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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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867.勝ち筋

   ○   ○   ○

 

 ブラックの生み出した〝影の粒子〟は、確かに効果的だった。

 しかし、それをも上回る術を、〝神〟が持っていたというだけ。〝影の粒子〟が意味をなさないほど、ありとあらゆる環境を召喚したのである。


 どこかから地面を丸ごと持ってこようなど、誰が想像できるのだろうか。もちろん、戦いやすいよう場を整える意図などはない。

 足元には溶岩が流れ出し、それに合わせて無数の竜巻が渦巻き始めた。

 焼けるほどにまで気温が上がり、息もできないほどの豪風が吹き荒れる――大気を掌握されたのである。いくら〝雷〟で払おうともキリがない。


 なにより脅威なのは、天使の姿を捉えられないということ。

 視界は無数の竜巻で潰され、これだけ〝力〟が吹き荒れていれば、”気配”で探知するのも難しい。

 そんな状況であっても、〝界域〟の支配者たる〝神〟には関係ない。いやらしくも的確に〝キューブ〟で追い詰めてくる。


 これらをかわして近づこうとしても、強制的に転移させられる。

 〝混沌〟とやらを恐れてか、十数メートル移動させられるのみではあるが、これもまたひどく厄介。


 突っ込むのは無謀。立ち止まるのも悪手。離れるなんてもってのほか。

 まごついている間にも、災害が次々と召喚されていく。

 そこでエルトが妙案を捻り出した。


 それまではキラもブラックも、互いに離れないように意識していた。互いを補いながらでなければ、到底生き残れないと直感したのだ。

 だがエルトが提案したのは、その逆。

 協力も連携もなく、個々に動いて〝神〟に近づく。


 最終的な目的は、エンリルからもらった〝氷枷〟をぶち当てること。うまくいけば、〝神〟をも封印できるかもしれない。

 ゆえに、その過程で、動きを共にする必要はない。

 ブラックとエルトはともかく、キラは『できるだけぶっ殺す』ことに舵を切ったのだ。その意識の差が……狙いの微妙な違いが……〝神〟を揺さぶる。そうでなくとも、一秒の隙は生み出せるだろう。


 賭けにも等しいが……たった一つ残った勝ち筋でもあった。

 だが――。


「……ぁ……っ……」

 一歩、届かなかった。

 荒れ狂う自然も、猛威を振るう超常現象も、的確に襲いかかってくる〝キューブ〟も、ほぼ全てをかわした。

 エルトとのスイッチ戦術を生かし、距離を詰めることができたのだ。


 ただ、〝センゴの刀〟を使えないのが痛かった。

 もはや〝神〟の攻撃方法は、〝キューブ〟だけではない。ありとあらゆる方向から剣や槍や弓矢が飛んできては、命を刈り取ろうとする。


 〝覇術〟による格闘術でなんとかできるものの……キラもエルトも、刀による立ち回りがメイン。

 軸となるものがない状況で、極限にまで追い詰められるとどうなるか。

 その窮屈さが厭になり、強引に活路を切り開こうとしてしまう。


「ハ……ハ……」

 やたらと〝雷〟を連発したのだ。

 防御手段として放ったのはいいものの、そこから三発続けて、〝神〟を守る〝キューブ〟に向けて撃ってしまった。

 本当ならば、〝波動〟の流れを読み取りつつ、的確な一発を入れねばならなかった。

 そうして即座に取り付き、〝覇術〟あるいは〝波動術〟を使うべきだった。


「――くん――キラくんッ!」

 数を撃ってしまい――それがブラックの動き方にも影響し――その噛み合わせの悪さを狙われる。

 気がつけば、キラはブラックを庇い、いくつもの剣で全身を串刺しにされていた。

 急所はなんとか避けた。

 が、肩から貫く剣が、喉を裂く。


 これほどにまで明確に死を感じたのは初めてだった。

 事実――ネメアたちの到着が数秒でも遅れていたら、あるいは、串刺しにされた無様な姿に躊躇して治療が遅れていたら。再び意識を取り戻すことはなかっただろう。


「ね……めあ……。なん、で……?」

「助けに来たんだよ、ばかっ!」

 ぼうっとする頭をなんとか働かせて、状況を整理する。

 どうやら少し前まで、〝空舟〟の甲板で治療を受けていたらしい。周りには治療器具やら空の瓶やら血だらけのガーゼやらが散乱している。


 ふと隣を見ると、ブラックもまた治療を受けていた。派手に出血しているところはないが、昏睡状態に陥っている。

 ただ、山場は超えたのか、ブラックの寝息は安定しており、治療に当たっていた古代人たちも安堵で腰を抜かしていた。


「首に穴空いたと思ったけど……。傷跡すらないや。前に使った回復薬?」

「それだけじゃダメだったから、縫合したり輸血したり……」

 ネメアとしては、他にも色々と言いたいところがあるらしい。

 涙目にじぃっと見つめて、口を震わせて……今にも説教が始まりそうだったが、その全てぐっと飲み込んでいた。


〈ありがとね。おかげで、命拾いした〉

「ん……」

 エルトの言葉に、ネメアは溜め込んだ涙をぐっと拭った。

 〝亜人〟、すなわち〝神〟との戦いは、無理無茶無謀の連続。それを理解しているからこそ、ネメアも他の皆も、言いたいことを飲み込んだのだ。

 キラはあえて深くは触れずに、気になっていたことを口にした。


「刀は……?」

 〝センゴの刀〟は、剣帯から外されて、左隣に置かれていた。が、収められてるはずの刀身はなく、鞘だけが寂しく鎮座している。


「本部の方から連絡があってね。キラくんとエルトくんが刀を使わずに戦い始めたのが気がかりだ、ってさ。で、確認してみたらヒビが入ってるもんだから、修理をしてるとこ」

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