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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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852.明日

   ○   ○   ○


 〝六つ目の獣〟に対する作戦決行日が決定した。

 明日である。

 想定では、〝獣〟が解き放たれるまでには数ヶ月の猶予があった。だから余裕を持って一ヶ月と早めな準備期間を設けた。

 しかし〝六つ目の獣〟の脅威は、どこまでも古代人の想像を上回る。

 一日に一回、その封印具合を確かめにいっている調査隊から、限界ギリギリであるという報告が上がったのである。

 この時代にやってきて、二十一日目のことだった。


 そういうわけもあって、皆が急激に慌ただしく動き始めた。

 なにせ、人類の存亡をかけた戦いが始まるのである。

 〝ママ・ポッド〟の稼働確認に、各種兵器の配置に、〝雲島〟の移動準備に……。やるべきことはてんこ盛り。

 ネメアもイーロンもロンガも、そのほかこの短い期間で色々と付き合いのできた古代人たちは、みな戦争の準備に駆り出されていた。


「いよいよかあ……。大丈夫かな」

 キラがいるのは、〝第一訓練所〟のレストエリア。

 アリーナエリアも近いということで、ついぞ自分の部屋をもらうことはなく、畳に布団を敷いてごろごろすることが多くなったのである。

「……大丈夫だろう。今や古代人全員が〝覇術〟使い。心配するだけ無駄だ」


 この時代に飛ばされる前までは想像もしなかったことだが……この三日ほどで、ブラックがきちんとした受け答えをするようになった。

 意外と肉は苦手で、意外と酒をよく飲み、意外と日光浴をして……割とどんな質問でも答えてくれる。

 〝メモリーズ〟の内容を知ってから少しずつ変わった態度に、もはや疑いはない。随分と義理堅い彼は、それが最善と考えたのだろう。


「そういえば……。〝魔素〟を複製して限定的な魔法を使えるようにしたんだっけ……? 兵器の強化に特化してるとは言え……もう意味がわからない」

「可能か不可能かならば、間違いなく可能なのだろうが……。脅威的なスピードだ」

〈それだけ〝亜人〟に対する危機意識が高いってことだよねえ。〝覇術〟が使えるようになったから兵器を蔑ろにするんじゃなくって、兵器を違う形で強くできないかって発想しちゃうんだもん〉


 古代人たちは、もうすでに準備万端。むしろ憂慮すべきはキラの方。

 身につけるべきものは全て身につけた。

 〝覇術〟は完璧にマスターし、その応用も使える。〝波動術〟も、ネメアたちのように万能とはいかないまでも、〝妖力〟や〝殺し合いの定め〟をコントロールするくらいには完成度を上げられた。

 エルトもブラックも、戦闘面ではもう心残りはないと言えるだろう。

 問題となるのは、元の時代に戻った後のこと。あの時、あの瞬間に戻れたあと――いかに、事態を収めるか。


「ってか……。実際、何がどうなってたんだっけ? 〝モンテベルナ・ファミリー〟と〝バレンシア・ファミリー〟が抗争に入って……その偵察に行ったら〝人形〟と戦うことになって……。〝始祖〟が現れたって分かったから……それで?」

〈海賊と戦ったよね。〝ローレライ〟の。本隊……とかなんとかいってたような。あんまし覚えてないけど〉

「こっちで二十日も経ってるからなあ」

〈っていっても、そのあとはブラックくんと戦った……くらいしかなかったような。だよね?〉

 畳の上で寝返りをしつつ、ブラックの方へ視線を送る。すると彼は、なにか気まずそうにそろっと目を外した。


「まあな」

「……何?」

「何がだ」

「いや、だって……。なんかありそうだった」

「……。〝ローレライ海賊団〟の存在を、今、思い出しただけだ」

「……? ……。そういえばなんでリケールに……アベジャネーダにいたの?」

「〝忌才〟を追っていた。俺の記憶を取り戻すために」

「ん……。エマールたちと一緒に、そのなんたらってのもアベジャネーダに逃げ込んだんだっけ。……タイミング良すぎじゃん?」

「まあ……。〝ローレライ海賊団〟と行動を共にしてたからな」

「……おう?」


 関係ないことではあるが、こうして間近でブラックをまじまじと見つめるのは初めてだった。

 敵として対峙した時には、白く長い髪と血のような眼がひどく冷徹なものに思えた。

 表情はそれほど動かず、仮面をかぶっているかのようで、人間味がない。


 しかしゆったりと共に過ごすと、セレナと同じように、ブラックもまた感情豊かだった。

 時にツボり、時にムッとして、時に凹む。

 一つ一つが漣のように静かなだけで、しっかりと感情を揺さぶられている。

 今、こうして、見つめている間にも、ブラックが何を考えているのか手に取るようにわかる。

 表情に動きはないが、決して目を合わせようとしない。腕を組み直して、身じろぎをして……少し遠ざかった。


「別に、悪いことじゃない……って〝元帥〟が言ったらアレだけど。隠すようなことでもないでしょ。あの時は敵同士だったんだし」

「……ならなぜ見つめる」

「いやあ……。ちょっと意外だったからさ。ん……でも別にそうでもないのかな。口数少ないだけで、結構社交性あるもんね。まあ、ともかく、〝ローレライ海賊団〟にいるなんて考えてもなかったからさ」

「成り行きだ。〝ローレライ〟の総督……ヒューガが喧嘩をふっかけてきたから、それを買った。で、奴の扱う〝覇術〟に興味が湧いた」


「ああ、だから〝覇術〟を……。それで、アベジャネーダを乗っ取りに動いたわけだ」

「俺は海賊としての動きになど興味なかったが……〝忌才〟の逃げ込んだ先となれば、無視はできない」

「そりゃあ、確かに。じゃあ、街中にぽつぽつ船が落ちてたのは……」

「〝闇〟で雲を渡り、全艦をリケールに突っ込ませた」

「おお……。大胆すぎる作戦……。まあ、アベジャネーダ落とすにはそれくらいで十分か」

 リケールに住む一般市民からすればたまったものではないが、それは言わないでおいた。


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