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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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838.海を泳ぐ方法

 酸素缶から一杯に酸素を取り込んで、キラはふうっと息をついた。

 するとネメアが素早く手を伸ばし、缶を受け取ってくれた。かわりに、今度はスポーツドリンクとやらがたっぷりと入ったボトルを渡してくる。


「ありがと……。ん……? これ……これ、どう飲むの?」

「柔らかい素材でできててさ。真ん中あたりをぎゅっと押し潰して飲むんだよ。スポーツマン御用達のスクイズボトルだね。地上時代の記録をもとに青春を描いた小説があってさあ……! マネージャーっていうの、やってみたかったんだよ!」

「よくわかんないけど、ずいぶん熱心に世話焼いてくれると思ったら……」


 色んな意味でさっぱりとしてそうなネメアは、意外とそういうのが好みらしい。格好もいつものメカニックな姿ではなく、ジャージ姿とやら。彼女曰く、『定番中の定番』の服装らしい。

 お団子ヘアーをぽよんと弾ませ、にこにことした笑顔で擦り寄られると、彼女が美人であることも相まって妙な充実感が胸を満たす。


 少し慣れが必要なスクイズボトルで喉を潤すと、ネメアがつと立ち上がった。

 迷いなくブラックの元へ駆け寄り、もう一つのボトルを渡す。

 さらに続けてタオルで全身を拭おうとしていたが、犬の様な扱いを嫌ったブラックにすげなく断られていた。

 見るからにテンションを落として、とぼとぼと戻ってくる。


「あー……。ブラックは元からあんな感じだよ。多分」

「マネージャーって、難しい……。気遣い上手じゃなきゃいけないんだね……」

「……犬みたいな扱いされたら、そりゃあね」

 妙なところで気落ちするネメアをそっとしておき、キラはオロスに問いかけた。


「次はブラックの模擬戦を観戦?」

「いや。十分ほど休憩したら、今度は順に〝ムソウ・エネミー〟と戦って貰う。設定難易度は新人警備員だが……ブラックも敵わなかった者を元としている。現状では十分すぎる相手だろう」

「新人……。オロスさんも観戦ってことは、何か課題がある?」

「左様。君らがイロン医師とともに策定した強化計画では、〝覇術〟の完全体得が何よりの急務。全ては其処からと云えるだろう。その為に、講義と実践と休憩とを只ひたすらに繰り返す」

「講義……。うぅん……」

「何。難しい事は無い。出来ねば敗北を繰り返すのみ」

 そうやって発破をかけられれば気合を入れないわけにはいかなかった。




 〝波動〟が原子の中で生きているというのは、イロン医師に聞いた通り。

 そのうえで〝波動術〟の原理を聞いたわけだが、これがまたさっぱりだった。

 要点をかいつまんで覚えているものの、細部がすっぽりと抜けてしまっているため、なんだか釈然としない気持ちになる。

 そこでエルトが復活したタイミングで、ブラック対ホログラムの戦いを観戦しつつ、改めて〝波動術〟のなんたるかについて聞くこととなった。


「たぶん、イロンなら『この世は〝波動〟の海に満ちてる』とかなんとか言ったはずなんだけどさ」

 ブラックの戦いを集中して観戦しているオロスに代わり、ネメアが話を始める。

「〝波動術〟って、ようはその海を泳ぐ方法なわけね。海に飛び込んで、クロールなりバタフライなり、自分なりの方法で泳いで行く。あ、いまは〝覇術〟の話は一旦スルーね」

「ん……。じゃあ……。〝波動術〟を使うには、いったいどうすればいいの?」

「海に飛び込むってことは、〝波動〟に干渉するってこと。人の体も〝波動〟で構成されてるから、体内のと体外のを繋ぎ合わせればいいんだよ。イロンから聞いたでしょ? 脳みそで繋ぐんだよ」


「それが……。よくわかんないんだよなあ……」

「まあ、どうしても感覚的な話になっちゃうからねえ。どう言ったものか……。脳波でコントロールする、っていったらイメージ湧く?」

「……全然」

「じゃあ……。根っこから説明しよっか。人体も〝波動〟で満ちてる……ってことは、どうにかして〝波動〟をコントロールできそうなもんでしょ?」

「うん……うん。そうだね」

「てことはだよ。〝波動〟を操るのに最適な箇所があるはずなんだよ。手とか足? 違うね。何かを持ったり、地面を蹴ったり……そういう体外的で物理的なことは可能だけど、体内に関しては何一つ役に立たない」

 話の流れからして答えはわかっていたが、〝波動術〟の正体を深く知るためにも、キラはあえてネメアの話し方に乗った。


「じゃあ、体内の器官……臓器とか?」

「そう。だけどそのほとんどが、人が人として生きるための装置でしかない。心臓ですら、血液を全身に巡らせるポンプ代わりなんだよ」

「ふん……? じゃあ例えば〝波動〟を蓄積するような器官はないんだ?」

「〝波動〟が特定の効果をもたらしていたら、人体もそういうふうに適合したかもだけど。肺が酸素を取り込んで人を生かす、みたいにね。ただ、〝波動〟はそうじゃないんだよね。意味を見出さなきゃ、意味がないんだよ」


「あー……? つまりは……動物は〝波動〟を使えない?」

「お、良いこと言うじゃん。まるっきりその通りでね。〝波動〟は単体では空気も同然。集合体として、微弱な振動を繰り返すことで、初めて自然現象として現れるんだよ。ちなみに、その振動を〝波動周波数〟っていって、〝波動〟の動きを検知器で汲み取って可視化したものね」

「はあ〜……なるほど。なるほど」

 そこまで噛み砕いて説明されて、キラもようやく腑に落ちた。


「脳波でコントロール、っていうのは、その〝波動周波数〟ってやつを意のままに操る、ってことなんだ?」

「そうそう。わかってきた? 体内器官で人を人たらしめるのは、ズバリ脳ミソ。体を動かすのも、何かを考えるのも……人の性格や感情だって、脳ミソの能動的な活動から誕生するんだよ。だから、〝波動〟をコントロールしうるのも、脳みそしかあり得ないってわけ」


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