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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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814.敗北

 三秒間だけ、キラは周囲の状況の確認をした。

 前をいくネメアは少しずつ遠くなっている。

 何人か人が通り過ぎようとしているが、少なくとも十メートルほどは距離がある。ワゴン車は列をなして動いているが、最悪巻き込んでも問題はない。


 そう把握したところで――ブラックが動いた。

 キラも、〝気配面〟を高めてその動き方をミリ単位で察知——迎撃に動く。


「〝闇〟を使わないなんてね……! ずいぶん律儀じゃん!」

「ハ! 貴様などこれで十分」


 一歩前進しつつ、反転。同時に、〝センゴの刀〟を抜刀。

 ブラックは音もなく、首を切り落としにきていた。〝ペンドラゴンの剣〟の軌道を読み、切り結ぶ。

 その瞬間、キラは目を細めた。


「押される……!」

 〝気配面〟のおかげで初手は防いだ。

 体勢が悪いというわけではない。乗り物酔いが影響しているとはいえ、押し負ける要素はほぼない。


 単純に、力負けしている。

 記憶にあるかぎりでは、これまでブラックにパワーで押し込まれたことはない。そもそもそういう戦い方ではなく、そういうタイプでもない。

 つまりは――。


「〝攻撃面〟特化――いやになる!」

 リケールで戦った時とはまるで違う戦法にこそ、キラは毒づいた。


 一歩距離を取ろうにもすぐに詰められる。

 そこで受け身になろうものなら、力で押し切られる。

 反撃をしても簡単に弾かれる。

 〝気配面〟で回避はできるが、打つ手が徐々になくなっていく。

 しかも。


「貴様こそチョロチョロと……!」

 ブラックには、まだ〝闇の神力〟がある。

 〝ショート〟の影響が色濃く残っているおかげで、威力も範囲も小規模。だが、〝覇術〟と組み合わせられると、バカにできないほどの力を持つ。


 〝気配面〟でなんとかいなしつつ、隙を見て腹や脇を斬りつけるものの――瞬間的に膨張する〝闇〟の一撃で、キラは吹っ飛ばされてしまった。


「ぐ……っ」

 ワゴンの一つに突っ込み、積荷に埋もれる。中は〝死んだ大地〟だったらしく、木箱が弾けてあっという間に土まみれになってしまった。

 そこで、ネメアも周りの人も事態の深刻さに気づいたらしい。


「ちょ――えっ! 何やってるの、二人とも!」

 ブラックは構わず畳み掛けてくる。

 キラは〝防御面〟を展開し、左腕で〝ペンドラゴンの剣〟を受けた。


 角度と、位置と、受け方。未熟な〝覇術〟でも受け切れるよう全てを完璧に調整したつもりだったが、ぐ、と嫌な食い込み方をする。

 ヒヤリとしたものを感じつつ、キラは剣を払いのけた。


 パ、と鮮血が散る間にも、〝センゴの刀〟を差し向ける。

 しかし、根強く居座る乗り物酔いと、土まみれになった衝撃と、左腕の痛みとで、狙いがブレる。


 ブラックは難なくバックステップで回避。

 その瞬間に、キラは〝未来視〟でその次の行動を視た。

 〝闇〟が手のひらに集結する――その一撃を持って終わらせるつもりか――防がなければやられる――。


 〝防御面〟、よりも、〝雷〟。

 いつもの理論をすっ飛ばして、感覚で〝雷業〟を左手に宿す。


 息をするのも忘れて立ち上がり、殺意と共に迫ってくるブラックへ向ける。

 〝雷〟と〝闇〟がぶつかる――その直前で。


「双方、そこ迄だ」

 警備員らしき男が割って入った。

 あまりにも無謀な行動にキラは驚き――その次に〝雷〟も〝闇〟も握りつぶされたのには、言葉すらでなかった。


〈え、なんで……!〉

 何が起きたかは定かではない。

 ただ、手首を掴まれただけ。たったそれだけで、〝雷業〟が霧散してしまったのだ。ブラックもそう。


 キラは反射的に警備員の手を払いのけた。

 観察しながら左手に〝雷〟を通してみると、いつものようにバリバリと音を立てて漏れ出す。


「何が……?」

 キラが呆然としている一方で、ブラックは次なる行動に出ていた。

 〝闇の神力〟が消されたことに、本能的な危機感を覚えたらしい。〝ペンドラゴンの剣〟に〝闇〟も〝覇術〟も通して、警備員に切り掛かる。


「ううむ、その心意気や良し」

 警備員も携帯していた剣を抜き去り、真っ向から対抗。

 ブラックの剣は黒く染まり、さらには〝覇術〟のオーラが血の色として漏れ出ている。〝センゴの刀〟でも、何もなしには切り結ぶこともできないだろう。

 それを警備員も、わかっていた。

 だからこそ……。


「この〝気配〟……!」

〈〝覇術〟……ッ?〉


 なんの間違いでもなく、警備員も〝覇術〟を剣に纏わせた。

 真っ向から〝ペンドラゴンの剣〟を受け止める――だけでなく、金属音が響いた次の瞬間には、ブラックの脇腹を切り裂いていた。

 まさに魔法のよう。

 この時代特有の未知の技でも使ったのではないかとも思ったが……違う。


 きちんと、ブラックの剣術を上回っていた。

 刃が交わったその瞬間に小さく弾き。するりと抜けるようにして剣を振り抜いたのだ。真正面から剣を合わせに行ったのも、その速さを活かすため。

 正確さといい、緩急の付け方といい、舌を巻くほどの腕前だった。


「クッ……!」

「ほう、避けたか。だが――もう受けきれまい?」

 体勢を崩されたブラックには、もうなす術がなかった。元々、リケールでの戦いで消耗し、〝ショート〟の影響も色濃く残っているのだ。

 抵抗する間もなく、昏倒させられた。


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