らせた。

 だが、効きが悪い。

 拳の大きさほどならば問題ないはずだが、一部分しか氷で覆われなかった。


「――もう、よい」

 心臓部から漏れ出る〝亜空〟の力の波動だけで、〝氷の神力〟による侵蝕を防いだのである。

 〝雷〟が〝キューブ〟に効きづらいのと同じように、〝氷〟もまた弱点とはなり得ない。


「迷いは晴れた……感謝するぞ、人の子よ」

 枷を外すかのように、ひび割れた義体が剥がれ落ちていく。

 本来の〝神〟が降臨する。

 心臓から放たれる〝力〟は、これまでにも感じたことのない密度と規模を放っている。

 〝神〟が敵である限り、この世のどこにも安全な場所はない。いかに〝亜空〟の力で誤魔化していても、ものの数分でバレる。

 唯一の撃退方法が、最悪を生んでしまったのだ。


「世界を……。造り直す」

 どんな迷いがあり、何を思ったのかなど計りようもないが――この世界のことも、〝混沌〟のことも、なにも憂慮することのない結論に至ったらしい。

 義体が剥がれ落ちて、本当の〝神〟の姿が顕になる。


 その輪郭は、人。

 頭があり、腕があり、胴体があり、脚がある。

 ただ、人とはかけ離れた存在だった。どこにも肉体はなく、〝力〟の塊が人の形を成して、うっすらと光り輝いている。

 その圧倒的な存在感に、逃げるべきだと直感した。

 生存本能に屈してしまいそうなところを、キラは自分の言葉で叩きのめした。


「はっ! 臆病者には務まらない大役だね」

 〝神〟はもちろん、自分に対しても煽る。

 戦い始めてから今この瞬間まで、〝雷の神力〟も〝闇の神力〟も、〝神〟の有する〝亜空〟の力に届いていない。せいぜいかき乱す程度。

 ヒトの身ゆえか、あるいは、何かが欠けているからか。

 それはわからないが……それでも、諦めるようなことはできない。


「……力の差を見よ。もう希望はない」

「……最初から。そんなものは望んじゃいない」

 今、頭にあるのは、古代人を救うこと。彼らの死は、未来がなくなることを意味する。

 どう戦うのか。どんな策が必要なのか。何が通用して、何が通用しないか。

 少しの恐怖も割り込ませないように、頭をフル回転させる。


「だいたい、迷っただのなんだのって……。偉そうに」

 ここから先は、何を信じるかという戦いにもなる。

 それに真っ先に答えを出したのが、ブラック。宗教じみた忠誠心を誓って、戦い抜く心構えを示した。

 そんな彼に対して、キラもエルトも出遅れたと言える。

 今、すぐに答えを出さねばならないというのならば。


「偶々そういうふうに生まれただけの紛い物に、その日の気分でいいようにされるだなんて。虫唾が走る」

「……因果なものと、常々思う。だが……貴様も同じよな。人として生きるには苦しかろう? 半端に力を持ち、半端に肉体を持つが故に、注目を浴び……すり減る。未来は、明るいか?」

「――だから、迷えないんだよ」

「ほう……?」

「偶々〝神の力〟だなんてもんが宿ってるんだから。そんなのは厭で厭で仕方がなくって、どうにかしてくれとは思うこともあるけど……。随分と目覚めに時間がかかったり、暴れん坊だったりしても――この〝力〟が裏切るようなことはなかった」


「ゆえに、我に届くとでも?」

「ゴミカスとでも思うんだったら。どうぞ、早いところ世界を造り直してもらって」

「……」

「っていっても、君の領域に到達してるとは思わないよ。僕らは、まだ〝神力〟の正体を知らない。だから、僕も例に漏れず……仲間ってやつを信じるんだよ」

 キラは〝ムゲンポーチ〟を開けて、声をかけた。


「出番だよ、〝ちびぶらっく〟」

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