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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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850/965

823.結果的

  ◯   ◯   ◯


 翌日。〝原初の時代〟に飛ばされてから、三日目。

 その午前は、再びの検査などで時間が潰れた。

 すでに〝雲酔い〟や乗り物酔いは抜けているものの、時代を越えるという前代未聞な環境の変化が、体にどんな影響をもたらしているのかを調べたかったらしい。

 他にも、食事の栄養バランスが合っているのか、そもそも点滴や〝回復液〟がおかしな作用を起こしていないか、などなど……。


 再びの採血にキラは絶叫しそうになったが、目をぎゅっとつむり、できるだけ頭を遠ざけることでなんとかやり過ごすことができた。エルトには笑われるどころか、「そこまで?」と呆れられたが。

 結果としては、特に問題なし。

 イロンによれば、『環境に対する適応能力が高い』らしい。〝雲酔い〟にしてもほぼ起こることはないようで、逆に、なぜ乗り物にめっぽう弱いのかが不思議で仕方がないという。

 もはや一つの病気として考えるべきとして、現在、その謎を解明してくれている。

 ともかく、そういう流れで、ネメアの案内のもと〝調査団〟リーダーとの会談に乗り出すことになった。


「ああ〜……。お腹いっぱい。久々な気がする」

「ステーキ三枚もペロンって平らげちゃったもんね〜。びっくりしちゃった」

「ここ一週間くらい、まともな食事してなかったから」

「一週間? この三日じゃなくって?」

「この時代に来る前に、まあ、結構ないざこざに巻き込まれててさ。仮眠も取る余裕もないくらいだったんだよ。けど、おかげで全回復」

「それは良かったよ。口にも合ったようで何より」


「思うんだけどさ……。食事も一種の〝理〟なんじゃないかな。スープだってシチューとかポトフとか、覚えのあるものばっかりだったし。さっきのステーキ……っていうかソースも慣れた味だったし」

「確かに、そういう言い方もできるかもね〜。ただ、人間っていう枠組みがどの時代でも同じな以上、美味しいと感じられるものも自ずと似るはずだよ」

「ああ、そっか、そういうことか。でさ……あれ、なんの肉? 豆とかもさ。〝雲島〟は何かと不足してて……って話だったじゃん」

「……知りたい?」


 長い廊下を歩くのは、キラとネメアの二人だけ。靴音が響く以外に音はなく、不気味なくらいに物静か。

 そんな中でネメアの声が怪しげに響くものだから……エルトがビビりまくった。

〈ヤッ〉

 と悲鳴を上げ、足をすくませ、

「ぎにゃぁ!」

 キラの体はそれに引っ張られ、膝裏を蹴られたかのように、両膝を床に打ち付ける。

 絨毯が敷かれていたおかげで幾分マシではあったが、それでも情けない声をあげるくらいには衝撃が走った。


「あっはっは! そ、そんなことになるんだっ?」

「エルトのせいだよ……! お化けとか妖怪とか、そんなもんばっかり怖がってんだからさ! ばかばかしい!」

〈だ、だって! いきなり怖い声出すから!〉

「怖くないって! 怪談ですらないよっ?」

「あっはははははは!」

 ネメアはひとしきり笑った後、手を差し出してきた。床に寝っ転がるほかになかったキラは、その手を借りて立ち上がる。


「はあ、まったく……」

「いやあ、ほんと、キミらといると飽きないよねえ。ふふ……。確かに物資不足ではあるけど、前時代に全部失ったってわけでもないんだよ。〝雲島〟時代へ移行した〝狭間の時代〟には、家畜とか植物とか、人間が生きていく上で欠かせないものは率先して確保してたみたいだし」

「なるほど……。この島には木の一本もないように見えたけど……それって〝怪物〟対策の最前線だからか」

「そゆこと。家畜用、栽培用、植林用……ってカンジに島単位で分けててね。ここ〝ヘクトル〟にはそれぞれから輸入されてくるってワケ。で、さっきのお肉は牛肉」

「牛はどの時代も貴重だ……」


「労働力にもなってくれるから、ホント助かるよ。食用として育てるのも考えものとは思うけど……私たちは肉を食わなきゃエネルギーが出ないように出来てるから。人間という種の存続と進化のためにも、大切に頂いていくのさ」

「存続……。ネメアたちが頑張ってくれたから、僕らも生きてる……ってことだ。なら――逆に考えれば、〝怪物〟だってなんとかなるんじゃ……?」

 当然のことのようで見落としがちな事実に、キラははっとした。

 しかしネメアが首を振り……それを知っていたかのように、エルトも否定的な口調で言った。


〈なんとかなるなら、私たちはアレの存在を知ることがなかったよ〉

「あ……」

 どんな理屈か未だに謎だが、〝黄昏現象〟に際して〝腕〟が現れた。あの異形の見た目といい、あのデカさといい、あの圧迫感といい、見間違えることはない。

 その〝腕〟は、地面から生えるようにして出現した。すなわち、なんらかの方法で〝怪物〟が地中深くに埋められた……と考えることができる。

 ネメアたち古代人は〝怪物〟の封印に成功し……別の見方をすれば、完全に討伐し切ることはできなかったといえる。


〈ネメアちゃんは、それに気づいてたんでしょ?〉

「そうだとも、そうじゃないとも、どっちとも言えるね」

〈……? つまり、別の何かに気付いたって?〉

「まあね。昨日言った通り、まだ何も言えないよ。妄想も妄想で……もしも仮にソレが起こりうるんだったら。私たちに、できることは何一つない」

〈さっぱりわかんない〉

「その方がいいよ。――はい、到着。ココが作戦会議室ね」


 ネメアの声に反応したかのように、ウィン、と扉が横にスライドする。

 作戦会議室というには、随分とシンプルな部屋だった。あるのは大きなテーブル一台だけ。それ以外の調度品はなく、椅子すらも見当たらなかった。

「やあ。待っていたよ。キラくんにエルトくん、だな」


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