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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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826.領域

「僕らの方が……? 〝波動術〟よりも〝覇術〟のほうが上……ってこと?」

「うむ。似て非なる、どころではない。君らのいう〝覇術〟は、〝波動術〟の完全なる上位互換。君たち基準で考えれば、確かにあれほど強大になる前に、〝六つ目の獣〟を討ち取ることができただろう」

「そんな……? 一体、何が違うの?」

「〝波動〟と〝血因〟……それぞれの力の源に、明確な違いがあったと報告を受けている。それは、聞いたかい?」

「うん。〝血因〟には〝侵食〟ともいえる性質が備わっているって。で、〝波動〟を暴走させて……人を凶暴化させる。それを乗り越えてやっと、〝覇術〟は……成る」

「では、成った〝覇術〟は、果たして〝侵食〟という性質を失っているのか? ――否。むしろ、その〝侵食〟こそが〝覇術〟の本質と言える。ネメアやイロンの興味を引いたのも、きっとその点なのだろう」

「……?」


 いまいちピンとこなくて、キラはネメアへ視線を向けた。

 すると彼女は、マントスの言葉を肯定するように頷いてから言った。


「〝覇術〟ってさ。私たちからすれば、膨れ上がる〝波動術〟なんだよ」

「膨れ上がる……?」

「私が君たちを見つけたあの時……キラくん、超スピードで走ってたでしょ? ほぼ音速……一瞬、それすらも超えてた。そんな芸当、〝波動術〟じゃあ無理なんだよ」

「そうなの?」

「あれって〝血因〟を目一杯にまで凝縮させてるってことでしょ。それどころか、多分、〝血因〟が擬似的に筋肉の働きもしている。そんなことは〝波動術〟にはできないんだよ」

「んー……? つまり、〝波動術〟にはあのスピードは出せない……?」


「そ。〝等倍の法則〟っていってね。一という力に対して、そこに乗る力は一。二という力には二。ってカンジで、掛けた力の分だけ〝波動術〟が働くけど、それ以上にはできないんだよ」

「等倍の力が乗る……。ってことは……。たとえば、速く走りたくても、地力によって限界が決まって……三のスピードを出したいっていうのに、二までしか出ない、ってことがありうるのか」

「そういうこと。だから、本人の身体能力で上限が決まっちゃうんだよ。もっというと、人という種族である以上、絶対に到達できない領域がある。だけど、〝覇術〟はそうじゃない。音速で走るだなんて……。それって、普通に走って秒速百メートルいけます、みたいな人じゃなきゃ不可能だもん」


「あー……。じゃあ……。〝六つ目の獣〟に対しても、獣程度ならまだ良かったけど、山みたいな大きさになってしまったら……」

「途端に、手も足も出なくなる。人数を集めたとしても、個々が出せる破壊力はたかが知れてるから」


 古代人は総じて身体能力が高い。その上で、一を聞けば十を知る知能も備えている。

 ゆえに、科学という文明を発展させ、母なる大地をも捨てる決断ができたのだ。しかも、空への避難は一時凌ぎではなく、〝雲島時代〟として二千年も続いている。

 地上の時代がどのようなものかはわからないが、おそらく、ずっと平和だったのだろう。

 寿命という概念のない命、科学文明を築いた高い知能、どんな生活環境にも適応できる身体機能。


 自然界に天敵などいようはずもない。

 持ち前の身体能力に加えて、〝波動術〟もあるのだ……目の前に獰猛な獣が現れたとしても、ピンチに陥ることなどまずない。

 そういう意味では、彼ら古代人は〝神〟にも等しい存在だったのかも知れない。

 人間に歯向かえる生命はなく、科学と〝波動術〟で自然界を掌握していたのだとしたら……。〝神〟という概念がないのも頷ける。


 それだけに、〝六つ目の獣〟の異様さが際立つ。

 〝神〟にも並ぶ人類を地上から駆逐し、空の生活へと追いやった。

 奇妙なのは、〝六つ目の獣〟はそういう種ではないということ。

 ユニークヒューマンのように、『〝波動術〟の限界をも超える身体機能』という特異性を持って生まれた〝個〟なのだ。

 そのうえで、人を喰らうことに固執している……まるで、古代人たちを絶滅させるためだけに生まれたかのようである。


「そうはいっても、我々も手をこまねいて見ているわけではなかった。ともすれば人類の存続の危機にもなりうる……早急に、あらゆる手を打った。〝六つ目の獣〟への対抗策はもちろん、避難場所の検討、食糧とライフラインの確保、大規模な移住計画など……」

「〝雲島〟は、その頃に?」

「いいや。当時、二百にも及ぶ国に、八十億の人々がいた。〝雲島計画〟そのものはあったが、到底現実的ではなかったのだ。有力な案として挙げられていたのは、壁を作って取り囲む、その地盤を丸ごと沈ませる、など……〝六つ目の獣〟をある地点で捕縛するようなものだった。動きを封じたのち、その強靭な体を砕く方法を考えれば良い、と……」

 すると黙って話を聞いていたエルトが、引っ掛かるものを覚えたらしい。わが身のことのように、危機感に声をとがらせる。


〈ちょっと待って。その時にはもう〝六つ目の獣〟は山ほどの大きさになってたんでしょ? 移動するにも一歩一歩がでかいはずで……ってなると、囲う範囲は相当なんじゃないの? 下手したら、国ごと閉鎖して、徐々に追い詰めなきゃいけないじゃん〉

「……そう。そこだ、問題は。先も言った通り、二百の国、八十億の人がいた……。永遠の命と聡明な頭脳による平和も、〝六つ目の獣〟と言う存在により脅かされている……そうなると人間は、真っ先に我が身を案じるのだ。どの国も、自国を最優先に物事を考えるようになる」


 世界地図を写していたホログラムが、会話に合わせて変化していく。

 突如として現れた〝六つ目の獣〟らしき獣マーク。そのマークは山はおろか、川も平原も国すらも踏み潰してしまうほどに大きい。これを、大きな壁で囲い込む。

 その様子を見守っていると、壁の一つが壊れた。

 獣マークによって壊されたのではない。国マークが壁を攻撃して壊し……獣マークを隣国へ誘導したのである。


〈まさか……〉


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