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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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871.まがいもの

 見た目はまさしく妖精。

 セミショートがさらりと揺れて、スタイルのいい体を包むドレスがキラキラ輝く。

 その小ささもあって愛くるしいが、おさわり厳禁……なにせ、純〝白い雷〟製。百パーセントの力が込められているのだから、見かけによらず凶暴である。


〈よぉ〜っし! 暴れまくるぞ!〉

 〝ちびえると〟が楽しそうにくるくると飛び回る。

 元気があふれんばかりの様子を確認してから、キラは自分の手のひらに目を落とした。意識して〝雷〟を使ってみるものの、静電気すら起きない。〝精霊召喚〟が〝雷〟全てを持って行った証拠である。

 〝ちびえると〟がいる間は、〝雷〟を使えない。

 しかも……。


「持って三分……」

 そのことを強く心に刻んでから、〝神〟の位置を確認した。

 そこで、船首がすこしだけ雲の上から顔をだす。

 手筈通りに展開していたシールドが一瞬だけ途切れ、キラは飛び出した。


「――来たか」

 ダミーに釣られていたはずの〝神〟が、一瞬で目の前に迫る。

 それは想定済み。

 キラは焦らず〝覇術〟で空中に留まり、〝ちびえると〟はむしろニヤリと笑っていた。


〈ふふん! イラついてんね――私たちに接近戦仕掛けるなんてさ!〉

「〝力〟を使うも、この手で殺めるも――どちらも変わらぬ」

 〝神〟は、明らかに冷静さを欠いていた。

 ネメアの話では、〝ニセモノドローン〟には〝イナズマグレネード〟なるものを搭載していたという。

 ドローンが破壊されれば、爆発とともに〝雷〟が放出されるという代物である。

 それがコピー由来の〝雷〟だろうとも、〝神力〟なのには代わりない。ダメージの有無はともかく、効果はあったらしい。

 〝神〟は天使の義体を改造して、より凶悪な姿と化していた。


 真っ白で彫刻のような無機質さには変わりはない。

 しかし肘や膝などの関節が禍々しく突き出て、人の体など簡単に貫くようなトゲが形成されている。

 それだけではなく、右手には武器を持っていた。左の翼をもいで、そのまま剣の代わりとしたらしい。

 極め付けは、失われたはずの左腕。

 召喚した無数の剣を寄せ集め、巨大な腕として利用しているのだ。あまりにも歪なデキである。

 もはや、天使というよりも悪魔。端正な顔つきは唯一変化がなかったものの、禍々しく歪んでいるように見えた。


「――〝キューブ〟を纏ってる」

〈だね〜〉

 〝波動術〟あるいは〝覇術〟を習得していなければ、気づくこともできなかった。それほどに薄い〝力〟の膜が、片翼の悪魔を覆っていた。

 見たところ、〝キューブ〟ほどの強度があるわけではない。

 細部にまで〝力〟を行き渡らせるためか、あるいは、動きやすさを重視したか。どちらにしろ、戦い方が変わってくる。


「……」

 まだ、片翼の悪魔は動かない。〝波動〟にも乱れはない。

 ジリジリとした時間の中で、キラは必死に頭を回した。

 自然現象と超常現象を練り合わせたあの地獄は、今はない。使っていないだけなのか、それともその力を別にあてるつもりなのか。

 どう考えても、〝神〟にはまだ余力がある。


 ブラックによる〝闇〟の粒子のサポートがなく、エルトに探知役を任せられない以上、その余力分の動きに細心の注意を払わねばならない。

 ゆえに。


「――」

 打って出る。

 待ちは悪手。後手に回れば、自由を与えることになる。

 それを防ぐためにも、キラはあえて悪魔の目の前に躍り出た。

 畳み掛けるようにして、右手に〝波動〟を集める。 


 〝キューブ〟を食い破った技を見せれば、悪魔も反応せざるを得ない。

 片翼をはためかせて距離をとりつつ、無数の剣でできた左腕を押し付けてくる。


 その〝剣腕〟の範囲は広く、しかも一つ一つに〝亜空〟の力が浸透している。

 咄嗟の回避は難しく、迎撃など不可能――一人で戦っていたなら。


「エルト!」

〈――〝生態転化〟!〉

 精霊エルトが、〝波動〟を溜めた右手に抱きついた。

 かぷ、と手の甲に噛みつくや、〝波動〟を飲み込んで膨らんでいく。


「〝モード:白鯨〟」

 〝白い雷〟そのものとなっているエルトは、〝変化の神力〟のごとく、ありとあらゆるものに〝転化〟することができる。

 今回は、鯨。

 キラの右手は、鯨の口を移植したかのように異形の姿となった。


〈〝ギガントイーター〟!〉

 その原理は既存の技の掛け合わせ。

 〝悪食〟、かける、〝雷業〟。

 そうして出来上がった〝ギガントイーター〟が……鯨となった〝ちびえると〟が、悪魔の〝剣腕〟に喰らいつく。


「その、程度で――!」

〈ムムムムッ! 喰べちゃうもんね!〉


 普通の〝雷の神力〟であれば、〝剣腕〟が纏った〝亜空の力〟になすすべもなかっただろう。

 だが今の〝ちびえると〟は、濃い〝波動〟を取り込んでいる。

 真っ向からぶつかって〝剣腕〟の勢いを止めつつ、噛み砕いていく。破片が飛び散り、みるみるうちに〝剣腕〟が短くなっていく。


 ただ、全てを喰い尽くすには至らない――が、〝神〟は相変わらず戦い方がヘタクソ。

 〝剣腕〟の軌道は素晴らしいほど直線的だった。

 〝ちびえると〟の稼いだ数秒で避けることなど、造作もない。


「戻って!」

 キラは〝隼〟で直線上から脱出。

 同時にエルトを呼び戻して、〝センゴの刀〟に左手をかける。最短コースで〝神〟の前に飛び出した。


 〝神〟は再び愚直に反応した。

 左の〝剣腕〟が容易に砕かれたことに、よほど動揺したのか。はたまた、〝パルスドーム〟で命の危機というものを知ったからか。

 まるで怯える獣の如く、右の〝翼剣〟を振り構えた。


「〝居合〟」

 刀身に〝波動〟を流す。

 そのタイミングで、〝ちびえると〟も次なる一手を仕込む。


〈〝機械転化〟――〉

 今度は、キラにも彼女の動き方を予測できない。

 その戦闘センスを信じて、

「〝閃〟」

 振り下ろされる〝翼剣〟に向かって、〝センゴの刀〟を抜き放った。

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