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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第1章

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84.計略

 廃村から帝都までの陸路ルートと、陸地を迂回して帝都の北側へ回る海路ルート。この二つに分かれて作戦を決行するという。

 廃村は帝都までほぼ一直線の位置にあるらしく、キラはバザロフたちとともに陸路組に配された形となった。


「――で。オレら陸路組は、このまま普通に帝都へ直行。戦争状態だし、オレたちは全員が帝都出身ってわけでもないから、都内に入るのにも一苦労なんだけど……そこはそれ、強力な仲間が手続きすませてくれてるから、多分簡単にパスできると思う」

 仲間とやらが用意していくれていたのか、廃村の厩舎に隠れるようにして、四台の荷馬車があった。


 次々とボートで到着した海賊たちが、船から運んできた食料やら毛布やらの荷物を詰め込んでいく。バザロフが指揮を行い、キリールとゲオルグはぶつくさ垂れながら積み込み作業を手伝い、キラとリヴォルは……。

「ちょっと親方ッ? その二人だけずるいっスよ! 見てるだけって!」

「リヴォルは力仕事じゃ使い物にならねェし、キラの方はちょっとでも体力を温存させる! ここで楽したい奴ァ、ぜひともブラックやらロキやら”五傑”やらを足止めしてもらいたいもんだなァ!」


 キラがリヴォルトともに眺める中で、バザロフの言葉に逆らうものはいなかった。文句を垂れながらも、えっちらおっちら積荷を運ぶ。

「ああ、そうだ、忘れるところだった。はい、剣。返すよ」

「忘れないでほしいな……。それと、これは刀。剣じゃないよ」

 地面に積もる雪に対して、黒光りする”センゴの刀”を渡される。鞘や柄の美しさに見とれつつも、キラはしっかりと受け取り、鞘に戻した。

 腰に宿る重さにひと心地つき……ぶるりと体が震えた。

 港町ガヴァンよりも南に位置し、そのために雪の積もり方も薄っすらとした程度であるのだが、やはり寒いものは寒かった。

 一つくしゃみをしてから、グレーのコートのフードを目深にかぶる。


「かたな……かたなって? 聞いたことないや」

「知らないの?」

「ああ。逆に、なんで知ってんの?」

「……さあ?」

 二人して首を傾げ……その馬鹿らしさにキラは噴いた。リヴォルもつられたらしく、声を出して笑う。


 バザロフに小突かれるまで笑い続け……キラは疲れた腹筋を手でほぐしつつ問いかけた。

「はあ。それで……陸路組っていうのはわかったけど、帝都についてからは?」

「潜入任務さ。海路組の砲撃を合図に、帝国の”首”を抑える」

「”首”?」

「”軍部派”連中さ。”軍部”のお偉方はもちろん、”軍部”の意見に同調する議会議員を何名か。それと、皇帝も」

「一気に行くね……。護衛とかもいるだろうし、かなり厳しいんじゃないの?」

「正直、オレも腰が引けてたくらいさ。だけど、今はなんとかなるって思ってる――お前が居てくれてるからな」

「期待されるのは、まあ嬉しいんだけど……けど、僕はどう動けば? 海賊の合図と一緒に”五傑”を引きつける、とか?」

「ああ、それいいな! んだけど、作戦を立てるのはバザロフさんなんだよね。――ってことで、どうぞ」


 指示を飛ばしながらも耳を傾けていたらしいバザロフは、地に響くような野太い声のまま、リヴォルのあとを引き継いだ。

「確かに今のも捨てがたい策だが……より確実を目指すならば、俺らと同じように”首”を抑えてほしい。ただし、一人で」

「一人……」

「あァ。ってェのも、”首”を狙うのと同時に、陽動も兼ねてもらいてェ。帝都で大暴れして、真っ先にその”首”根っこをおさえりゃ、あとは望むがままだ」

「ってことは、狙うのは……」

「皇帝ペトログラード。まっとうに考えれば、帝国トップの人間の警護が一番に厚い。”軍部”連中のことだから、自分たちにャ”五傑”を当ててるだろうが……できるならば、これも引き剥がしてもらいてェんだ」


 するとそこで、地面にしゃがみこんで手のひらサイズの雪だるまをつくっていたリヴォルが、顔を上げていぶかしげに言った。

「それ、結構キラに負担がかかっちゃうんじゃないですか。結果的に残ってる”五傑”を全員相手にするかもしれないんですよ」

「だったらなおのこと、俺らが素早く制圧するのみよ。なあ、テメェら!」

 海賊たちは、野太い親方の呼びかけにまとまりなく応えた。しかし、皆の気持ちは一つらしく、まばらながらも一致団結した掛け声のようにも聞こえた。


「親方ぁ! 荷運び完了しましたぁ!」

「よォし! じゃあ、ひとまず整列だ! キラ、リヴォル、テメェらも並べ!」

 海賊たちは、さながら教育の行き届いた騎士団のように、バザロフの声に従った。

 銀髪坊主のゲオルグを始めとした四人が最初に横並びになり、その後ろへ次々と列をなしていく。

 キラはリヴォルに連れられ、ゲオルクの列に並ばされた。リヴォルが隣に立ち、こそこそと声をかけてくる。


「制圧区域で馬車を分けてるんだ。例えば、オレの班は”六角地区”の”軍部派”の制圧担当で、キラんところは”四角地区”担当。……って、そういえば、”四角地区”っていって分かる?」

「うん。レオナルドから帝都の構造はざっと聞いた」


 帝都は、北側の海へ向かってせり出す切り立った崖で栄えた首都である。

 街中は三つの区域に分かれており、エマール領リモンと同じように、帝国城を中心とした三重の構造となっている。

 外から順に”八角地区”、”六角地区”、”四角地区”。一番外側には労働者階級が住み、その次に上流階級、そして最後に皇帝を含む指導者階級が住まいとしている。

 身分ごとに区分けされ、更には階段のごとく段々に土地が高くなっていくのだ。実際、”八角地区”は”一階”とも揶揄されることがあるらしい。

 ちなみに、それぞれの地区の名前は区域の形そのものに由来するらしい。


「そういえば、海路組はどうやって襲撃を仕掛けるの? レオナルドからは、帝都は切り立った崖にあるって聞いたけど」

「”崖崩し”だよ。崖へ向けて砲撃をして、注意を向けるんだ。もちろん、帝都をまるごと海に落とそうってわけじゃないからな」

「思い切った作戦だね……」

「それくらいやんなきゃ振り向いてくんないのさ。それでさ、一つ言い忘れてたんだけど。強力な仲間っていうのが――」


 ちょうどその時、バザロフが声を張り上げ、リヴォルの言葉はかき消されてしまった。

「そんじゃあ、テメェらは今から商人だ! くれぐれも、ボロ出すんじゃねェぞ!」

 気合を入れた声で、今度は一つに揃って返事した海賊たち。キラも彼らに倣って生返事をし、列をなして移動する皆の動きを眺める。

 リヴォルが言いかけたことも気にはなったが、彼もすでに馬車に乗り込むところだった。


 キラも動き出した背中を追い……そこで、”四角地区”を担当する数が、全員で三人しか居ないことに気づいた。

「少ない……」

 先頭ではゲオルグが歩き、その後にサガノフが続き、最後にキラ。

 ”四角地区”は”最上階”と称される地域であり、帝国の頭脳が集う場所だ。そんな場所へ向かう人数としては、少し心もとなかった。


「文句たれんじゃねぇよ。ほら、乗れ!」

 銀髪坊主の物言いを気にするより先に、キラはその格好に目を奪われた。

 一緒にボートに乗っていた時は、まさしく海賊な格好をしていたというのに、今は執事服姿だった。剃り込みの入った銀髪を山高帽で見事に隠し、その仕草もどこか洗練されたものへと変化している。

「え……!」

「見てんじゃねぇよ! さっさと乗れ!」

 キラは乱暴な執事の言いなりになろうとして……またもや身体を固まらせた。


 乗り込む馬車が、ほかの荷馬車とはまるで様相が違うのだ。

 荒くれたちにも、廃れた村にも似合わない……言うなれば王都にぴったりな上等な四輪馬車が、美しい毛並みの馬とともに用意されていたのだ。

 車体は見ていて惚れ惚れするほどの美しい黒塗りで、ゲオルグが開いた扉には何やら意匠が描かれていた。


「ゲオ、あんまりそう乱暴に開くもんじゃない。もうちょっとためてから」

 見るからにイライラとしていたゲオルグに、長身な青年サガノフが声をかけた。

「はぁ? 十分ゆっくりだったろぉが」

「動きがキレキレすぎる。足運びも雑。ってか、身体の向きが違う」

「こまけぇんだよ、いちいち! とにかく乗れって。もうみんな出発しちまったぞ」

「手本見せるよ。――どうぞ」


 サガノフはゆったりとした動作ながらもゲオルグの位置を横取りし、わざわざ一度馬車の扉を閉めてから、再び開けた。

 洗練された動きであることは、キラでもひと目でわかった。開け方から身体の向き、さらには表情まで、何一つ不快に思う要素がなかった。

「あ、ありがとう、ございます」

 キラは思わず敬語で礼を言い、サガノフの誘導どおりに馬車に乗った。刀を鞘から外し、茶色の革張りの座席に座る。

 続けてサガノフが乗り込み、するととたんに意地悪そうな顔つきになってゲオルグにいう。


「ほら、ゲオ、言葉遣いと顔つきも気をつけないと。御者、頼むね」

「く、ぅ……! ど、どうぞ、揺れに、お気をつけくださいまし……!」

 執事姿のゲオルグは、帽子を目深にかぶってうつむきがちに、しかしながらいつも以上におっかない雰囲気で言った。バタリと閉まるドアも、幾分乱暴だった。

 そうして馬車がゆっくりと動き出し……キラは、くつくつと笑うサガノフを凝視した。


「ん、どうした?」

「いや……。帝国基地で襲いかかってきたときとは、まるで印象が違うなって……」

「そりゃあ、まあ。キミも、立場と状況によって仮面はかぶるだろ?」

「まあ、人によっては言葉遣いは変えようと思うけど」

「のわりには、親方にはタメ口だよね。俺もそうだけど、親方あんなに厳格で、みんな敬語になっちゃうのに」

「いうほど怖いかな?」

「あ〜……クレイジーな感じだ」


 ニコニコとしていうサガノフを、キラはムッとして見つめた。

 ”コルベール号”の露天甲板で見かけたときもそうだったが、やはり海賊とは程遠い青年のように思えた。

 身のこなしは上品であり、その品の良さが表情にも現れている。

 堀の深い顔つきは絶えず柔和にほころび、ワックスでなでつけたらしいブロンドの髪の毛も、女性のようにきめ細かく美しい。


「サガノフって……もしかして、貴族?」

「うん。本名はヴァレンティン・サガノフ。色々あってこの一団に混ぜてもらえてね。一世一代の大勝負ってところで、この身分が輝いたってわけさ」

「ってことは、”四角地区”に実家が?」

「いや、”六角”のほう。けど、おじが議会議員でね。今回、その伝手を借りて、”四角地区”に侵入しようってわけさ」

「それって、大丈夫なの? 君も、家族も――おっと」


 スピードを出し始めた馬車は、小石を轢いたのか、軽く車体が揺れる。

 キラは思わず”センゴの刀”をついて体を支え、その一方で、サガノフは何事もなかったかのようにピンと背筋を伸ばしたまま答えた。


「俺、家出同然で帝都を離れたから知らなかったけど、サガノフ家のほとんどが結構帝国に不満を抱えてるんだよね。そういう嫌なとこ、誰も見せようとしなかったし、俺自身そうしつけられたから、気づかなかったのも当たり前だけど」

「じゃあ、これが終わったら家に戻るの?」

「どうだろ。海賊生活も気に入ってるからなあ。結局、ちゃんと許可をもらってから、今の生活を続けるかも」

「そっか……」


「どした? なんか……顔色悪いよ。いや、まじで」

「い、今思い出したんだけど……僕、乗り物だめなんだよ。船とボートで揺れた分、この馬車は結構来る……!」

「えぇ! は、吐くなよ、吐くなら外だ。――ゲオ、ゲオ!」

「――あぁ? んだよ! 聞こえねえ!」


 サガノフとゲオルグの罵り合いのような会話を聞きながら、キラは前にも似たようなことがあったのを思い出した。

 エマール領リモン”貴族街”で、闘技場から逃げる際……シスの背中に思いっきりぶちまけた。あのときも、急に胸にせり上がるものがあったのだ。

 レオナルドの”隠れ家的ラボ”の”転移の魔法”は、なかなかの即効性があったが。乗り物に対しては、どうしても蓄積してしまうらしく。


「う、ぅ……」

「わあっ、早く! 早く止めてくれ!」

「だあっ、なんでこんな時にこんな緊張感ないことになンだよ!」


 わあわあと車内と車外が共鳴する中……。

 ひとまずは、間に合った。


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