表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

883/961

856.夢・2

〈ん〜……。あ〉

 キラの目に入ったのは、スマートフォン。

 オロスやローガン、ほかにもわずかながらも付き合いのあった人たちから、メッセージの通知が立て続けに入っている。そのロック画面の壁紙には、ネメアたちと四人で撮った写真を設定済み。

 キラもまた感情が揺さぶられるのを感じつつ、それをグッと押さえつつネメアに声をかけた。


〈僕らはさ。未来に帰るんだよ。ってことは、ずっと先で待ってるってことで……。だから、追いかけてきてほしい〉

「追い、かける……?」

〈何千年か、何万年か、僕らの時代がどれだけ先のことかわからないけど。でも古代人が遺したと思われる〝神殿〟が世界各地で発見されてる。そのうちの一つが……ネメアたちが届けたものだったとしたら。これほど嬉しいものはないよ〉

「私が……私たちが……〝神殿〟を?」


〈せっかく〝ママ・ポッド〟なんて無限のエネルギーを手に入れたんだからさ。それを兵器だけに活用するなんて……夢がない。そう、思わない?〉

「……うん」

〈僕らがいた証は……ネメアたちと一緒に過ごした日々は、この時代のいろんなところに刻んだ。だから今度は、ネメアたちが確かにいたんだって証拠を……〝六つ目の獣〟も〝亜人〟もぶっ倒したんだって証拠を、僕らに届けてほしい。絶対、見つけるから〉

「うん……! うん!」

 ネメアはズビビっと鼻を啜り、目元を勢いよく腕で擦った。涙を目に溜め、鼻を赤くしつつも、満面の笑みを浮かべた。


「じゃあ、私の夢を叶えにいくよ」

〈ネメアの夢……?〉

「私さ。地上時代の小説とか映画が好きでさ。その中でも、地上時代の豊かな自然を描いたとこが一番のお気に入りになっちゃうんだよ。千年以上生きてはいるけど、本物の自然を見たことがないから」

〈本物……。そっか。生まれてからずっと地上が〝六つ目の獣〟のものだから……〉

「そう。――だから、この目で見たい。キラくんとエルトくんと、もちろんブラックくんも一緒に……冒険をしてみたい! 一面に広がる草原を、見上げるような山を、川のせせらぎを……一緒に……!」


 願いを口にするたびに、ネメアの瞳からまたポロポロと涙が溢れていき……それを手のひらで拭いつつ、彼女は続けた。


「単なる届け物じゃあ、いやだ。だから、きっと、三人が三人ともアッと驚くような方法で会いに行くよ。だから、見つけてね」

 ネメアは左手で涙を拭いながら、右手をそっと差し出してくる。緩く握った拳は、小指だけが力無く立っている。

 その指切りに、エルトが即座に応えた。


「もちろん……! 真っ先に見つけに行くよ! そしたら、いろんなとこに案内する。自然も、食べ物も、街並みも、友達も家族も……みんな、紹介するから。――だから、絶対、何があっても諦めないでね」

「わかった。絶対の、約束!」

 エルトとはもちろん、キラも体を入れ替わって指切りをする。その次にはブラックとも。


「エルト……。泣きすぎ。目が重い」

〈し、仕方ないじゃん……!〉

 完全に元気とやる気を取り戻したネメアは、今度は泣くことはなく、けたけたと楽しそうに笑っていた。


「ふふ……。こんなびっくり人間、そうそう見ることないよ。――ああ、一つ、聞きたいことがあったんだ」

 感情に揺さぶられたとは思えないほどの落ち着きっぷりを見せるネメア。

 スン、と鼻を啜るのを見る限り、まだその余韻が残っているが……それを押し殺すかのように、自前のスマホで忙しく何かを打ち込んでいく。


「〝始祖〟の名前って、わかる?」

「あれ、そういえば言ってなかったっけ。ディオ・アルツノート……だと思う。僕が無意識に口にしてたみたいでさ」

「ふ〜……ん。面識があるのかな。私の知らない名前だから、ほっとしたと言うかなんと言うか……。さっきの〝約束〟とは別に、こっちの方でも届け物を準備しておくよ」

「何か策があるの?」

「いいや、全然?」

「おお……?」

「けど、何があってもいいように……君たちが打ちたい手を打てるように。万全の準備をしておく」

「ありがとう。……ちなみにさ。スマホでネメアたちの〝神殿〟の位置が分かるようになったりって、出来ないの?」

「もちろん、できるよ。昨日、スマホをあげるっていったのはその関係でさ」


 実を言うと、最初にネメアに貸してもらったスマホと、今手にしているスマホは別物。

 ガジェット・オタクなネメア曰く、もらったスマホ……〝マイフォン〟は、一通りの機能を詰め込んだ逸品らしい。

 そうでありながらも、デザイン面にも妥協がないのだとか。サイドのヘアライン加工がどうの、背面のガラス感がどうの……。


「初めは〝神殿〟を開くためのカギになればいいなって思ったんだよ。〝マイフォン〟には色んな解析技術と、それを自動でこなしてくれる人工知能が搭載されてるからさ。機械が相手じゃなくても、〝波動〟が関与している限り、その分析をしてくれるのさ」

「へえ……」

 素直にすごいと思ったからこその生返事だったのだが、ネメアは無反応にすら思ったらしい。随分としょげてしまった。

 が、次の瞬間には、きらりと目を輝かせることになる。


〈すっっっっごぉぉい! スマホ一つでなんでも解決っ? 便利!〉

「……! でしょ、でしょっ? 技術班イチオシなんだよ! 〝波動周波数〟だって検知して解析するんだから、そりゃもう無敵だよ! その分、ちょっと重いけど」

〈へえぇぇ……!〉

 強く長く反響するエルトの声に、自慢げに胸をはるネメア。どうやら、その『へえぇぇ……!』が答えだったらしい。


「でさ。どんなに〝神殿〟でもこじ開けられるはずなんだけど……私たちが自前の〝神殿〟を用意したら、って考えたらさ。ディオ・アルツノートに一つも指を触れさせない、キミたち専用の〝神殿〟が出来上がるじゃん、って思ったんだよ」

〈わあ……! 隠れ家でアジトってわけだ。でも……大丈夫かな? どれだけ時間が経つかもわからない上、〝始祖〟の正体だってまだ何もわかってないのに……〉

「平気だよ……って断言しきれないのが悔しいとこだけど。どれだけ凶悪な力を持っていようとも、私たちの頭脳が劣るはずはない。って、前向きに進めていくよ」

〈カッコイイ……! キラくん、私たちも負けてらんないよ!〉


 それから……。ネメアの時間が許す限り、〝六つ目の獣〟も〝始祖〟も忘れて、目一杯におしゃべりを楽しんだ。


【お知らせ】

2週間ほど投稿をお休みします。

再開は7月16日(水)。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=811559661&size=88
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ