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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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859.天使

「出来損ないの、人の子よ。十分に、策は編めたか?」

 そこにいたのは、言うなれば天使。

 一糸纏わぬ姿で翼を広げ、足裏にまで届く長い髪の毛をゆらめかせる。顔つきは端正で、手足は細長く、胸が大きい。


 しかしその一切に艶かしさを感じないのは、彫刻のように真っ白のため。

 それだけに異様で、異質で、不気味。

 辺り一帯は天使の放つ〝気配〟で満たされ、気を抜けば失神してしまいそうなほどのプレッシャーを感じる。


「まさか……。神サマ自らがお出迎えとは。驚きも驚きじゃん」

「しかも……。ヒトの言葉を以って対話が可能とは。――どういうつもりだ」

 最初から何もかもが想定外だった。

 〝神〟自らが仕掛けてくることも、その姿が俗にいう天使であることも、そしてその大きさがさして人と変わらないことも。

 漠然と巨大生物を想定していたが……戦い方が変わってくる。

 キラは〝覇術〟で警戒し、エルトも〝波動術〟の用意を始めた。刀を何回か握り直しつつ、〝神〟のわずかな変化も見逃さないよう気を張る。


「意志を、問いに来た」

 簡潔な答え方に到底意図など見出せず、キラは口を開いた。

「意志? なんの?」

「我に敵対するか? 未来に生きる人の子よ」

「そこまで分かってんなら、聞くまでもないじゃん。僕らは、ネメアたちに恩を返す――退いてもらうよ、神サマ」

「――無謀な」


 ――この数十秒で、分かったことがいくつかある。

 一つ目。先ほどの鋭い勘には理屈がある。

 〝六つ目の獣〟の強い〝気配〟が充満している中にあっても、それを払ってしまうほどの〝力〟が先走りしたのである。


 二つ目。

 どうやら〝亜空〟は、〝波動〟と強く結びついて発動するらしい。〝波動〟が先走りして強く反応したのがいい証拠である。


 そして三つ目。天使の姿は、〝神〟の本当の姿ではない。

 ヒトでいうところの心臓に、〝力〟が押し込められている。何か理由があって天使の彫刻を義体として利用し……全力を出すことができない。

 ただ、それらが分かったところで――。


「消えた――」

〈キラくん!〉

 敗北は、濃厚。


 〝覇術〟で〝気配〟の動き方に気を配り、防御面を展開して奇襲にも備えていた。

 なのに――初手で、脇腹を抉られる。


「ウゥッ……!」

 痛みが走り、体幹がぐらつく。


 倒れ込んでしまいそうなところを、ブラックが〝闇〟で支えてくれた。

 礼を言うべきところではあるが、それも忘れて〝神〟の〝波動〟の行方を目で追う。そうしながら、言葉を〝覇術〟にのせた。


〈〝覇術〟で防げる……!〉

 重い一撃を喰らったのは確か。

 ただ、おそらく本来ならば、内臓を全て持っていかれていた。体を真っ二つにちぎられもしていただろう。

 それが、脇腹を裂かれるに留まった。


 〝亜空〟の力がそれだけ〝波動〟に頼り切っているという証拠でもあり、〝覇術〟でいかにうまく消耗を減らしていくかがキモとなる。


〈防御面は展開必須!〉

 そのタイミングで、エルトが表面化してカバーに入る。

 同じように痛みにうめきながらも、〝覇術〟で無駄な出血を防いでくれた。


「ふうッ――キラくん、分析!」

 〝神〟の移動先は、背後。瞬間移動で死角をついたのである。

 そこへ、ブラックが素早く仕掛ける。


「〝ダークケージ〟」

 〝闇〟製の鳥籠で、天使を閉じ込めた。

 〝闇の神力〟は、変わらず〝神の力〟。空間そのものに干渉する〝神力〟。相手が〝神〟だろうが、その事実が揺らぐことはない。


 〝波動〟の流れを断ち切るようにして〝闇〟で囲んでしまえば、〝神〟の力も封じることができる。


「我を、この程度で……」

 ただ、それも持って十秒程度。


 天使がキューブ状の亜空間を身に纏い、これを押し広げる。

 すると、内側からの圧倒的な〝力〟に、〝闇〟の鳥籠がひび割れていく。


〈――狙うべきは心臓部! 〝波動〟の流れの中心になってる! で――たぶん、今は人間的な使い方しかできない!〉

「ってことは……!」

「――〝授かりし者〟と考えるべきか」


 古代人たちとの特訓で磨かれたのは、〝覇術〟や〝雷〟だけではない。

 分析力とそのスピードも、桁違いに跳ね上がった。

 彼らを相手にした時、のろくさと思考している時間はない。

 何箇所も同時に注意を払い、わずかな仕草から生まれる小さな隙をついていかねば、到底戦いにならなかった。

 もちろん、エルトもブラックも同じように成長したが……この分析力だけは、二人ともから判断を任されるほどに確固たるものと昇華したのである。


〈エルト、十秒〉

「ん――待ってて、ぶっ放す」

 〝闇〟の鳥籠が破られる――前に、エルトが畳み掛ける。


「〝ベータ・チャンネル〟」

 エルト式の〝コード〟。


 名付けて、

「〝ドルフィン〟」

 〝生き物シリーズ〟。

 彼女曰く、生き物の名前そのものが符号となり――〝ドルフィン〟は、リーウの魔法から着想を得た充填方式。


 〝白い雷〟で形作った何頭ものイルカを周りに浮かべて、

「〝アタック〟!」

 そのうちの一頭が突撃をかます。


 空を泳ぐ白イルカが、〝闇〟の檻を壊そうとする天使に体当たり。

 同時に、ボンッ、と爆発。バリバリッ、と雷鳴を響かせながら食ってかかる。


〈――〉

 エルトが次々と〝ドルフィン〟を撃ち放つ。

 その全てが〝神〟に命中する――が、効いているわけではない。

 身の回りを囲った〝キューブ〟一つで、〝雷〟を完璧に防ぎつつ、〝闇〟の鳥籠も壊そうとしている。


 化け物という他にない。

 ただ、それは想定内。エルトも、分かった上で攻撃を続けている。

 得たいのは情報。

 戦局を左右せずとも、〝神〟という得体の知れない〝敵〟の理解を少しでも推し進めたかった。


〈――なるほど〉


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