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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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837.迎合

「エルトッ!」

〈りょ――〉

「かいっ!」

 彼女の突拍子も無い天才っぷりが爆発する。

 〝猫足〟を発動しつつ、オロスに接近。腕をたたんで〝センゴの刀〟を引き戻しつつ、懐に潜り込む。


 素早さ一点がけ――

「う〜――にゃ!」

「――ぬ」

 と思いきや、身を翻す。


 オロスの咄嗟の防御を誘いつつ、しなやかな身のこなしで背後をとった。

 しかし、それで終わりではない。

 たとえ〝センゴの刀〟を首に打ち込もうとも、その動きを気配面で察知して、防御面で完璧に防いでしまう。

 それを、もう何度も繰り返したからこそ。


「〝雷鳴〟――」

 ゼロ距離で。

「〝ガウバウ〟!」

 〝雷〟の咆哮をぶち当てる。


「ぐ、ぁぁ……ッ!」

 威力はない。吹き飛ばす力すらない。単に痺れさせるだけ。

 否。そのためだけの技が、硬い防御を崩す糸口となる。


 事実、オロスは思わぬ攻撃に体の力が抜けていた。

 それでも瞬時に防御面で立て直すだろうが、

「ヤっ」

 そこを見逃すエルトではない。


 ぱ、と素早く〝センゴの刀〟を振るい……納刀。

 チンッ、と心地よい金属音が鳴り響くのと同時に、オロスの首元から血の玉が浮かび上がった。つう、と血の筋が出来上がる。


「――参った」

 その言葉を聞いて、エルトが体の主導権を返してきた。

 が、そのことに文句は言えない。極度に集中していたせいで気絶してしまい……キラもまた、体を動かすことができず倒れるに任せていた。


「ハァ、ハァ……。や、やっと……勝った」

 忘れていた呼吸を取り戻す。いくら空気を肺に取り込んでも、苦しいばかり。

「やあ……。やあ……! すごいことだよ、二人とも!」

 すぐさま駆け寄ってきたネメアが、酸素缶をしゃかしゃかと振る。

 ほら、と渡されてきたそれを、キラは躊躇することなく使用する。最初は口を覆うようなノズルにすら戸惑ったが、今は難なく酸素を吸入できる。


「ふぅ……。ありがと」

「ほんと、びっくりだよ。戦いのど素人が見ても、オロスのおっちゃんを追い込んでたんだもん! 最後なんて結構一方的だったしさ」

「綱渡りにも近いよ……。もう一度やれって言われたら、できるかわかんない。ってか、同じ手が通じるとは思えないし」

「へえ。そうなんだ?」

 ネメアがちらりと見やると、オロスはぶつぶつと呟くように言った。わかっていたことだが、ひとつたりとも疲弊した様子はない。


「キラ殿は、端的に言って駆け引きが上手い。相手の出方に合わせた立ち回りが出来る……というより、其こそが基本戦術。故に、状況に酷く左右される。こう言ってはなんだが、格上を相手するならば特に」

「安定しないってこと?」

「一言で言うなれば。しかし長期戦に成れば成る程、キラ殿に戦況が傾く。故に……私は負けた訳だ。もう三十分も戦っていたのだからな。確かに同じ手は二度と喰らわんつもりではいるが、其が可能かどうかは状況に依存する。そういうことだ」


「ほえ〜……。戦いって難しいんだ……」

「というより、キラ殿の立ち回りが特殊すぎる。相手の動きに合わせると簡単に言ったが、剣の傾き方が一度違うだの、姿勢が数ミリ沈んだだの、極々僅かな変化を見極めねばならん。其を初めて戦う者にも実践するなど……少なくとも私は無理だ」

「へえ……! やっぱこの時代に飛ばされるだけのことはあるんだ……!」

「其は……。褒め言葉なのだろうか……?」

 キラはネメアからの視線にむず痒いものを感じて、そろりと目を逸らした。


「まあ、普段は〝未来視〟があるから出来るというか……。そんなことよりも……」

 四角い箱の中に入り込んでしまったかのような、何もないアリーナエリア。

 一見すると普通のグラウンドのように見えるが、その実、壁や天井には無数のカメラが仕掛けられているという。

 二十四時間つねに記録し、そのデータがレッスンエリアのサーバーに送られ保管されるのだ。

 説明を聞いたところで、キラには一つとして理解できなかったが……。とにかく、先ほどの三十回に及ぶ敗北も、たった一度の勝利も、改めて見返すこともできる。


 とは言え、キラとしてはその機能自体にはあまり興味がない。

 全くの未知のシステムに興奮しないわけではないものの、刀を用いた接近戦を強化するにはあまりに時間が惜しい。

 〝覇術〟に〝雷〟、〝コード〟に〝妖力〟と、知らねばならないことや試さねばならないことは山ほどあるのだ。

 模擬戦にしても、三十回も繰り返す必要はない。それでも数をこなしたのは、単に〝覇術〟の完成度を見極めるためというのもあるが……。


「本当にブラックも一緒に訓練すんの……? 協調性なさそうなのに」

 独房で反省しているはずのブラックが、グラウンドの隅で座っていた。いつものコートは脱ぎ捨て、簡素な麻シャツと黒ズボン姿となり、長い白髪も束ねている。

 だらだらと浮き出る汗に、泥だらけの全身、立膝をついてへたり込む姿。

 どれを切り取っても新鮮で……その血のような赤い瞳と目が合うと、不貞腐れたかのように視線を逸らした。どうやら彼もまたオロスに全敗したらしい。


「脱獄を何度も試みては失敗してな。我らとの力の差を無視は出来ぬ様で……連れてきたという次第だ」

「脱獄……。まあやりそうなことだけど」


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