851.照
「それで……。三種類の〝魔素〟が見つかった、っていうのは?」
「〝波動周波数〟にはさ、それはもう何億っていう膨大なパターンがあるわけだけど……人だけが持ちうる周波数、っていうのもあるわけね。言うなれば人由来の周波数に、二種類の〝魔素〟が反応したわけ。あとひとつは自然由来のものね」
「人由来が二つに、自然由来が一つ……。んー……? じゃあ、外から吸収したものがそのまま残ってるものがある、ってこと?」
「そういうことだね。外から〝魔素〟を取り込んだものの、うまく自分のものにできてないカンジ。エルトくんもちらっと言ってたけど、〝魔素〟と〝神力〟は磁石みたいな関係らしくってさ。たぶん、取り込めなかった分は、そのまま排出されるんじゃないかな」
「ってことは……。〝治癒の魔法〟を目一杯に受けられる方法はなさそうだなあ……」
エルトと親子のような関係にあるキラではあるが、彼の方は随分なリアリスト。徹底的に現実から目を逸らさない。
悔しそうに唸りつつも、ひとつ呼吸をしてすぐに切り替えた。
「で……。人由来の〝魔素〟が二つあるってところ。一つは、普通に考えて、人に適合した〝魔素〟なんだろうけど……。もうひとつは?」
「答えはもう出てるよ。そのもう一つが、〝妖力〟なんだよ。名付けるなら〝魅了の妖力〟だね」
「え? ……ああ! えっ?」
「ふふ。確認は簡単だったよ。なにせ、私がキラくんの肌に触れただけで、〝妖力〟が強制発動されたんだから。しかも、〝妖力〟が〝波動周波数〟に合わせにいってたんだから……そりゃあ、コントロールも難しいよ」
「い、色々ビックリだけど……。パンツ以外脱がされたのって、やっぱあのためだったの……」
キラが微妙な顔つきをして、ネメアがそれを笑う。放心状態だったエルトもハタとして意識を取り戻し、興味津々で会話に入る。
そんな三人の様子に、ブラックは今までにない感情を抱いた。
ただそれが一体なんなのかわからず……考え込んでいるうちに、話が前に進んでいた。
「キミたちのいう〝妖力〟は、ただ一つの魔法にのみ特化した力だと考えて間違いないよ。そしておそらく、〝覚醒〟ともいうべき幅の広がり方がある」
「……! それ、ここに来る前に……この時代に飛ばされる前に、ちらっと聞いてさ。〝覚醒〟?」
「〝波動周波数〟を当てて探したって言ったじゃん? で、三種類の〝魔素〟を見つけたわけだけど……それぞれ反応の仕方が異なってたんだよ。まず人由来のを見つけて、次に自然由来の。この二つは複数パターンに反応したんだけど……〝妖力〟はそうじゃなかったんだよ」
「その反応の仕方に、広がり方を感じた?」
「そ。さっきからパターンって簡単に言ってるけど、周波数帯のことを言っててね。一から十までをとりあえず一緒くたにまとめて照射、ってカンジで割と大雑把なんだよ。他の二つは一から十まで割と均等に反応したけど、〝妖力〟はランダムでね。反応するところもあればしないところもあって、一秒前まで反応してたのに消えるってこともあったの」
「ふん……? ようは、その周波数帯ってやつを把握して、全部に反応できるようにすればいいんだ?」
「言葉にして言えば、そうなるね。なんでそんなに不安定なのか原因がわかれば、一発な気もするんだけど……。時間がね」
「いやあ、これだけわかれば十分さ。それで、結局のところ、〝波動術〟を使わないとコントロールはできない?」
「十中八九。だから当面の間、〝魅了の妖力〟と〝殺し合いの定め〟を目標に定めて、〝波動術〟体得に向けて動いてくカンジかな。たぶん〝魅了〟を重点的に試していくといいよ」
「? なんで?」
「さっきも言ったように、普通はこっちが〝波動周波数〟を合わせていくところを、〝魅了〟が自ら合わせにいってるんだよ。オート発動。ってことは、感覚的に〝波動周波数〟が動いてることを認識できるはず。そこから掘り下げていけば……」
「けど……。それって、協力者が必要でしょ? ネメアが手伝ってくれるの?」
「う〜ん……残念なことに、私も忙しい身でね。顔を見せることはできるし、手伝いもするけど……。う〜ん……」
ネメアはひどく葛藤し、頭の中でいろんな計算で、うんうんと唸った。しかし結局は、人類存亡をかけた戦いを前に諦めざるを得なかったようだった。
「あの甘美な感覚を別な女の子に奪われちゃうの、ホントはイヤなんだよ。イヤなんだけど……。仕方がないから……。他のコたちをちょくちょく連れてくるよ」
「そ、そんなに……? いったい、どんな……いいや。聞きたくない」
「聞きたい? ホントすごいんだから……!」
「嫌だ嫌だ嫌だ……!」
異性ということで何か後ろめたいものを感じているのか、耳を抑えるキラ。しかし、エルトはその逆であり、自分が体験できない感覚について興味があるらしい。
結果、声にならない声で喚きながら、耳を掌で塞いだり開けたりするという、気が狂ったようなキラの姿が出来上がり……。
ブラックは、フ、と口角が持ち上がったのを自覚した。
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