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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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819.既知

 昨日別れた時とは、少しばかり格好が変わっていた。

 タンクトップとジーンズというラフな格好だったのが、ツナギ姿になっている。

 手袋も靴も厚めのものを着用し、おまけに首にはスカーフをまいているため、顔以外は一切素肌が見えなくなっていた。


「やあやあ! なにやら盛り上がってるようじゃないか! イロンと気が合うようで何より!」

 何やら随分なハイテンションなのは気のせいではない。なにしろ、目の下にもの凄まじい隈を蓄えているのだ。


「ネメア……。君はまた寝なかったのか。医師として休憩なしの徹夜はやめておけと、あれほど……」

「あーあー、聞こえなーい! 何だってッ?」

「はあ……。まあいい。キラくんから新たな検体をもらったのでね。ぼくはこれを調べるとするよ」

「へえ? また? 検査は済んだんじゃないの?」

「彼は〝迷い人〟である以上に、極めて稀な生まれにある。興味は尽きんし、何を見ても検査対象になる」

「ふうん? おもしろそ。あのさ……」

「ダメだ。君は熱中すると寝ることを忘れる」

 スススと近寄るネメアを押しのけ、イロンは足早に医務室を去った。


「ちぇっ……。まあいっか。解析できたよ〜。ポーチ、ありがとね。あと刀は……机においとくね」

「ん……」

 ぽん、とネメアが放ってきたポーチを、キラは危なげなくキャッチした。

 何事もないとは思いつつも、中身を確認する。

 布団の上に転がったのは、師匠ランディからの譲り受けた〝お守り〟と、〝氷の使徒〟エンリルに作ってもらった〝氷枷〟がいくつか。

 小指の爪ほどの小さな結晶は、事前に聞いていた通り、一つだけ減っていた。


「それにしても、〝神力〟っていうのは不思議だね〜。次から次に疑問が湧いちゃって……寝かせてくれないんだもん」

「イロンも言ってたけど、そこはちゃんと休憩とりなよ……。けど〝神力〟を調べたいって、一体何を知りたかったの?」

「ん〜……。そうだなあ〜……何から話そうか……」

 ネメアは喉の奥が見えるほどに大きな欠伸をしてから、クルクルと回転する椅子に腰掛けた。それから伸びをして気持ちよさそうにため息をつき、椅子で部屋中を散歩し始める。


「究極的な目的はさ? キミの〝雷〟をコピーすることなんだよ」

「コピー……? それなら僕が手伝った方が……」

「あのね? 〝雲酔い〟に乗り物酔い、さらには〝怪物〟に追っかけられてヘトヘトになったコを、引っ張り回すわけにはいかないでしょ? 検査だって控えてたんだしさ」

「おお……。そこらへん、まともなんだ?」

「わ、失礼! ……まあ、考えなくもなかったんだけど」


 あっけらかんとしていうネメアは、再び大欠伸をかました。

 くは、と息をついてから、フルフルッと首を振ったのちに、机の隣に置かれた長方形の箱に近寄った。

「ん〜、冷蔵庫には……? コーヒー……ブラック飲めないんだよね〜。あ、エナドリあんじゃん。イロンのかあ……飲んじゃえ。徹夜はダメなんだよ」

 冷蔵庫とやらから瓶を取り出し、ネメアは躊躇なく蓋を開けた。きゅぽ、とコルクの栓を外し、証拠隠滅とばかりにツナギのポケットに隠し入れてから、クイッとあおる。


「〝氷枷〟……だっけ? ビー玉みたいにちっちゃいのに、びっくりするくらい〝力〟がこもってんだね。危うく研究室が氷漬けにされるとこだったよう」

「氷漬けって……。大丈夫だったの?」

「びっくりはしたけど、あれくらいじゃあ何ともないよ。〝波動術〟使えば、凍らされたこの手もこの通り」

 情け容赦なく『えなどり』を飲み干したネメアは、瓶を持った手を見せてきた。特別何かあったような動き方ではないが、どうやら凍らされたらしい。


「ブラックの〝闇〟も凍らすのに……。どうやって?」

「あり? イロンから聞かなかった? 〝波動術〟のこと」

「大体は……。けど難しくって……よく覚えてない」

「彼、〝学術院〟からオファー来るくらい賢いんだけど、どうも人のこと考えずに話す癖があるからなあ。バカなんだよ、ごめんね」

「や、まあ……。要点はわかったから。〝波動〟は脳みそで操るもの……なんだっけ」

「ん〜……そう言い切ると語弊があるけど、一応その解釈で合ってるよ。けど確かに言葉じゃあ伝わんないことが多すぎだから……。実践してみる?」

「ほんと? いいの?」

「うん。キミらって、絶対じっとしてられないタチでしょ。私たちとしても、キミらの〝覇術〟ってやつには興味があるんだよ」

「そういえば……。似て非なるとか、別種とか言ってたよね。〝波動〟と〝血因〟もほぼ別物って話だったし……」

「だいたい見当はついてるんだけどね。やっぱ実証ってのは大事なんだよ」


 ネメアは飲み干した瓶をしばらく眺めたのち、テーブルに置いた。

 引き出しを探ってペンと紙切れを取り出し、さらさらっとペンを走らせる。『ごちそうさま』だの『飲んじゃった』だの書き置きしているのだろう。


〈それで、ネメアちゃん。〝雷〟のコピーって、どういうこと? そんなことが可能なの?〉

「ん? いやに食い付くね。それを確かめるための研究だよ。……ほぼほぼ比較検証だったけど」

〈……? どういうこと?〉

「キミらが〝波動〟を知ってたように、私たちもまた、〝神力〟ってやつを知ってたんだよ。……〝カミ〟は知らないけど」

 エルトが隣にでもいたら顔を見合わせていただろう。実際には疑問符を浮かべるばかりで、ネメアの話の続きを一緒に待つばかりだった。


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