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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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860.エンジン

〈——なるほど〉

 憶測が確信に変わった。


 やはりあの美しい天使姿には、本来の〝神〟としての力をセーブする役割がある。

 心臓部をよくよく観察すると、〝亜空〟の力の高まりがある一定のラインで抑えられているのだ。

 すなわち、天使の〝心臓〟には、大きな負荷がかかっているということになる。

 〝心臓〟目掛けて強力な一撃を放てば。本当の〝神〟の姿を引き摺り出すことができるだろう。


 神殺しが目的ならば危険な一手だが、あくまでも撃退が目的。

 何か〝神〟にとって都合の悪いことが起きるために、天使の姿となっているのだとしたら……狙わない手はない。

 例えそれが悪手だったとしても、生き延びる芽はそこにしかない。


「キラくん!」

〈ん――〉

 スイッチして、もうひとつ分かったことをブラックに伝える。

「神サマにも、戦いには慣れが必要らしいね。力をセーブしなきゃならないっていうのもあるだろうけど……基本、戦い方がヘタクソ」

「だが……。あのキューブ型のバリア……単純に硬い。まだまともに攻撃が入っていない――どうする」

「なら、やっぱり〝波動術〟がカギさ」


 長々と話している暇はなかった。

 自由になった〝神〟が次の一手を打とうとしている。


 〝気配〟が動く――その前に、キラは接近した。

 〝隼〟で一気に距離を積める。


 抜き身の〝センゴの刀〟で、仕掛ける。

 少し雑ではあるもの、振りの速さに特化した大ぶりの一撃。


 一秒にも満たない速攻にも、天使は焦ることなどなかった。

 再度〝キューブ〟を展開して、防御を固める。


 刃が阻まれる――その直前に、〝未来視〟をコンマ一秒だけ発動。

 このまま弾かれれば、絶命してしまう。

 手に走る衝撃に目を細めている間にも、〝キューブ〟に囲まれて、消滅させられる。

 〝覇術〟を使ってもなお無駄。


 だから。

「――未来を視るか」

 〝センゴの刀〟を押し当てる。

弾かれないように加減をして。


 そして――。

「〝術式:着火〟」

 〝波動術〟で仕掛ける。

「〝炎刃〟」


 ネメアら古代人たちに〝波動術〟を習ったのは、そもそも〝殺し合いの定め〟および〝妖力〟をコントロールするため。

 そこでまずは、女性と触れ合うことで強制的に発動する〝妖力〟から、〝波動術〟のきっかけを掴むことにした。

 特定の〝波動周波数〟の動きを把握することに力を入れたのである。

 そうして、〝波動〟のコントロールにまで漕ぎつけた。


「……! 忌々しい……!」

 実を言えば、〝ハドウ・コピー〟たる〝覇術〟よりも、〝波動術〟の方ができることの幅は広い。

 〝覇術〟が〝血因〟を中心として回るのに対し、〝波動術〟はこの世のあらゆるもの全てに均等に干渉できる。

 ネメアたちのように極めれば、まさに万能。


 空を飛び、風を呼び寄せ、水も氷もすべて意のまま。

 規模は限られるものの、自然を掌握したも同然なのである。もはや最古の魔法と呼べるだろう。


 〝炎刃〟も〝波動術〟の特性を最大限に活用した技。

 〝波動〟で酸素を巻き込みつつ刃に纏わせ、〝雷〟で着火した〝消えない炎〟。

 その一撃をもって、〝神〟の〝キューブ〟に斬り込んだ。


〈手応え――〉

「あり……!」

 〝キューブ〟の強度は、すなわち〝波動〟の密度。

 〝雷〟が弾かれたのも、〝闇〟の鳥籠が破れたのも、空間が歪んで見えるほどに〝波動〟が寄り集まっていたため。

 とは言え、〝雷〟も〝闇〟も〝神力〟。〝神の力〟に違いはない。

 力負けしたものの、〝キューブ〟を歪ませ――そこを〝炎刃〟で引き裂いたのである。


〈キラくん!〉

 突破口を開いただけでは喜べない。

 そこからさらに、〝雷業〟を叩き込まねばならない。

 刀を引いて、手のひらを伸ばす――たったそれだけの動作が、〝神〟にとっては反撃にもってこいの好機となってしまった。


「分不相応」

「――ッ!」


 〝キューブ〟が、爆発した。

 間一髪のところでブラックの〝闇〟が壁となって割って入ったが――〝波動〟の衝撃波は、それをも貫通した。


「……ッ!」

 〝覇術〟でどうにか防いだものの、新たに左肩と右太ももが抉れる。頭も揺らされたことで、一瞬意識が飛んだ。

 そこを、エルトが〝スイッチ〟することでカバーしてくれる。


「ブラックくん!」

「分かっている……!」

 流石のブラックにも、余裕はなかった。


 突撃するのは分身体。

 数秒、〝神〟の意識をひきつけ、その隙に接近する。

 構える〝ペンドラゴンの剣〟には、密度の高い〝波動〟が絡みついている。

 当然、天使は分身体を捨て置き、ブラック本人の動きに注目するが――。


「〝雷鳴ガウバウ〟……!」

 エルトの咄嗟のサポートが邪魔をする。

 〝神〟は即座に〝キューブ〟を再展開。〝ガウバウ〟を防ぎ、そのさまを以て、ブラックへの牽制とする。

 だが――。


「〝シャドウゲート〟」

 〝神〟は、やはり戦闘慣れしていなかった。

 次の一手を読めていない。迫り来るものに対してのみ、策を張り巡らせている。しかも、すでに一度目にした策。

 それに対して、何も考えないわけがない。

 とりわけブラックは、キラもその底を知らないほどの天才肌。


「ぬ……!」

 〝キューブ〟に穴を開けるようにして渦巻く〝闇〟。

 そこへ〝ペンドラゴンの剣〟が突き立てられ――そのまま、一つとして抵抗もなく、〝キューブ〟内に白刃が侵入する。

 そうして、心臓部をとらえた。


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