表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

828/961

803.無理難題

「――! 腕が……!」

 エルトの〝覇術〟で空中へ駆け出し、シスを受け止める。

 ずいぶんとボロボロだった。いつもの黒マントは至る所が焼かれ、病的な白い肌が焦げている。

 さらには、左腕がない。真っ黒になっているところを見ると、〝紫の雷〟にやられたらしい。炭化してくずれたか、あるいは自分で切り離したか……。


 いずれにしろ重傷。息は安定しているものの、満足に動ける状態ではない。

 キラはサッとあたりを見回した。

 一帯は災害にでもあったかのように瓦礫だらけだったが、今はそれが幸いした。大きな瓦礫の物陰に目をつけて、素早くシスを移動させる。


「シス、シス! 聞こえる? 返事して!」

「あ、ああ……すみません。耳鳴りが……ひどくて……。どなたかすみませんが……」

 シスは譫言のように呟き、その様子にキラは焦りを感じた。


〈目も見えてない……! 救援を……〝アルマダ騎士団〟は……!〉

〈キラくん、落ち着いて。目はやられてないから、多分一時的なもの。出血はないみたいだけど、下手に動かしちゃダメ〉

〈ん……。うん、わかった〉

〈私たちじゃ治療はできない。だから、合図を送って。〝雷〟を空に放つんだよ〉

〈それだけ……? 〝隼〟でぶっ飛んでルセーナたちにでも知らせた方が……〉

〈戻って、説明して、連れてきて……それだけでどれだけ時間かかるか。――大丈夫。セドリックくんがすぐに気づいてくれる〉

〈けど、気づかなかったら……!〉

〈もう。仲間でしょ? あの子たちの力を信頼しないと。だからいう通りにする〉

〈――わかった〉


 キラはすぐそばに落ちていた鉄の棒を取り、羽織っていたマントを巻き付ける。周囲の瓦礫で一番目立つところに引っ掛け、空に向かって〝雷〟を放った。

 それから物陰に横たわるシスのそばに膝をつき、声をかける。


「シス、シス。きっと助けが来る。それまで頑張って」

「……? ああ……ああ、キラさん、でしたか……。僕なら……平気、です」

 明らかに平気そうではなかったが、その言葉とセドリックたちの判断力を信じることにした。

 一度ぎゅっと手を握ってから、立ち上がる。

 〝パサモンテ城〟へ向けて再び走り出す……そのタイミングで、空から何かが降ってきた。ドンッ、という衝撃音と共に瓦礫の山に突っ込む。


〈いよいよ余裕がなくなってきた……〉

〈って時に来るんだよねえ〉

 薄々……。こうなるのではないかという予感がしていた。

 〝ローレライ海賊団〟の乱入はともかくとして、〝パサモンテ城〟を中心として広がる〝闇の雲〟には気づいていた。

 ブラックが姿を表すのではないかと警戒していたくらいである。

 二体の〝人形〟と同時に相手をするのはきついが、何もブラックは〝始祖〟の仲間ではない。逆に、利用すれば〝緑の炎〟も厄介なことになる前に片付けることができると踏んでいた。


 ところが想定はまるっきり外れてしまった。

 そもそもの話、なぜブラックが〝ローレライ海賊団〟と行動を共にしていたか謎だったわけだが……たった今、その答えが形を成して降ってわいてきた。


〈この〝気配〟……〉

〈〝覇術〟……! ローレライ海賊団〝総督〟ヒューガは竜人族……一緒にいた意味がようやく理解できたわね〉

 空から降ってきた何かのかわりに、瓦礫の山からインコが飛び出ていく。

 戸惑うように瓦礫の上をくるくると旋回していたものの、少ししてから我を取り戻したように飛び去っていく。

 そのインコの行方をじっと見守る人物が、瓦礫のそばに立っていた。


 風で揺れる長い髪の毛は、輝くように真っ白。

 というのに、その顔つきは冷徹極まりない。血のような真っ赤な瞳も相まって、その視線でヒト一人を殺してしまいそうなほど。

 闇に紛れるような漆黒のコートに、名剣〝ペンドラゴンの剣〟。

 〝闇の神力〟を有するブラックが、血のような瞳をじろりとむけてきた。


「なるほど……女の〝声〟。貴様のあの右目はそういうわけか……」

〈わお。じゃあ、はじめましての挨拶しなきゃあね。私はエルト……よろしくね〉

 ブラックはその返事でもするかのように、髪の毛も〝ペンドラゴンの剣〟も〝闇〟で染め上げた。


「一つ聞こう……。なぜレオナルドを殺した」

「……死ななきゃならなかった」

「前にもそう言っていたな。――それで俺が納得するとでも?」 

「なんにしろ……納得なんてしないさ。――僕もそうだった」


 殺気とともに〝力〟が膨れ上がる。

 〝闇の神力〟と〝覇術〟とがないまぜとなり、あたり一帯の空気がブラックに掌握される。

 その様を見て、キラは気を引き締めた。〝センゴの刀〟に手をかけ、いつでも抜刀できるように構えておく。


 レオナルドには、ブラックのことを頼まれている。

 止めるか、さもなくば、殺すか。

 どちらにせよ、難しい話だった。


   ◯   ◯   ◯


「すっげえ……かった」

「うん……」

 思い返してみれば、セドリックはこれまで一度もキラの本気を見たことがなかった。

 何度も模擬戦に付き合ってくれたし、〝王都武闘会〟でも元帥アランとの理解不能な攻防を目の当たりにした。


 ただ、生死をかけた戦いという点においては、立ち会うことすら稀。

 キラは強い。一人で戦局を覆してしまうほどに。

 だからこそ、〝武装蜂起〟でも基本的に単独行動だった。

 〝黄昏現象〟の際にも別行動で、〝奇跡の街〟パクスの一件でも一人で敵アジトに乗り込んだ。アベジャネーダに至る旅路に至っても、盗賊団を軽く捌いただけ。

 そのためセドリックにとっては……おそらくはドミニクにとっても、天然ボケの入った〝優しい友達〟だった。


 ただ……〝命を懸けた戦い〟を目の当たりにすると、イメージが変わる。

 それが彼の常であること。彼が真の意味で戦場に身を置いているということ。一秒先の安全も保証されない中で、それでも強くいられること。

 どれだけの苦難を乗り越えてきたのか、目の前にしたかのようだった。


 ――友達を殺したのだと、リケールまでの旅路で聞いた。

 その話にショックを受けたのは、キラが〝優しい友達〟だったから。彼がそんなことをするはずはないだろう、という先入観が少なからずあった。

 今は、少し違う受け取り方ができる。


 骨の髄まで戦士であるキラだからこそ……戦場の残酷さを知り尽くしているからこそ、そう判断せざるを得なかったのだ。

 その悔しさがどれほどのものか、推しはかることなどできはしないが……。

 だからこそ。


「あいつを……。独りにしちゃあおけないな」

「同じこと……。思った。間違っても、先には死ねない」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=811559661&size=88
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ