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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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840.愚の骨頂

「あ。もしかして〝覇術〟って、〝波動の神力〟だったりする?」

〈――えっ! なんでわかったのっ? いまひとつもそんな考えだしてなかったじゃん!〉

「え? 見当はついてるって言ったじゃん? 〝氷の神力〟と〝雷の神力〟を研究してた時になんとなく気付いてたよ。〝侵食〟の性質が被ってたもん」

〈う〜……っ!〉

「そんな血反吐はくみたいに……。まあでも、キミらのはオリジナルじゃないみたいだけど」

〈どういうこと……?〉

「ようは、〝覇術〟は〝波動の神力〟のコピーってこと。〝神力〟の〝侵蝕の性質〝と、〝覇術〟の〝侵食の性質〟……似てるけど、ちょっとずつ違うところがあるからさ。〝神力〟ってやつを考えれば、〝覇術〟はコピーなのかなあって」


〈で……? なんで今それ言ったの?〉

「ん〜……エルトくんが言いたかったのはさ。魔法と同じ要領で〝覇術〟が使えないか、ってことでしょ?」

〈うん、まあね。純粋に魔法の謎を知りたいってのも大きかったけど〉

「それを、私も体感してみたいんだよ」

〈んえ?〉

 つとネメアが立ち上がり、ぐぐっと伸びをする。


「ジャージなんて何十年ぶりってカンジだけど……。動きやす〜い。テキトーに黒いの引っ張り出したけど……もうちょっとカワイイのが良かったかな」

〈え、えっ? ちょ、ちょっと待って? もしかして……〉

「メカニックとしてはさ? 兵器造りやら船の改造やら〝ママ・ポッド〟の開発やら……そういう事前準備で私たちの戦いが終わっちゃうんだよね。もちろん、戦闘中の整備は欠かせないけど、それでも暇を持て余しちゃうわけ」

 おそらくオロスは、事前に話を聞いていたのだろう。

 ネメアにちらりと視線を送ったものの、特に止めることはなくブラックに講義を続ける。


「それに……。みんな気づいてんだよ。いくらキラくんに協力してもらって、無限のエネルギーを実現したところで、私たちの主戦力は兵器。たとえレーザー兵器だろうと毒ガス兵器だろうと……計算ができてしまうんだよ」

 ネメアが持っているのは注射器。

 その中にはどろりとした血がたっぷりと入っている。


「〝六つ目の獣〟には有効かもしれない。だって、言っても何千年の付き合いなんだから。けど、〝亜人〟は違う……〝亜空〟だけが〝神力〟の全てだなんて、到底思えない。私たちの想定を超えた〝力〟を有しているに違いない」

〈だからって……。危険だよ。だって〝覇術〟は……〉

「教えてくれたもん。知ってるよ。だからこの血の取り扱いに、みんなが注意できたんだ。――計算できるようじゃあダメなんだ。もっともっと底知れないものを手に入れないと。それに……〝獣〟から逃げ切ったキラくんの姿を見て憧れないなんて、愚の骨頂だね」


 そう言ってネメアは、躊躇いなく注射器を腕に刺した。

 どうやら古代人をまだ見くびっていたようだと、キラはつくづく思い知った。

 彼ら彼女らは、夢やら憧れやらに目がないらしい。それこそが本質と言ってもいいのだろう。

 だからこそ探究し、だからこそ没頭し……だからこそ、〝終末戦争〟にまで発展した。良くも悪くも、状況によらずに突き進む。

 今、目の前で起こったことが、この先にどんな結果をもたらすのかはわからない。

 だが少なくとも――。


「お〜……このざわざわする感じが〝侵食〟かあ。これが全身に渡って、その後に本格的に症状が出る……。――ちょっとじれったい」

〈う、うそ……。一分も掛からずに……?〉

 夢の先に地獄があると知っているのならば、それをも容易く乗り越えていくのだろうと確信できた。



 

 〝覇術〟を自在に操るには、〝波動周波数〟のコントロールが必須。

 今まではそれを〝深く長い呼吸〟として理解し、実践的に使ってきた。

 ただ、ネメア曰く大雑把。

 キラが〝気配面〟を得意としているのも大きいが、あまりにもざっくりとした使い方のため、〝防御面〟や〝攻撃面〟を掴みきれていない。

 コーラが好きなのに炭酸水で我慢するようなもの、らしい。


 とは言っても、〝波動周波数〟を意識してコントロールするには、古代人ですら数年かかるらしい。

 そもそも人間の機能的にはあるはずのないものであり、長い時を生きるからこそ見出せたバグ技……というのがネメアの見解だった。

 それはつまり、真の意味で〝覇術〟を支配するには圧倒的に時間が足りないということ。

 そこでネメアが提案したのは、〝ことだま〟の応用。


『キミらが私たちのあとをなぞる必要はないんだよ』

 と彼女は言った。

『そもそもの目的は、〝覇術〟を無意識下で操れるようになること。キラくんの〝未来視〟みたいに、技一つ一つを脳みそに叩き込んで……望むもの全てを身につければ。私たちと大差はなくなる。〝波動周波数〟の完全掌握は後からでもいいんだからさ』


 気配面、防御面、攻撃面。

 それぞれに該当する技を一つずつ、〝マスター化〟を目指す。

 それを一つのセットとすると、三セット習得が合格ライン。五セットまでできれば、それぞれの〝面〟を感覚的に掌握できる。


『さっきキラくんの血を飲んだから、私も晴れて〝覇術使い〟なわけ。メカニック一本で生きてきたから、戦闘経験もない。〝波動術〟で応用はできても、戦い向きの技は一つもないわけ。つまり、キミらと同条件……よりちょっと出遅れてるカンジ』

 ほんの数日であっさりと抜かされそうな気もする……という余計な感想はさておき、ネメアがこう続ける。


『肝心の〝マスター化〟の方法だけど。エルトくんの言っていた〝ことだま〟の原理を応用しようと思うんだ。っていうのも、〝波動周波数〟をざっくり動かすだけなら、〝呼吸法〟でもいいんだよ。だけどそれだと足りないから、〝ことだま〟っていう方法も追加するっていう、単純な理屈だね』

 すなわち言葉による〝マスター化〟。エルトのロマンが役立つ時が来たのである。


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