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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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866.獣と、亜人と

「行けるか……?」

 オロスが手に握るのは、〝センゴの刀〟を参考に打った剣。試作品とはいえ、オロスの好みの重さと長さに合わせた自信作。

 その最大の特徴は、〝波動〟の伝導率が高いということ。

 鋳造の際に鉄の成分と温度を細部まで調整することで、オロスの持つ〝波動周波数〟に適合させたのである。

 ゆえに、〝覇術〟の力を引き出す。


「行ってまえ……!」

 オロスの振るった一撃は、それは凄まじかった。

 山ほどに大きい〝獣〟の目玉を、一度にして潰したのである。噴火したかのように、大量の鮮血が噴き出る。

 オロスは危なげなくその場から離脱し、船に戻る。


 その一連の流れに作戦司令室が沸くものの――そこからが本番だった。

 〝六つ目の獣〟の悲痛な嘆きは、もはや一つの兵器。容易に雲を蹴散らし、オロスたちの船を撃墜する。

 距離を置いて撮影していたドローンにも影響がおよび、数秒映像が乱れた。


「あかんで、リーダー……! オロスらは無事やろうけど――〝雲島〟への指示はこっちで出さな!」

「オロスたちが直接指示をした方がはるかに効果的だが――そうも言ってられんか」

 前線に出るにあたって、オロスたちには砲撃指揮権が与えられていた。

 そのためのインカムを持たせたのだが、ほぼ間違いなく、〝獣〟の悲鳴で壊れてしまった。

 マントスが通信士たちに指示を出している間にも、ペンドラゴンは〝班長〟としての役割を果たした。


「〝ヘクトル〟内の兵器はどないなっとる?」

「レーザー砲、二、巡航ミサイル、一、化学クラスター、一――復旧の見込みあり。ただし、時間にして二十分あまりかかる模様」

「――復旧に取り掛かるんはレーザー砲のみ。〝ママ・ポッド〟中心に回してく――一秒も惜しい勝負になる、皆にそう共有しといてくれ。もちろん、〝ヘクトル〟以外にもや」

「了解」


 〝班長〟などという肩書きが見掛け倒しになるくらい、技術班は優秀である。方向性を示すだけで、全員で最適解へ向かってくれる。

 指示を出さねばならない身としては、非常に楽。

 だがその反面、下手に口出しすることはできず……ただ結果を見届けるしかないこの歯痒さを、ただ堪えなければならなかった。


「――っちゅうか、あの巨体、どう崩せばええねんな」

 堕ちゆく船から脱出したオロスたちは、集団で動いている。

 その狙いは頭。残る五つの目を潰すのと同時に、残った〝雲島〟を狙わせない意図もあるのだろう。


 その意図を汲み取ったかのように、一つの〝雲島〟が仕掛けた。

 レーザー砲が〝獣〟の脇腹あたりに直撃。

 これに続けとばかりに〝雲島〟がそれぞれ攻撃を仕掛ける……その様子が、幾つもの映像で映し出されていた。


 どれもが固い鱗に阻まれ、ろくにダメージが通っていない。

 が、それは想定通り……〝ママ・ポッド〟の無限供給により、生身の肉体に届くまでレーザー照射は続く。


 問題は、攻撃が通ったとして、どう打ち倒せばいいのか。

 あれほどの巨体をそのまま倒してしまえば、攻撃が届く位置にまで展開した〝雲島〟はもれなく巻き込まれる。

 〝再生する大地〟も無事では済まないだろう。


 何が起こるかは未知数。慎重に進めるべき事案である。

 だが――。


「先のこと考えるんは贅沢か……!」

 オロスたちは、頭に狙いを絞って立ち回ってはいたが、すでに集団行動が取れていない。

 〝六つ目の獣〟が動くだけで、嵐を呼ぶ。前脚を振り上げようものならば、数百という竜巻が生まれ、雷が縦横無尽に走る。

 それを掻い潜ったところで、待っているのは振り下ろされる巨大な手。


「あんなん……どないせいっちゅうねん……!」

 〝六つ目の獣〟にとっては、取るに足らない一つの行動。

 たかだか前足の動き一つで、皆で積み上げてきた作戦が瓦解した。

 レーザーを中心として仕掛けていた〝雲島〟は回避行動へ移る他なく、十分な距離をとった〝ヘクトル〟も揺れに揺れる。


「ドローンがほぼ落とされた……!」

「各〝雲島〟とも通信不能ッ!」

「連携が取れない……っ」

 通信士たちから、次々と絶望的な報告が上がってくる。

 さらには――。


「なんだよ、アレっ……!」

 キラたちの戦況を写す映像では、地獄が広がっていた。

 戦場は雲の上のはず。

 だというのに、二人の足元には地面があった。


 ある場所では溶岩が流れ、またある場所では氷山が突き刺さっている。

 濁流する川に、荒れ狂う海に、超巨大竜巻――人が生存するには、あまりにも過酷な環境が詰め込まれていた。

 さらにその上で、矢の雨が降ったり、無数の剣が地面から突き出たり、空間が捻じ曲がって爆発したり。

 〝空間〟を司る〝亜人〟により戦場を支配され、意味がわからないほどに滅茶苦茶にされていた。


「なんか……ないんか。なんか、路は……打開策は……ッ!」

 キラもブラックも懸命に喰らい付いていたが……限界が訪れた。

 二人ともに自然現象と超常現象を掻い潜り、〝亜人〟に肉薄――キラが〝雷〟を叩き込もうとしたところで、ブラックが狙われた。

 それをキラが庇い、墜落。ついで、ブラックもぶっ飛ばされた。

 二人とも、同じようにして雲の下へと姿を消す。


「なにか……!」

 ペンドラゴンは、見ているだけの自分が、心底嫌いになっていった。


   ○   ○   ○


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