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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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849.喧嘩

「キラくん、今いいかな? 話に聞いてた〝妖力〟の解析結果が出てさ。あ、ロンガも聞いてく?」

「冗談キツイって……。限界ギリギリの戦いをもう十回こなしてんだぞ? クッタクタなの。帰って寝る」

「えー? 面白いのに」

「それよか〝覇術〟ってのの検証を終わらせてくれ。間近で体感したらワクワクが止まんなくってよ……!」

「〝殺し合いの定め〟の制御方法をあとちょっと詰めなきゃなんだよね〜。まあ明日には何とかなってると思うから、もうちょい待ってて」

「おっしゃ、頼むぜ!」


 ロンガは疲れを忘れたかのように、ルンルンで訓練所を出ていく。

 ネメアはその背中に一つとして興味がなさそうだったが、キラは自動ドアが閉じるまで目を離せずにいた。


「ロンガも〝覇術〟使うって話?」

「まあね。ってか、みんなサンプルでもいいから欲しいって言っててさ。そういうんじゃないって言ってんのに」

「古代人なら一日かそこらで使いこなせそうだけど……。やっぱ〝殺し合いの定め〟がネック?」

「ま〜ね〜。割と困ってる。キミらに協力してもらって、〝殺し合いの定め〟は〝侵蝕の性質〟の一部なんだって分かってるんだけど……取り除けないんだよね〜。芯に絡みついてる感じでさあ。無理やり引き剥がすと、侵蝕度合いが低まっちゃって、〝神力〟がエネルギーを取り込めなくなるんだよ」

 ネメアたちでお手上げとなると、キラにはわかるはずもない。一応それらしく考えてみるものの、てんでダメだった。


〈〝神力〟同士が殺し合いをする原因ってわかったの? そこに可能性はないの?〉

 エルトが話しに割って入る。

「いや〜……それが分からずじまい。観測するたびにちょっとずつ違っててさ。見てて思ったのは、なんか喧嘩してるなあ、みたいな?」

〈喧嘩? 〝神力〟が? 人格なんてもちろんない……よね?〉

「馬鹿馬鹿しいけど、一応その可能性も考慮してみたよ? まあでも、もちろんそんなものはなくって……。ただ、そうやって考えたことでちょっと進展があったんだよ」

〈進んじゃったの? 研究が〉

「っていうより、ちょっと面白い仮説が組み上がったんだよ。名付けて、『カミ同士に相性があるんじゃないか説』」


〈相性って……。人格的に?〉

「そ。つまり、仲のいい〝カミ〟たちと、仲の悪い〝カミ〟たちがいるんじゃないか、って話。そう考えると結構辻褄が合う動き方をするんだよ」

〈え〜? うっそだあ。だって……そんな、神様がケンカするなんてこと……〉

「ありえない?」


〈ん〜……。私の知ってる神話じゃあさ。〝古代戦争〟ってのが出てきて……神様同士の戦争がやがて人類を巻き込んでる、ってやつなんだよ。だから……ん〜……だけど……〉

「ま、なんにせよ。〝殺し合いの定め〟に関して出来ることは限られてるんだよ。投薬で何とかするか……〝波動術〟で押さえ込むか」

〈〝波動術〟で……? 〝覇術〟じゃなくって?〉

「問題になってるのはその〝覇術〟……〝ハドウ・コピー〟。って考えたら、こういう場合は別物として捉えたほうがいいんじゃ、って。それに、実際、全くの別物だからさ」

〈ってことは……? 私たちも〝波動術〟使えなきゃいけない?〉

「そういうこと。〝覇術〟よりカンタンだし大丈夫だよ。まあ……別の難しさはあるケド。――まあそれはそれとして!」

 ネメアが急に声色を変えて、興奮気味に切り出した。


「〝妖力〟だよ、〝妖力〟! その正体、聞きたい?」

「そりゃもちろん聞きたいけど……。僕も体だけは十回も戦い通しだったからさ。疲れたし、汗かきっぱなしだし、喉乾いたし……。だらだらしながら聞きたい」

「ふん? じゃあレストエリアにいこっか。ごろ寝なら畳が一番だよ。布団も完備してるから寝落ちもオッケー」

「畳……この時代にもあるんだ。……うん?」


 疲れ切った体では、寝転んだ状態から起きるのも億劫。ネメアに手伝ってもらいながら上半身を起こし、何とか一人で立ち上がる。

 あまり足に力が入らず、ふらっとしたところへ、ブラックが支えてくれた。


「おう……?」

「〝妖力〟とやらには興味がある。俺も行く」

 珍しいことに……とはもはや言えないくらいに、この数日間、ブラックが行動を共にするようになった。

 そもそもこうして隣り合わせで訓練をしているのも、いつの間にか彼が横を陣取ってきたからである。


 何を考えているかさっぱり。

 以前ほどの敵意もなければ、殺意も感じることはない。ただただ、視線が色んなところに突き刺さってくるだけ。

 原因は、明らかにレオナルドの〝メモリーズ〟。

 そこに詰め込まれていた全てを知り……何か思うところがあったのだろう。〝メモリーズ〟を返してくれたその日から、一時間として離れることがないのである。


「よし! じゃあ、二人ともサッパリしてから、不思議な〝妖力〟のお勉強といこうか」

 随分と奇妙なことになってきたが……悪い傾向ではない。

 何か一つでも間違えば、レオナルドの〝作戦〟を知っている分、ブラックが敵に回った際に厄介なことになるが……今は、そんなことにはならないだろうと信じる他になかった。


   ○   ○   ○


 ブラックにとって、最も古い記憶。

 それは、〝子どもたちの楽園〟が消滅した日にある。

 燃えるような真っ赤な空に、延々と鳴り響く警鐘、そして大人たちの悲鳴と怒号。


 その次に覚えているのが、みなと一緒に逃げているところ。

 何があったのか、どんな経緯を辿ったのか、その一切を思い出すことができないが……ともかくブラックは、他の子どもたちとともに走っていた。


 真っ赤な空から炎の雨が降り注ぎ。黒い風がうなりを上げて雲をかき混ぜ。巨大な津波が〝楽園〟に暗い影を落とす。

 間違いなく、この世の地獄。まるで神々が喧嘩しているかのような光景である。


 その次の記憶では、何があったのか、レオナルドの背中に担がれていた。

 彼と、ランディと、もう一人粗暴な誰かの頼もしさを感じつつ……背後を見たのである。

 〝忌才〟ベルゼが、笑っていたのだ。〝楽園〟に訪れる地獄を前にして、それはもう嬉しそうに、幸せそうに……その瞬間を噛み締めていた。

 夢に何度もその光景が出てくるのだから、ベルゼを追うのは道理と言えた。


「〝妖力〟ってのはさ。君たちの言う魔法なんだと思う」

「……へ?」

〈は……?〉

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