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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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825.六つ目の獣

「さて……。ここに君たちを呼んだのは、これからの具体的な話をするためだ」

 マントスの渋い声を聞きつつ、キラはエルトと一緒になって真の姿になった〝ゾーケー・モニター〟に目をやっていた。

 マントスの〝波動術〟によって制御された〝カソウ・パーティクル〟は、画面から飛び出したかのように、大きな球状となって集まっている。

 一粒一粒が不安定に揺れ動きながらも、しかし決して集団から離れることなく、綺麗な集合体を維持していた。


「我々の目的は地上を取り戻すこと……すなわち、〝怪物〟退治にある。そして、キラくん、エルトくん、ここにはいないがブラックくんの三名は、元の時代に戻ることを目的としている。そうだね?」

「うん……。ネメアが言ってたけど、元の時代に戻る方法があるって……」

「その通り。しかしそれを実現するには、幾つもの壁を超えねばならない。わかると思うだろうが……〝怪物〟の退治は、ほぼ必須の条件となる」

「あれを……? どうやって……?」

「作戦はある。練り直した、と言った方がいいだろう。事後承諾となって悪いが、君にも協力してもらうことになる」

「それはいいけど……。具体的には?」

「そこなんだが……。まずはあの〝怪物〟の恐ろしさをきちんと把握してもらうため、昔話から始めようと思う」


 そういうとマントスはホログラムを操った。

 大きな球状だった粒子の集まりが崩れて、モニター画面に雪のように積もっていく。そうして胎動するかのように蠢き始めて、特徴のある凹凸を再現した。


「これは……。街?」

「まだ地上が無事だった頃の、私の生まれ故郷……そこを再現した。三千年ほど前のこと……私が二十歳の頃だったか」

「地上が無事……っていうのは、正直、あんまりピンとこなくって。だって、雲も突き抜けるほどのデカさでしょ? アレが一歩踏み出すだけで、どれだけの被害が出るか」

「それはそうだが、あの大きさになったのは地上が支配されてから……〝雲島〟時代が始まる直前のことだ。私が二十歳の頃は、『何やら恐ろしい化け物が暴れ回っている』という噂話が届く程度だった」

「じゃあ……。それまでは普通の魔獣みたいな……?」

「まじゅう、というのがこの時代にはいないのだが……獣程度だったのか、という意味合いであれば、まさにその通り。〝六つ目の獣〟として確認されたのが始まりだった」

「目、か……」


 不意に、〝黄昏現象〟での出来事を思い出す。

 〝腕〟と対峙した時、リリィたちと協力して〝雷〟なり魔法なりを叩き込むと、〝異形の魔物〟を全身から吐き出した。

 そのどれもがまさしく異形……歪な形で〝目〟が体に埋め込まれていた。

 そう考えると、〝異形の魔物〟とは〝怪物〟の分身体のようなものだったのかもしれない。〝黄昏現象〟全域で〝魔物〟が出現したのも、〝怪物〟の大きさを考えれば合点がいく。

 となると、〝始祖〟アルツノートがどのようにして〝黄昏現象〟を意図的に引き起こしたのかが気になるが……ひとまずはマントスの話に集中することにした。


「〝六つ目の獣〟がなぜあれだけの巨体となったのか……どこから現れたのか……当時は何もかもが謎に包まれていた」

「古代人にもわからないことが……?」

「ふふ。それほど完璧であればよかったが、そうでないからみすみす地上を奪われる羽目になった。君が思うほど我々は完璧ではなく……今を生きる我々も、未来を生きる君たちも、さほど変わりはない。根底には〝人間の性〟が〝理〟に刻まれているのだろう」

「はあ……?」

「話を戻そう。〝六つ目の獣〟は神出鬼没だった」


 マントスの〝波動術〟の通りに、ホログラムが形を変える。

 ざわっと粒子が蠢くと、たった一つの大きな大陸を作り出した。

 密集する建物で国を示し、木を寄せ集めて森を作り、その合間に山や川や湖が生まれる。

 その縮図が世界地図なのだと考えると、途方も無いことのように思えた。

 なんと言っても、国の数はざっと見で二百ほど……そこに住む古代人の数は計り知れない。


「昨日には東で現れたというのに、今日は距離の離れた西の方、という具合に。何体かいるのではないかという話になったそうが、その割には被害箇所が少なかった。気味の悪いことに、一日に一度、一箇所にしか襲撃は起きず……〝六つ目の獣〟は一体のみと断定されたらしい」

「一日に一度で、一箇所のみ……? なんか、それって……」

「私も先代たちから話を聞いただけだが、同じ印象を抱いたよ。まるで狩りに出掛けるかのようだ、とね。ただの獣であれば、そこに食べるものがあれば満足するはず……人間でなくとも、果物やら牛やら。だがそうではなく――〝六つ目の獣〟は、人間を喰らうことに固執していた」


「討伐隊は……まあ、出すか」

「むろん。しかし……予想はつくと思うが、毎度のように失敗し、数名のみが命からがら帰ってくる状況。しかも、討伐に向かうたびに〝六つ目の獣〟は巨大化していき――私が噂話として耳にするようになった頃には、山のようなデカさとなっていた」

「それだけ規格外の強さだったってことなんだろうけど……。〝波動使い〟が何人何十人いて、なんともできなかった……?」


 煽りでも皮肉でもなく、単純に不思議だった。

 古代人は、皆が皆等しく強い。直接手合わせをしたわけではないものの、あのオロスという警備兵はかなりの強者だった。

 空をも飲み込むようなあのデカさならばまだしも、山ほどの大きさであれば。実力者を相当数かき集めれば、討伐も難しくはなかったように思える。


「言っただろう……我々もそう完璧ではない。こと〝波動術〟においては、むしろ君らの方が完全体といえる」


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