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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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804.鼓動

 皆……ルセーナもレルマも〝アルマダ騎士団〟も、十一人分の惨殺死体が転がっていることに困惑を隠せないでいる。

 明らかに異質な〝力〟を持った海賊たちに、誰もがどう立ち向かうべきかと考えていたのだろう。

 そんな皆の恐怖を一切気にすることなく、キラはほぼ刀一本で切り抜けた。

 竜ノ騎士団〝元帥〟の異常な強さを肌で感じ取ったようだった。

 ただ一人、リーウだけは、キラの威圧的なまでの存在感に、逆にすっかり安心し切ったらしい。意識を失い、ぐったりとしていた。


「すぐにでもキラを追いたいけど……。リーウさんもローランさんも放っておけないな……。守ってくれてたんだろ?」

「うん。ローランさんがドームのバリアを張ってくれて、リーウさんが〝毛糸の魔法〟の応用で時間稼いでた。命の恩人」

「なら、まずは二人を安全なとこまで移動しよう」

「ん。けど、その前に……二人を治療したい」

「治療したいって……。ドミニクももう限界だろ?」

「もう動いてられない……。けど――新しいこと、もっと挑戦したい」

「――よし。じゃあ、背負ってやるから思いっきりやってみろ」

 まるで伸びた猫のようにぐったりとしているドミニクをゆっくり背負い、立ち上がる。思いのほか勢いがつき、足元がふらついてしまう。


「っとと……。ドミニク、すごいな……。俺、ほんと死にかけだった?」

「冗談でもそんなこと言わないで。どれだけ肝冷やしたか……!」

「わ、悪い悪い。けどよ、ちょっと脱力感はあるけど、全然ピンピンしてんの。なんなら怪我する前よりも調子いいぞ」

「そんなことよりも、早く。二人とも重傷なんだから」

「どっちが先だ?」

「――同時」


 自信満々にいうドミニクを信じ、セドリックは〝アルマダ騎士団〟の一人に声をかけた。

リーウとローランを並べて寝かせてもらう。

 そこでようやくルセーナが我を取り戻し、その状況に慌てて行った。


「おいおいおい! お前ら、安静にしてなきゃダメだろ! 二人はアタシらがちゃんと看るから……」

「大丈夫っすよ、ルセーナさん。俺も、この二人も」

「はあ……?」

「まあ、見ててください」


 ルセーナは……そしてレルマも、訳がわからないというように怪訝そうにしていた。

 その表情を見て、セドリックもようやく自分の中に眠る才能を理解することができた。

 ドミニクはすでに治療の準備に入っている。傍目にはだらんと背負われているだけだが、濃い〝気配〟がぼとぼとと溢れ出ているのだ。

 その異様さは鳥肌が立つほどだが、ルセーナもレルマも他の〝アルマダ騎士団〟も、気付いた様子はない。


「――いける」

 ドミニクがそう呟かずとも、セドリックにはわかっていた。

 小さな恋人が垂れ流した魔力は、それ自体が生きているかのように空気中をにょろにょろと泳いでいく。

 その先端が、ぴと、とリーウとローランの体にくっつき、二人の怪我人に干渉を始めた。


「いつものとは全然違うな……!」

 セドリックが目を見張っているうちにも、ドミニクの〝治癒の魔法〟が生き物のように蠢く。

 二人に絡みついた〝気配〟が脈動し、適合し……全く別の〝気配〟へと変化する。どうやら、それぞれの魔力が持つ〝気配〟とシンクロしたらしい。


 すると、ドミニクの魔法が身体へ浸透し、〝治癒〟という形をあらわにする。

 側から見ても凹んでいたリーウの横腹が徐々に元に戻り。ローランの割れた額もあっという間に元通り。


「マジかッ……! こんな魔法、見たことねえぞ……!」

「本当ね……! 普通、一度に複数の施術はできないっていうのに……」

 その異様な回復力に、ルセーナたちは驚くばかりだった。

 セドリックも同じく驚嘆していたが、それ以上に背中のドミニクの熱さに心底慌ててしまう。


「お、おい、大丈夫か? ものすげえ熱出てんじゃん!」

「うん……うん……。平気……。まだ、もっと、試したい」

「いやいやいや! もう十分だって。二人とももうすっかり回復したんだぞ? これ以上何を試すって……」

「〝鼓動〟が……視える」

「鼓動……? なんの? みえるって、なんだよ」

「たくさんの〝命の鼓動〟……。あっちに……エリック、いる」

「……!」


 想像もしていなかった言葉に、セドリックは息を呑んだ。

 どうすべきか、考えるまでもない。

 〝ローレライ海賊団〟の本隊が排除されたとはいえ、まだ多くの海賊がリケールでのさばっている。

 本隊が抹殺されたという情報が回れば沈静化するかもしれないが、これを気にマフィアたちが大暴れするかもしれない。

 しかも、〝パサモンテ城〟からは吐き気のするほどに強い〝気配〟。

 この混沌としていく状況の中でドミニクが見つけてくれたのは、ほとんど奇跡と言える。これを逃せば、もう二度と会えなくなるかもしれないとすら思った。


「あの、ルセーナさん……!」

 思うままに突っ走りたかった。

 だが、今もなお任務は継続している。竜ノ騎士団〝見習い〟としての役目を果たさねばならない。

 〝元帥〟たるキラは、この場における指揮の一切を〝アルマダ騎士団〟に任せた。

 リーダーとなるカルサダという中年騎士の命令を無視すれば、キラの顔に泥を塗ることになる。引いては、竜ノ騎士団全体の問題として捉えられるかもしれない。

 もどかしくはあったが、セドリックは不満を持つ前に行動を起こした。


「俺らの友達、迎えに行ってもいいっすか。そういう風に取り合ってもらえると……その……!」

「……こーいうときにアタシに振るなよな。断れねえの」

「じゃあ……!」

「一つ条件がある。アタシと騎士団数人もついていく。どういう原理だかは知んねえけど、さっきの口ぶりからして、ヒトの居場所がわかるんだろ?」

 問いかけられたドミニクは、弱々しい口調ながらもしっかりと答えた。


「うん。ヒトの命が……〝鼓動〟が、水面の波紋みたいに視える。遠くても近くても……弱かったり、強かったり、その強弱がわかる」

「ってことはよ。人命救助に役立てるってもんだろ。流石に一般市民かどうかなんてわかりゃしねえだろうけど」

「知ってるヒトなら、なんとなく見分けがつく。エリックなんて幼馴染だから」

「そっか。だったら、道すがら弱い〝鼓動〟ってやつを見つけたら教えてくれ。きっと大怪我してるだろうからよ」

「うん、わかった。私も……人命救助の力になりたい」

「決まりだ。――やっとこさ再会できるんだろ。首根っこ引っ掴んででも連れていくぞ」


 一緒に旅をしている時から、甘いだなんだと言っていたルセーナだが、ここ一番で理解を示してくれる。

 そのことにジンとしていると、どこからか雷鳴が轟いた。


「この〝気配〟……」

「どうした?」

「――たぶん、今の、キラの応援要請っす。こんな状況でムダ撃ちする訳がない……! きっと、何かあったんだ」

「……なんつーか、さすが海外任務に派遣された奴らなんだな」

「え?」

「なんでもない。エリックってのがいるのと大体方向は同じだな。まずは要請地点から向かうぞ」

「うっす!」

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