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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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828.理不尽

「――そこだよ。この話の本筋は」

 そういうとマントスはパチンと指を鳴らして、ホログラムを動かした。

 ボロボロの世界情勢が霧散していき、今度は〝六つ目の獣〟にフォーカスする。無数の〝カソウ・パーティクル〟が単なる平坦な地面と巨大な獣へと変身する。


「〝六つ目の獣〟は、人を喰らうごとに巨大化していく。その影響で徐々に鈍重になっていき、一歩を踏み出すのにも一日かかる具合だった。その一歩で、国も自然も生き物も、全てが跡形もなく消し去られるわけだが」

「けど、動きはする……」

「最も厄介だったのは、発見当初から変わらず神出鬼没なところだ。あの巨体であの愚鈍さにも関わらず、一つの国を消したら瞬く間に姿を消す……。先代たち〝自警団〟も、実際に目の当たりにした」


「それは……。無事だったの?」

「命は助かった。急襲警報がけたたましく鳴り響く中、先代たちは地下避難所で難を逃れたのだ。とはいっても〝六つ目の獣〟による破壊力は凄まじく……地下千メートルという深さ、何重もの防御層、頑強なシェルター、加えて〝波動術〟による防衛を施してなお、重傷者が何名も出た。地上に出るのにも何日とかかった」

「そんな有様で地上が無事なわけないよね……」


「当然、設備は全滅。試作途中だった〝雲島〟も木っ端微塵。またエネルギーの確保から始めねばならなかった。ゼロからの再スタートではないとはいえ、人類存続を思えば大きな痛手だった」

「じゃあ……。やることはひとつじゃん?」

「うむ。だが、君も理解している通り、〝六つ目の獣〟は理不尽の塊。〝終末戦争〟前ならいざ知らず、〝自警団〟を中心に寄り集まった一万程度の集団では、到底敵うはずもない。先の〝雲島計画〟に理解を示した二カ国を合わせても、十万たらず」


 とはいえ、何かしら策が成功したのには違いない。依然として〝六つ目の獣〟は存在するものの、一方的に蹂躙されるだけだったならば〝雲島時代〟はやってこなかった。

 少し考えて、キラは「あ」と声を出した。


「ずっと不思議には思ってたんだけど……。あの〝怪物〟……〝六つ目の獣〟は、今現在、あの場所から動けてない? ある種、あそこに封印した……?」

「正解だ。――先代たちは〝六つ目の獣〟の討伐は不可能と考えた。だからといって放置しておけば、やがて人類は絶滅する。この世の終わりだ。そこで考えたのが、どんな形であれ、〝六つ目の獣〟を封印すること」

「けど、一体どうやって?」

「いかに理不尽な〝六つ目の獣〟といっても、たった一つだけ、決して敵わないものが存在する。それが母なる大地……〝再生する大地〟だ。ヤツがどれほど暴れようとも、どれほどの力を込めようとも、大地は決して粉々になることはなく、平然として明日を迎えている」


「ってことは……。地中に埋めたら……?」

「うむ。〝自警団〟の協力国の一つと連携して、罠をかけることにした。とはいえ、問題がいくつかあった。まずひとつ目……〝六つ目の獣〟はどこに現れるのか」

「……? 国単位で人を喰らっていくんでしょ?」

「なすべきことは、迎え撃つことではなく、罠にかけること。山よりも巨大とはいえ、この時点では国を覆うほどではない」


 ホログラムが変化し、〝六つ目の獣〟を取り巻く環境が変わっていく。

 平坦だった大地に起伏が現れ、山となる。その合間に谷やら渓谷やら川やらが現れ、森が広がり、街がいくつか出来上がっていく。

 そのどれよりも、〝六つ目の獣〟は大きい。その足の一踏みで森や山は形が変わり、川の流れも歪められるだろう。

 ただ確かに、それらの集まりである〝国〟としてみれば、〝獣〟はまだ小さかった。それでも、一日もあればすべて平らにしてしまうだろうが。


「罠なんだし、仕掛けて待てば……」

「そこで二つ目の問題……〝再生する大地〟が立ちはだかる。土壌が汚染されようとも、大きな穴が開こうとも、翌日には何もなかったかのように再生している。その異様さを知っているからこそ、〝再生する大地〟に封印する作戦が立ったのだが……」

「ってことは、罠をかけようと穴を掘っても無駄……。あ、でもさっき地下に潜って……」

「〝再生する大地〟は、異物を潰すのではなく、あくまでも元の形に戻るだけ。何か地中に埋まっていれば、自分のものであると主張するかのように包み込む。この特異な性質に、人類は幾度となく助けられてきた。だが……崖っぷちで、敵に回る形となった」

 キラは腕を組み、じっとホログラム化された〝六つ目の獣〟を睨んだ。


「三つ目の問題は、〝六つ目の獣〟の強靭な身体だ。実を言えば、獣程度の大きさの頃から、ヤツに傷を負わせたという報告は入っていない。弾丸も砲弾もレールガンも効果はなく、毒ガス兵器でさえ、動きを緩めることもできなかった。巨体なことも相まって、罠への誘導は一層厳しいものとなる」

「ふん……?」

「四つ目。あらゆる状況を鑑みて、チャンスは一度のみということ。そもそも、〝六つ目の獣〟と直接対峙を強いられるのだ……失敗すれば、文字通り後はない」

 何をどう考えたところで、希望はないように思えた。隣で一緒に聞いているネメアも、思わずと言ったように唸っている。


「私は顛末を知ってるわけだけどさあ。よくなんとかなったよね〜」

「確かに……。先代たちの閃きと判断力には驚かされる。この時の私はまだまだ若造でね……こうした作戦が遂行されたのだと知ったのも後のこと。――だが、今度はそうはいかない」

 マントスのその言い方と、彼の言葉に対するネメアの頷き方に、キラもエルトも引っ掛かりを覚えた。

「今度はって?」

〈もしかして、もう時間がないんじゃないの?〉


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