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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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870.〝熱〟

「ならば。共に戦うべきだろう」

「おう……? なんというか……随分、珍しい物言いだね?」

「……考えていたことがある。この先を戦い抜くのに、何が必要か」

「必要なもの……? 欠けてるものなんてある……?」

 キラはいまいち要領をつかめないという顔つきをしていたが、エルトはすぐに察してくれた。


〈キラくんはそういう意味じゃあ、ほぼ完璧だからね〜。変に引っ込み思案になることはあるけど、基本、どんなに強い敵でも逃げることなんて考えないもん〉

「ああ、そういう……。や、じゃあ、ブラックも同じじゃないの?」

 そう問われてブラックは、初めて己の弱さを口にすることに気がついた。

 少しばかり恐ろしい気もしたが……真っ直ぐに見つめてくるキラの目を見て、覚悟を決めることができた。


「俺には〝闇の神力〟がある。だから、強くいられた……怖けずにいられた」

「ふん……?」

「だが……今まさしく、この瞬間、〝神〟との戦いを控えている。〝闇〟をもってしても制しきれない相手……強く在ることが難しい相手だ。まずはこの戦いを乗り越えねば、元の時代に戻ることもできない」

「で……。怖くなった?」

「……多少は。迷いや困惑といった方が近いかもしれないが」


 キラもエルトも、揶揄うような真似はしない。だからこそ、色々なところで色々なヒトに好かれ、必要とされるのだろう。

 本音を言えば、ブラックもそうありたかった。

 だが、レオナルドの優しさにかまけ、復讐じみた考えばかりを優先して……。馬鹿野郎という他にない恩知らずには、到底真似などできない。

 だから、せめて。


「俺は、強いだけの、只人だ。だがここから先は、それでは許されない――〝神〟も〝始祖〟も、そんな俗物には目もくれない」

「……まあ。一理ある」

「俺も、心の強さが欲しい。どんな逆境にあっても、決して折れない心の強さが。――だから、決めた」

「? 何を?」


 考えついた時には、そんなことができるのだろうかと、自分でも疑問に思った。

 だが、意外にも……。澱みなく、抵抗なく、違和感すらなく――キラとエルトに対して、片膝をつき、首を垂れていた。


「あなた方は、俺の憧れだ。なによりもその精神性に、脳を焼かれるほどの感銘を受けた。お二人の高潔さを学び、支え、守りたい」

「お……? おぉおぉ……?」

「いま、ここに。あなた方に対し、絶対の忠誠を誓う。それが、俺に真なる強さをもたらしてくれる」


 〝福音教〟の話を聞いた時、自分が関わっていることもあり、随分と大袈裟なことになったのだと思った。

 ネメアやイロンたちが受け取った〝知見〟とやらが、後の世にまで轟かせたいほどの〝福音〟であるという話なのだろうが……一方で、当事者となってしまったブラックとしては、消化しきれないものがあった。


 何しろ、人類史上初となる宗教の誕生である。

 脈々と受け継がれていくことを考えれば、まだ何も成していない三人の〝迷い人〟を神格化してしまってもいいものかと、呆れもしたくらいだ。


 だが……。

 見方を変えれば、宗教化は当然のことのようにも思えた。

 キラとエルトは、最初から、目の前のものをひっくり返そうとしていた。

 この時代に飛ばされてしまった状況も、古代人たちに到底敵わない自分の実力も、唐突に降りかかった〝神〟との戦いさえも、全部。

 正直にいって、イカれてる。


 だがその〝熱〟が、関わる者たち全員に行き渡ったのである。

 二人の判断について行っただけのブラックも、漏れなくこうして忠誠を誓うこととなった。


〈これは……。簡単には死ねなくなったねえ〉

「学ぶことあるぅ……?」

 自分に関してはとことん無頓着なキラとエルトだからこそ、支えたい、守りたいとさえ思うのだろう。

 ゆえに……。


「……〝福音教〟か、〝天神教〟か。どちらに入信すれば……?」

「ブラック、ブラック。ソコじゃないでしょ。変なこと考えなくていいから」

〈フフッ! いいね――テンション上がってきた!〉


   ○   ○   ○


 応急処置と言っていたが、〝センゴの刀〟は実戦で使えるレベルにまでは修理され得ていた。

 独特の波紋が波打つ刃には、ヒビをなぞるように黒い線が走っている。特殊な接合剤でヒビを埋めて、修繕箇所が分かるようあえて黒く塗装したのだという。

 元の時代に戻り、〝神殿〟を見つけた際には、改めて完璧に修繕をしてくれるらしい。

 それを実現するためにも、ネメアら古代人たちを死なせるわけにはいかないのである。


「――さて、最終確認」

 〝雷〟は満タン。やる気も十全。準備も抜かりない。

「ブラックは僕のサポート。で、この舟はシールドと雲で隠密行動をしつつ、〝氷枷〟を打ち込む。最大四発で、狙いは〝心臓〟。細かいところは各自で適宜判断すること――いいね?」


 あえて問いたださずとも、全員理解している。

 コンマ一秒が戦いを左右し、生死を分けるこの状況……各々が最適な判断を下さねば、全滅あるのみ。

 だからこそ、なのか。皆、吹っ切れた様子で声を上げていた。


「よし。さあ、いくよ、エルト」

〈いつでもオッケー!〉

 雲の海の中を泳いでいた船が、浮上を始める。

 その間にキラは、一気にかたをつけるための下準備に入る。


「〝術式:流転〟」

 この技が、現時点での最高到達点。

 名付けて。


「〝精霊召喚〟」

 〝生きる魔法〟ならぬ〝意志ある雷〟。

「〝ちびえると〟」

 キラの脳内に住むエルトを、守護霊として呼び出した。


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