847.コード
データ回収から一週間が経った。
「——やるなぁッ……!」
PTSD、〝魅了〟、〝殺し合いの定め〟……。解決すべきことは様々あったが、キラは基本的に鍛錬をして過ごしていた。
諸々の問題に古代人たちが挑んで繰れているのだ。
〝ママ・ポッド〟開発における〝雷の神力〟の提供、および〝覇術〟こと〝ハドウ・コピー〟の譲渡は、どうやら彼らの根本を揺るがす歴史的大事件だったらしい。
「〝抜刀〟――」
この世界のあらゆる事象に〝波動〟が絡んでいることも大きい。〝覇術〟を完璧に体得することは、すなわち〝波動〟を操ることにも直結する。
「〝閃〟」
〝覇術〟のマスター化は、ほぼ終えた。
たった今繰り出した抜刀術による〝飛ぶ斬撃〟も、ミスなく放つことができる。
おかげで、ホログラムなどではない、本当の古代人を相手にしても戦える。
とは言っても、そこでようやく五分五分。
オロスの一番弟子を自称するロンガは〝波動術〟を使うものの、練度が桁違いに高い。
奇襲的に、飛び道具的に、タイミングも測って撃った〝閃〟。それをロンガは、硬化した腕で弾いてみせた。
「……ッ!」
「まだまだ判断が甘いなあ! 刀の切れ味とイコールってわけじゃないんだ、ぜっ!」
一瞬の動揺も、古代人相手には命取り。
腕の硬化と、脚の強化。ロンガは二つの〝波動術〟を重ねがけして、防御しながら突っ込んできていた。
瞬く間に、懐に潜り込んでくる。
やられる――少し前ならば、そう確信していただろう。
だが今は、
「――〝ショット〟」
〝コード〟を使える。
〝雷〟による衝撃波を咄嗟に放ち、ロンガを吹っ飛ばした。
「ぶへっ」
最初は、〝雷の神力〟そのものの制御を試みた。
が、古代人たちをもってして、現状では不可能という判断が下された。
最大出力二十パーセントまでならば調整ができる。実際に技もいくつか編み出すこともできた。
しかしそれ以上となると、途端にコントロールが効かなくなる。
百パーセントの力を目一杯にこめることはもちろん可能なものの、三十、四十、五十、と刻むことができないのだ。
「カーッ! ったく、なんなんだ! 組み立てもへったくれもねえ!」
「そりゃこっちのセリフさ……!」
ネメア曰く、『制御機能が欠けている』。
ツギハギだらけの体が原因かとも思ったが、どうやらそうではないらしい。
驚くべきことに、ブラックも同じ状況だったのだ。
振り返ってみれば、剣に纏わせたり分身を作ったり、ある程度コンパクトにまとまった使い方をしていた。
ただ違うのは、〝闇の神力〟の性質上、百パーセントを放出したまま維持できるということ。
むしろ周囲を〝闇〟で満たすのが強みであり、一撃一撃を小分けに放つことに重きをおく〝雷〟とは根本的に立ち回り方が異なる。
そういうわけもあって、本格的に〝コード〟を会得する方向に舵を切ったのである。
「〝ベータ・チャンネル〟――」
まだ感覚頼りの技もあるが、〝コード〟の実態は解明済み。
使えるものをオロスやネメアに一通り見てもらったところ、その仕組みがあっけなく判明したのである。
「〝パルス・オクタ〟」
「――っぶね!」
〝コード〟とは。
〝覇術〟を最大限活用した〝雷〟の技。
おそらくは、『前のキラ』が編み出したコントロール方法である。
「曲がれ……ッ!」
「――追尾すんのっ?」
どういうわけか、〝雷〟の制御機能が欠けている。故に、二割までの小技か全力の大技かという、大味な使い方しかできない。
それを解消するために、『前のキラ』は〝覇術〟を取り入れたらしい。〝波動〟を導線にして、〝雷〟を細かく操る。
〝覇術〟さえしっかりと使えれば、全開してしまう出力を絞ることが出来るのだ。
〝チャンネル〟はその加減のための符号。〝覇術〟と〝雷〟をどのくらいの割合で練るのかという指標となる。
「ってか〝ベータ〟って、五割以上じゃなかったっ? 容赦ねェ!」
「〝アルファ〟をことごとく破ったくせに……!」
〝雷〟を矢継ぎ早に放ち、しめて八本で狙い撃ちする〝パルス・オクタ〟。
ロンガは文句を言いながらも、〝波動〟を纏わせた剣で次々と打ち払う。剣はもちろん、人一人など簡単に飲み込めるというのに……。
「――そういう使い方もある、か」
以前までならば舌打ちをする他になかっただろうが、今のキラはロンガが何をしているのか理解できた。
彼は、剣に纏わせた〝波動〟を、〝雷〟に向けて放出している。
そうすることで一瞬だけ足止めしつつ、再度〝波動〟を剣身に纏わせ、今度は斬る。
それを、一秒にも満たない時間で、文句を言いながらもやってのける。改めて、古代人の無茶苦茶っぷりに舌を巻いた。
「そら、突破したぞッ!」
ほぼ無傷で〝パルス・オルタ〟を捌いたロンガ。
だがいかに古代人といえど、〝雷の神力〟相手には神経をすり減らす。まともに喰らえば継戦は不可能なのだ……緊張感は計り知れない。
ゆえにロンガは、少しばかり息が上がっていた。疲労の色が顔に浮かび上がり、呼吸も乱れ始めている。
古代人相手に隙と言える隙ではないが――キラは果敢に攻めることにした。
「〝アルファ〟——〝プラズマ〟」




