869.解釈
ただ単に〝二人〟だからかとも思った。
キラもエルトも強い。
二人とも〝元帥〟に選ばれるほどの力を有し、戦闘時における勘の鋭さと頭の回転力は目を見張るものがある。
そんな二人が一つの体を共有している……だからこそ、レオナルドは目をつけたのだと思った。
確かに、それもあるだろう。
しかしおそらくは、きっかけでしかない。
レオナルドは情に厚いが、それだけで〝作戦〟を託すようなことはしない。
キラとエルトには、彼が全幅の信頼を寄せるだけの何かがあるのだ。
「僕個人としては。できるだけ、ぶっ殺したい」
「ぶっころ……。フフっ、言うじゃん」
〈実際……。やられっぱなしじゃあいられないよね。みんなのおかげで全回復したし、刀も使えそうだし。――私のと、キラくんのとで、二発ぶちかます〉
二人は、とても似ている。
諦めの悪さや、底知れない執念や、折れることを忘れたかのような心の強さが。レオナルドの精神性と、瓜二つなのである。
レオナルドは、地獄の中にあっても、戦うことも助けることも捨てなかった。
キラとエルトも、どんなに劣勢であっても、考えることをやめない。
敵として出会ってから、ずっと……前のめりに突き進む。葛藤したり悩んだりはするだろうが、結局のところ、意志を曲げるようなことはないのだ。
だからこそ。〝始祖〟と戦い続けることができると確信したからこそ。レオナルドは二人に全てを託したのだ。
「ってことは、キラくんたちが引き付けてる間に、私たちが〝氷枷〟を当てる。って作戦だね?」
「そ。殺すか封じるか……どっちにしろ、ここでかたをつける。そしたらその次は〝六つ目の獣〟さ――あっちの思惑通りには、死んでもさせない」
「うん……。うん。そうだね」
ブラックは、ふと思案することがある。
この先、〝竜ノ騎士団〟の雑用係になったとして。基本的には、入団のきっかけとなったキラとエルトの指示の元に動くことになる。
その内容は、おそらくは〝神殿〟がらみ。
その場所を特定するなり、内部への探索を試みるなり……レオナルドの〝作戦〟を遂行するためにも、危険に飛び込むことにもなるだろう。
〝始祖〟に目をつけられる可能性も高い。
そういう時。
例えば、〝始祖〟そのものと出会した時。
どういう判断をするのだろうと、少しばかり考える。
「それでさ。問題は、どう〝氷枷〟を当てるかなんだよ。合図を出す暇もないし、それを確認する余裕もない。そんなことしてたら勘付かれるだろうし」
「二人を救出するために色々と持ってきてはいるんだけど……。ん~……」
〝始祖〟と戦うのは無謀というもの。
だからといって、逃げるというのも違う。
素直にキラたちの元に帰ったら、何か厄介なことになるのは間違いない。
今の自分では、想像もつかないというのが正直なところだった。おそらくは、応戦しつつ、〝闇〟に紛れるなりなんなりするのだろうが……。
「バレないようにってなら、遠距離からの射撃が一番……。〝氷枷〟がどういう条件で発動するかは把握してるから……それを加味して……」
〈何かある?〉
「ライフルでの狙撃が一番現実的かなって思う。正直に言って、〝亜人〟との戦いに割って入る自信はないし。ただ……改造するのにちょっとだけ時間が欲しいかな。当てる可能性を百パーセントに引き上げるためにも、色々と細工が必要になるからさ」
対〝始祖〟の〝作戦〟を推し進めれば、必ず、真価を問われる時が来る。
何が起きるかは未知数で、どう判断せねばならないかもわからない。
だからこそ、揺るがない何かが必要だと思った。
これまで、〝忌才〟ベルゼから記憶を取り戻すという執念だけで、力をつけてきた。
今後も変わらないだろうが、もうそれだけではなくなってきている。復讐にも似た思いだけでは、〝始祖〟とは戦えない。
ゆえに。
レオナルドの精神性に並ぶものが、キラの極度の負けん気にも劣らないものが、エルトの怨念じみた気合いと同等のものが……ブラックも欲しかった。
化け物じみた心の強さを手に入れる。そのための一歩を、踏み出したかった。
「ならその改造ってのを、今すぐに頼むよ。〝神〟に先手を取らせるわけにはいかない……ってことは、ダミーが全部落とされる前に、こっちから仕掛けなきゃいけない。完了次第、戦いに入りたい」
「了解! じゃ――手が空いてる人、全員手伝って! 急ピッチで仕上げたいから、知恵合わせるよ!」
ネメアが船上の仲間たちをかき集めて、中へと入っていく。
周りに誰もいなくなったそのタイミングで、ブラックはキラに近づいた。
「連携はどうする」
「協力なしでアレだったからなあ……。でも今度は〝センゴの刀〟を視野に入れながら戦えるし、もう少しマシな気も……。う〜ん……」
「ならば。共に戦うべきだろう」




