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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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817.脳みそ

「――先の言葉の意味通り、キラくんのものではない」

 キラは恐る恐る自分の体を触っていた手を、頭に持っていった。いつも通り頭皮を書いてみるものの、特に痛みなどの問題はない。


「少し訂正しよう。脳みそもまた、元からその形だったかのように、完璧に結合している。もはや融合と称したほうがいいかもしれない。ゆえに、たとえばとんでもない頭痛が襲うだとか、突然物忘れが激しくなるだとか、そういう機能的な問題は発生しない。『だろう』という憶測ではなく、そう断定できてしまう」

「じゃあ……問題ないってことなんじゃ?」

「――君たちにとっては、今や普通のことなのだろうが。一人の人間が、同時刻に、二つの性格を有するということはまずない。二重人格であっても、だ」

「あ……。そういう……」

「詰まるところ。君の脳みそは、キラくんのものと……おそらく、エルトくんのもので出来ている」

 衝撃といえば衝撃ではあったが、納得感の方が強い話だった。エルトも、ようやくわかった事実に、ほっと一息ついている。


〈なあんだ……。じゃあ、いいじゃん?〉

「楽観的だな。それほどに互いを信頼していると言えるが……。しかし、ことはそう簡単ではない。医学的には問題ないにしても、〝波動〟という観点から考えるとあまり好ましいことではない」

〈〝波動〟ねえ……〉

「とはいっても……どうやら、似て非なるそれらしいが。君たちは、コレをどう呼んでいる? ネメアの話では、尋常ではない速度で走っていたと」

〈んー……。わたしたちとあなたたちでは、少し前提知識が違うから……〉

「ふむ、それもそうだ。話しやすい順に説明を願いたい」


〈わかった。まず……私たちの時代にも、〝波動〟っていう概念はある。ただ、それは竜人族っていう一部の人種にしか伝わっていないものなの〉

「ほう……。少し待ってくれ。〝念話〟による会話は音声記録は残せないから……メモを取ろう。フリックでのメモは久しぶりだな……」

 イロンは資料をテーブルに置いて、白衣の内側に手を差し入れた。スーツのポケットから何やら小さな板を取り出し、パタパタと親指を忙しなく動かす。


「で? その竜人族とやらに、この時代における常識が伝わってた、あるいは残っていたのか。そして、君たちは竜人族の友人なり知人なりから、〝波動〟にまつわる話を聞いた……と」

〈ただ、そこでちょっとややこしいのが……。私に関しては、〝波動〟を別の形で知ってたの。魔法における〝気配〟として〉

「出たな、魔法……! ――そうか。君らの時代でも、〝波動〟は依然世界の〝理〟として在り続けている。その〝理〟の解釈を、魔法という常識に照らし合わせて、〝気配〟という考え方に落とし込んだのだな」

〈り、理解が早いぃ……〉

「む……? すまない、少し脱線するが……。ということは、その魔法とやらは、何か別の形で〝波動〟に干渉するのか。もしや、無から有を生み出す? いや、違うな……〝波動〟の性質を考えれば……自然現象を引き起こす? いわば――〝魔法現象〟」

〈どうしよう、キラくん……! 古代人、ほんと怖いんだけど! 何で説明もしてないのに当たってんのっ?〉


 キラも、少しだけ鳥肌がたった。

 当てずっぽうなどではない。自分の知識と照らし合わせ、しかし己の常識にとらわれることなく、答えを導き出す。たったの数秒で。

 レオナルドはいやに〝神殿〟に執着していたが、それも無理からぬ話だった。

 古代人の叡智の結晶が〝神殿〟に詰め込まれているのだとしたら……。たしかに、その全貌を知りたい気持ちが湧いてくる。


「ふむ、そうか、そうか……。ここから先の話を当ててみよう――人体にある〝波動〟は、また別の呼び名があるな?」

〈怖いぃ……。確かに、〝覇〟とか〝血因〟とかって呼び方してるけど……何でわかったの?〉

「似て非なるものと言ったろう。どういうわけか、君らの中の〝波動〟は、ぼくたちが有するものとは別種になっている。〝波動〟の亜種……いや、それよりももっと異質に進化を遂げた変異体と呼ぶべきだろう」

〈うん。だから、リョーマくん……竜人族の友達も、自然界のを〝波動〟、人体内のを〝血因〟って定義づけたって〉

「……きっと君は、そうなった要因を知っているのだろう? でなければ、〝波動術〟を使えるわけがない」

〈言わない。まだ、絶対に。なんか……なんか、ずっと言い当てられて、悔しいから!〉

「そうか……。それは……燃えるなあ」

〈もぉやだぁ……!〉

 喧嘩を売った気持ちは何となくわかるが、古代人相手に何日持つか。キラは吹き出しそうになるのを我慢して、イロンに話を振った。


「で……? 僕とエルトの脳みそが、どう危険だって?」

「む? そこまでは言っていない。現状、ぼくたちの持ちうる常識と知識では、あまり好ましくない状態であるかもしれないと指摘しただけだ」

「……? え?」

「先ほども言及したが、君らのいう〝血因〟は〝波動〟の変異体だ。ではどう変化しているのか? 〝侵食〟ともいうべき性質を持っているのだ」

「ああ……。それは……。まあ、知ってるけど。脳みそを侵食されると暴走してしまう、って話でしょ?」

「うむ。で。何を持って『この性質は〝侵食〟と呼ぶべきだ』と、ぼくたちが判断したのか。〝波動〟の性質そのものを暴走させる役割を持つのだ」

「〝波動〟の……性質?」


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