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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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857.瀬戸際

 そして。

 作戦当日。


「見送りもなしってのが、一層リアルだ……」

「生きるか死ぬかの瀬戸際だ。あの〝獣〟をなんとかしたところで、待っているのは〝亜人〟。炎の海を裸足で渡る方がまだぬるい」

〈お別れは昨日全部済ませたんだもん。いなくなる私たちにまで気を遣うことはないよ〉


 不安は尽きないが、もう心配はしない。

 三千年もの間、地上の奪還を目標に掲げて、古代人はあらゆる準備をしてきたのだ。その覚悟もまた然り。

 ここにきてなお心配するならば、それは侮辱にも等しい。


「〝カゼキリ〟は乗り捨てていいって言ってたね。……すごい惜しそうだったけど」

「いくら知能が高くとも、古代人も設計図は残しているだろう。また造れる」

〈ブラックくん……それはデリカシーなさすぎ。ネメアちゃんにとって、自分の子も同然だったんだから〉


 〝六つ目の獣〟討伐作戦は、以前にマントスから聞いた通り。

 〝ママ・ポッド〟を配備した十四の〝雲島〟で、〝六つ目の獣〟を包囲。

 前線基地である〝ヘクトル〟からは、数十機の高速機動型の空舟が飛び出し、〝獣〟の弱点を探る。

 その弱点に対して、〝雲島〟がそれぞれの兵器でありったけの火力を叩き込む。


 とはいっても、包囲する前に〝獣〟に目をつけられては何も始まらない。

 そこでキラたち〝カゼキリ〟が、囮となるのである。

 〝獣〟の動きを釣るだけ釣って、〝キューブ〟で元の時代に戻れば……。大振りな動きしかできない〝獣〟は、展開していた〝雲島〟に大きな隙を晒すことになる。


 これを皮切りとして作戦が始動し……古代人たちが仕掛けている間に、〝キドウキューブ〟で〝神力〟を再起動し、元の時代に戻る。

 うまくすれば、ものの獣数分で帰ることができるだろう。

 とはいえ……。


「なんとかして引きつけたいけど……」

「無駄に長引かせると、かえって邪魔をする。ヤツの行動を釣った時点で、手を引くべきだ。何しろ……元の時代に戻ってからが本番だ」

「だ、ねえ……」

 〝カゼキリ〟に乗り込み、操縦席に座る。

 昨日、ネメアがあらかじめメンテナンスを済ませてくれたらしく、最初から〝簡易モード〟に設定されていた。


「出発は僕らのタイミングらしいから……。任せたよ、エルト」

 そうやって声をかけると同時に、エルトが表面化を果たす。

「さ、流石に緊張する〜……。おっこちたらごめんね?」

〈なんなら空中で乗り捨てても大丈夫でしょ。僕もエルトもブラックも、もうそんなことじゃあ慌てないし〉

「だね。ネメアちゃんに謝っとけばよかったかも」


 エルトは、〝カゼキリ〟のエンジンを始動させた。船内から唸り声のような重低音が響き、桟橋からゆっくりと離れる。

 ペダルをゆっくりと踏み込み、前進。両手で握ったスティックを左右に倒したり、前後に傾けて、感触を確かめる。


「じゃ――いくよ!」

 シールドを展開した後、徐々にスピードを上げ――アクセルを目一杯に踏み込む。

 〝カゼキリ〟の船底が雲の海を切り裂き、トップスピードに乗る。


「最終確認ね。このままいけば、あと十分で〝六つ目の獣〟の目の前に躍り出る。データ回収の時みたいに隠れるような真似はなし」

〈で、対峙したその一瞬だけ僕と変わって、ブラックと一緒に〝神力〟を叩き込む。引きつけたら、エルトとスイッチして、また操縦に集中〉

「そこから先は、正直どうなってるかわからない。〝六つ目の獣〟に喧嘩を売りにいくのは、これが初めてだからね。なんとか座標には到着するけど……マズイってなったら船を放棄して、キラくんのスマホで確認をするようになる。いいね?」


 その問いかけはブラックに向かっていた。

 彼もまたスマホを持つように言われていたのだが、キッパリと断っていた。

 随分と機械音痴のようで……スマホにもタブレットにも触れたがらないのだ。どうやら〝メモリーズ〟を使う際に、オロスと一悶着あったらしい。


「……離れないようにはする」

〈前の感じだと、〝六つ目の獣〟の放つ〝気配〟が強すぎて、気配面は役に立たないだろうからね。目視できる位置を意識しといたほうがいいね〉

 そう言っている間にも、〝カゼキリ〟は〝六つ目の獣〟の支配圏内に突入した。〝黄昏現象〟を思い出すような息のしづらさが襲う。


「シールド展開しててもこれって、ホント規格外……!」

〈ってか、データ回収の時とは比べ物にならない〝気配〟……!〉

 あまりの〝気配〟の濃さに酔いそうだった。エルトの操縦桿を握る手はわずかに震え、ブラックも立ちくらみでもしたようにふらりとする。

「長期戦は不可能だな……! 下手をすれば〝神力〟のコントロールも怪しくなる。しかも――」

「ね、ねえ……! なんか……なんか……!」


 〝六つ目の獣〟の封印が解ける。それはすなわち、〝再生する大地〟では〝獣〟を抑えきれなくなっているという証拠に他ならない。

 ならば、具体的に、どう抑えきれなくなっているのか?


「すっごくデカイんだけど!」


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