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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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821.レベル

「それ、ただの石ころに見えるでしょ?」

「え? まあ……。変に整った薄い石……って思ってた」

「けどね。普通、スマホのバッテリーって、接続部分があって然るべきなんだよ。回路を通さなきゃ、電気は流れないからさ」

「はあ……。じゃあ、見かけの話として、単なる石には到底見えないってこと?」

「そ。キミたちの言い方を借りれば……そのバッテリーには、〝雷の神力〟そのものが埋め込まれてるんだよ」

「ん……んん?」


 これまでは、〝お守り〟は〝旧世界の遺物〟という認識があったため、そういうものだと思っていたが……。

 考えてみれば、〝雷〟を蓄えられるというその特性自体、おかしなものである。

 ヒトの身にはあまりある〝神の力〟……それを、内包しているのだ。蓄えるだけならばまだしも、それを〝神力〟として渡すこともできる。

 何であろうと、普通ではない。


〈ねえ、ねえ。じゃあさ。このバッテリーには……〝雷の神力〟のコピーが入ってるってこと?〉

「簡単に言えば、そういうこと。信じられなかったけど、〝氷枷〟と似通った周波数を検知したんだから、もう確定だよね」

〈希望が見えたのに、なら、なんでそんなに落ち込んでるの?〉

「そう見える? ……落ち込んではないんだけどね。ある可能性に気づいただけで。対策を講じるべきか否か……それが正しいのか否か。悩みどころなんだよね」

〈ん〜? どういうこと?〉

「いや……。これは、言わないでおくよ。今はまだ、きっとどうしようもないことだろうから」


 そうやって言及したことすらなかったことにするかのように。ネメアは、パンッ、と手を叩いて、口調も顔つきも話題も変えた。

「ところでさ。キミらの文明レベルを知りたいんだよね。時代を超えてやってきたなんて……こんな世にも奇妙な話、逃さない手はないよ」


   ◯   ◯   ◯


 いつの時代、どんな場所でも、牢獄というものの本質は変わらないようだった。

 暗くて、冷たくて、侘しい。窓もなければ、明かりもない。

 普通の人間であれば気が狂ってしまうような環境であるが……〝闇の神力〟有するブラックにとっては、どうということもない普通な一室だった。

 暗いと言っても、汚いわけではない。冷たいと言っても、寒いわけではない。侘しいと言っても、ベッド一つで簡素なだけ。

 むしろ、殺人未遂の犯人をぶちこむには、優しすぎるくらいである。

 造りも至ってシンプル。鉄格子つきの独房で、床も壁も天井も石レンガが敷き詰められている。

 脱獄など容易――少し前まで、ブラックもそう思っていた。


「真に興味深い。〝神力〟……ネメアの研究通り、かの〝亜空〟と似通っている。周辺環境を取り込み、己が力へと変換させる〝侵蝕の性質〟……げに恐ろしき〝力〟よ」

 見張りは一人。独房はほかにもいくつかあったが、それら全てが空。そういうわけもあって最低限で見張りを済ませているのだろうと判断したが……そうではない。

 その見張り一人が、シンプルに、強かった。


 〝闇の神力〟の特性を活かして不意打ちをしても。分身体を作って数的有利を作り出しても。〝覇術〟を込めた一点突破を試みても。

 ことごとく、看破され、いなされ、防がれた。

 屈辱すらも感じることができないほど、何一つ通用しない。


 驚くべきは、その見張りが単なる一兵卒ということ。

 今、目の前で興味津々にのぞいてくるオロスという中年男によれば、成人したばかりの新人らしい。

 むろん、不躾な視線をくれるオロスにも食ってかかったが、結果は同じ。

 傷一つどころか、表情すら微動だにすることなく、すべての〝闇〟を叩き潰された。〝覇術〟にも似た〝波動術〟とやらで。


 言い訳はいくらかある。

 〝ショート〟とやらの影響が抜けきっていなかったり、時代を超えたためかひどく疲労していたり、〝ペンドラゴンの剣〟が没収されていたり。

 だが、そのどれもがほんのわずかな誤差でしかないほどに、オロスや見張りとの実力差は圧倒的だった。


「貴様らは……なんだ。本当にヒトか」

「哲学的な質問だな。我々が人で在るか否か? あの〝獣〟が地上を支配する前には、自然豊かな土地が有ったと云う。数多息づく生命あって初めて〝人〟足り得たと、先代たちは考えておられた。何故ならば、〝人〟もまた自然の一部。それが今や……」

「そんなことは聞いてない。俺の〝闇〟に……仮にも〝神〟と称される〝力〟に、なぜ抗うことができる。本当に、俺と同じ、〝ヒト〟かと聞いている」


「ああ、其方か。そう云う聞き方をしてくれなければ。我々と、〝迷い人〟たる君らとでは、生きる時代が違う。常識も、環境も、何もかも。そして恐らくは……生物としての機能にも、大きな差がある。故に、君の云う〝ヒト〟と、我々が指す〝人〟とは、別の種であると言える。専門外故、それ以上詳しい事は解らんが」

「……機能。差」


「そしてもう一方。これは私としても大変興味深い。君と、そしてもう一人の〝迷い人〟が持つ〝神力〟。ありとあらゆる法則をその場で書き換え、意のままに操るとは……! 驚きも驚きだが……私は似たものを目にしたことがある。〝亜空〟と呼ばれるものだ。未知のものでも、〝理〟の外にあるものでも無い……対処は可能だ」

「……そうだろうな」


 オロスも見張りも、身体能力が異常に高い。

 力があるのはもちろん、ちょっとやそっとでは崩れない体幹も、憎きキラとも肩を並べるほどの反射神経もある。

 あのネメアでさえも、〝怪物〟の脅威にさらされながらも〝カゼキリ〟を駆る胆力があった。逃げ切るまで一切体勢を崩さず、それどころか雑談する余裕すらあったのだ。

 確かに、生物として根本から違う。


 さらにその上で、〝覇術〟まがいの〝力〟を有している。オロスのような根っからの武人や、職務上武力を必要とする見張りだけでなく、おそらくはこの〝時代〟に生きる全ての人間が同じだけの力を有すると考えて間違いない。

 ネメアの言葉を借りるならば、全員がもれなく〝波動使い〟なのだろう。


 そして現状、ブラックは……もちろんキラも、底辺も底辺。

 どれだけ本気で戦おうが、どれだけ不意を突こうが、赤子の手をひねるが如く、敗北する。彼らにとって戦いですらないかもしれない。

 それを実感したからこそ、ブラックは徐々に一つの決意を固めていた。


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