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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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839.反復

「じゃあさ……。僕らは〝呼吸〟を通して〝覇術〟を使ってるんだけど、それは……?」

「ああ、やっぱり? 深くて長い、心を落ち着かせるようなあの呼吸方法でしょ? それも一つの手として、正解だね」


「ってことは……。もっと、他にもやり方が?」

「もちろん。無数にあるよ。それこそ不思議に思わなかった? あんな激しい戦闘中、〝深く長い呼吸〟なんて保ってられるわけもないのに、なんで咄嗟に〝覇術〟を使えるんだろ、って。発動条件がその呼吸法だけに限定されてるなら、普通、ぱたっと使えなくなるじゃん?」

「そう言われれば……そうかも。慣れでなんとかなってるって思ってはいたんだけど……」


「その認識は間違ってないよ。キラくんの脳が、〝覇術〟の〝波動周波数〟を覚えて、弱かろうが強かろうがなんとか捻り出せるように成長したんだ。とくに、キミの言う〝未来視〟ってやつは、模擬戦中に何度も呼吸を無視して発動してる」

「おー……。人に……それも古代人に観察してもらうって、それだけで効果があるんだ」

「まあ、キミは特にかもね。私たちとキミたち〝迷い人〟の間には戦闘力に差があるってのに、刀を用いた接近戦だけは、ずっとオロスのおっちゃんに喰らい付いてたんだもん。キミの時代に……キミのそばに、アドバイスできる人がいたとは思えないんだよね」


 皮肉ではあるが、この時代に飛ばされたからこそ、さらに強さを求めていける。

 複雑な気分ではあったが、そもそも〝六つ目の獣〟に潰されて終わっていたかも知れないことを考えると、自ら掴み取ったチャンスと言える。


「〝呼吸〟がなくても〝覇術〟は使える……反復練習ってことかあ」

 ブラックとホログラムの戦いを眺めながら、ネメアの言葉を何度も反芻する。

 何より大事なのは〝波動周波数〟。その周波数を合わせることにより、〝覇術〟が生まれる。

 周波数の合わせ方は、ネメア曰く無数。

 呼吸法はそのうちの一つでしかなく、他にもいくつもあるのだろう。脳波とやらが〝波動周波数〟を合わせられれば良いのだから。


〝波動周波数〟を極めていけば、〝覇術〟だけでなく〝コード〟も変幻自在に操れるようになり……その先には、リリィの〝覇術〟の問題解決も見えてくる。

 なんとしてでも、その理論を体得するべきだった。

 とはいえ、〝波動周波数〟はこの時代だからこそ可視化できるもの。たとえばスマホを元の時代に持ち帰ったとしても、役に立つとは思えない。

 〝周波数〟を体感的に理解できれば話は早いのだが……。

 そう思っていたところへ、エルトがネメアに話しかけるのが聞こえてきた。


〈その〝波動周波数〟っていうの……私、知ってるかも〉

「およ? ホントかい?」

〈イロンくんには言ったんだけどさ。私は〝波動〟を〝気配〟っていう形で、元々知ってたんだよね。魔法使いとして〉

「ああ……! 聞いたよ、その話。それでそれで?」

〈魔法にはさ。詠唱が必要なの。それを〝ことだま〟っていってさ。前半パートを〝形成〟、後半パートを〝指示〟っていうふうに、『言葉での魔法の作り方』を定義してたんだけど……〉

「ふうん? 興味深いね」


〈けど他の国では、全く違う詠唱方法が取られてたのね。私が知ってるのは文章で、その国は単語……でも、発動する魔法に変わりはない。〝気配〟的な意味で〉

「詠唱に違いはあれど、魔法そのものに変化はない……? ふん、ふん」

〈魔法……正しくは〝魔法現象〟は、自然現象の一部って考えられてるの。けど、なぜそうなのか、なんで人間に魔法が扱えるのか、って言う部分は大きな謎として残されてたんだよね〉


「――ってことは。つまり、魔法は……魔法も、詠唱がなくても大丈夫?」

〈うん。〝波動周波数〟の話を聞いて、妙に合致してると思ったんだよ。〝覇術〟と〝呼吸〟、〝魔法〟と〝ことだま〟……その関係性は酷似してる。ネメアちゃんは、これをどう思う?〉

「魔法を使うには〝魔素〟が必要なんだっけ?」

〈うん。それを呼吸で体内に取り込むことによって魔力になって、魔力を使って〝魔素〟に干渉して……って感じ〉


「けどさ。キラくんにはその魔力ってやつはないよね」

〈〝神力〟を有するヒト……〝授かりし者〟は魔法が使えないの。魔素と相性が悪いとかって言われてて……実際、キラくんには魔力は宿らないし、〝治癒の魔法〟が効きにくいんだよね〉

「効きにくい……完全に効かないわけじゃない。ふむ……けどキラくんってば、割と特殊な体質って聞いたし……。いや、けど、〝治癒の魔法〟とやらの恩恵は極々僅かでも受けられるんだよね……」

 ネメアは徐々に考え事に没頭し、ぶつぶつと早口で脳内の考えをまとめていく。


「ん〜……。魔素……魔力……魔法。空気中に新たな物質が含まれていて、それを取り込むことで私たちも知らない能力を獲得……。そのために体内器官が発達して、魔力を蓄えられるように……? ――いいや、違うか。だってエルトくんは、魔法の〝気配〟を通して、〝波動〟の存在をなんとなく把握してたから……」


 ブラックとホログラムの戦いは激化していた。先ほどまでの観戦で何か掴むものがあったのか、ブラックはやたらと接近戦を仕掛けるようになっていた。

 ゆえに、タイミングを測って放たれる〝闇の神力〟がよく通る。

 が、まだそれでも遠い。ホログラムの鉄壁のような〝波動術〟をなかなか崩せないでいる。


「魔法に絡むすべてが〝波動〟と密接に連動してる……? 〝魔素〟そのものも、誰かの魔力も、魔法現象に対しても……それ全部ひっくるめて〝気配〟って言葉で片付けられるとしたら。――キラくんたちの時代にとっての〝魔力〟は、私たちにとっての〝波動〟の代替品って考えても良いわけだ。なら、体内構造を変化させるには至らない」


 こうして外から見ているとわかりやすいが、ブラックもまた〝覇術〟に課題があるようだった。

 〝闇〟と〝覇術〟の連携には、まだ難があるらしい。とりわけ激しい戦いの中では制限があるようで、剣に纏わせるので精一杯のようだった。

 そしておそらく、気配面と防御面を苦手としている。〝闇〟で代用可能というのが大きいのだろうが、まだ一度も見ていない。

 攻撃特化型。それが今のブラックだった。


「魔力と〝波動〟はニアイコール。その線で考えてみると……。魔力は〝ことだま〟ってやつに反応する……でもそれがなくても問題なし。なら〝波動周波数〟で動くと考えて間違いない。――魔力が宿るのは神経系か。それなら、最も効率よく〝魔素〟を取り込むこともできる」

 ブラックの敗北で模擬戦に決着がつく。と同時に、ネメアも一つの答えに辿り着いた。


「あ。もしかして〝覇術〟って、〝波動の神力〟だったりする?」


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