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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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862.悪食

「……ッ!」

 幸いなことに、折れはしなかった。

 ただ、ヒビが入った。

 刀として形を保っていられるのが不思議なほど、大きなヒビが。


「折れなんだ……。我の〝力〟が弱まった……? ――闇使いか」

 戦場は雲の上。というのに、いつの間にか辺り一帯には影が差している。

 ブラックが〝闇〟の力で太陽を遮り、大きな影を造ったのだ。

 〝闇の神力〟も、ある意味では空間を司る〝神の力〟……〝亜空〟を封殺できずとも、その力を弱めることはできる。


「平気か」

「ん……。まあ……」

 ブラックの作った〝闇〟の足場に降り、〝センゴの刀〟を鞘に収める。

 〝波動〟を纏わせれば継戦は可能なものの、相手が〝神〟ともなれば不安が残る。

 師匠ランディが遺した唯一の形見で、いつ何時も手放せない相棒である。

 使い物にならなくなったからと、そのまま捨て駒のように砕け散っていいとは思えなかった。


〈キラくん、気落ちしてる暇はないよ〉

 理解していることを言葉にして届けられて、キラは〝神〟と向き直った。

「――〝力〟の使い方が変わった。〝波動〟の動き方が顕著だから、〝未来視〟なんてなくても読めるけど……」

「防御面は変わらず必須。加えて、俺の〝影〟の空域から出ないよう立ち回らねばならない」

〈なら、私とキラくんで前線を張るから、ブラックくんはサポートを中心にお願い。空間の制圧がキモになってくるから、その意識は落とさないこと〉


 これまでは守りに入ってばかりで、ろくに攻勢に出なかった。

 それが今、〝キューブ〟を再構築せず、攻撃の意思を見せている。

 つまるところ――


「来る」

 ここからが、戦いの始まりだった。


 いくつもの小さな〝キューブ〟に取り囲まれる。

 左首元、右肩、左肘、左脇腹、右腰、左臀部、右太もも、右足首。

 同時多発的な爆発を引き起こし、致命傷を与えてくるつもりだ。

 

 キラは、一瞬の判断でその場を飛び退いた。

 直感した通り、〝キューブ〟は体に張り付いていなかった。あくまでも〝空間〟にのみ作用するらしい。


 そうやって分析をしつつ、〝零下〟の感覚を〝波動術〟で呼び起こし、

「〝デルタ・チャンネル〟」

 伸ばした右手と言葉そのもので、前方の空間に干渉する。


「〝クワイエット〟」

 〝波動〟を支配することで、〝キューブ〟の防御不可の爆発を抑制する。


 しかし、〝闇〟との兼ね合いもあってか、掛かりが弱くなった。

 爆発を完全に防ぐことはできず、不可視の衝撃波が吹き荒れる。


〈キラくん!〉

 響く〝声〟とともに、スイッチ――エルトがすかさず〝コード〟を使う。


「〝ドルフィン〟」

 伸ばした右手はそのままに、

「〝ウルトラエコー〟!」

 迫り来る衝撃波を、〝波動〟の伴った電磁波で相殺した。


 ホッ、と安堵する間もない。

 そのタイミングを見計らったかのように、〝神〟が次なる一手を打ってきた。

 ――否。この一連の攻防の間に、すでに仕込みを終えていたのだ。


「むぅ……っ!」

 部屋一つ分ほどの大きな〝キューブ〟に、すでに取り囲まれていた。

 逃げようにも、体が重い。〝キューブ〟内の重力が操られている――だけでなく、あちこちから圧力が掛かっている。


 このままでは、〝空間〟に体がねじ切られる。

 エルトは〝波動〟を全身に巡らせて、防御を最大限に高め――


「よく耐えた」

 ブラックが〝闇〟を使って助けてくれた。

 〝キューブ〟内のねじ曲がった空間をうまく捌き、〝影〟の穴を作って引っ張り出したのである。


「サンキュー!」

 エルトは礼を言いながら、隻腕の天使に向かって特攻。

 一秒もしないうちに距離を詰める。


 〝神〟は動じる様子もなく、〝キューブ〟で防御を固める。

 そこへ。


「〝ドラゴン〟」

 飛ぶ勢いそのままに、仕掛ける。


「〝パワークロウ〟!」

 右手に召喚したのは、竜の手。

 歪に渦巻く〝雷〟の鉤爪で、〝キューブ〟を打つ。


 スピード、掛ける、パワー。

 〝キューブ〟がたわみ、悲鳴を上げるかのようにキリキリと音を立てる。

――が、割れない。


「――ッ!」

 これ以上は無駄。

 エルトは素早く判断して、身を翻して跳んだ。

 〝キューブ〟の天井部に着地、と同時に、スイッチ。


「〝術式:纏〟」

 キラは深呼吸をしつつ、〝キューブ〟に左手をついた。

 〝パワークロウ〟の影響の色濃く出ている箇所を見抜いて、指を立てる。


「〝悪食〟」

 手は口、指は牙。そう見立てて、指の先から肘までガッチリと固定する。

 何物をも喰らう〝波動術〟を、〝キューブ〟にくい込ませ――突き破る。


 瞬間、キラは頭を働かせた。

 〝雷〟を放てば――しかし〝クロウ〟で残量がほぼ尽きている――充電している余裕はない。

 コンマ一秒もない、刹那のチャンス。


「――〝ショック〟」

 目をつけたのは、天使の義体の欠けた左腕。

 その傷目掛けて、〝雷〟を流し込む。

 指の先から静電気のように薄く細く迸り――傷口に、タッチ。


「ぐ……ッ!」

 反撃に出ようとしていた〝神〟は、一瞬、硬直した。


 ここで畳み掛ければ。

 そうやって攻勢にのみ意識を集中させたのが不味かった。

 〝神〟は腐っても〝神〟。戦い方が下手だろうが、その〝力〟の扱いに関しては右に出るものはいない。


「――! 足がッ」

「逃さんぞ……!」


 〝キューブ〟が鼓動するのを感じて離れようとするも、底なしの沼にでもハマったかのように動けなくなる。

 それだけでなく、膝をついていた右足が、ズズズ、と取り込まれる。


 このままでは足を引きちぎられる――ヒヤリとしたものを感じつつも、

「上等……ッ」

 引き下がるつもりはなかった。

 〝ムゲン・ポーチ〟に右手を突っ込み、〝お守り〟であるバッテリーをギュッと握る。

 そうしながら、左手は変わらず天使を捉え続ける。


「貴様……!」

「我慢比べといこうじゃん……!」


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