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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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823/957

798.遭遇

   ◯   ◯   ◯


「ハァ……ハァ……!」

 〝パサモンテ城〟で起こった何もかもを、エリックは理解できなかった。

 〝青い炎〟が吹き荒れたと思ったら、マントを真っ白にした乱暴なシスに追い立てられ。訳もわからず逃げているうちに、まるで海の中にでも飛び込んだかのような違和感を覚え。急激に疲労感が襲う。

 それでもがむしゃらに走っていたところ、いつの間にか違和感が消え……そこで力尽きてしまった。もう一度走り出そうにもよろりと一歩踏み出すに止まる。


「なんだよ……。ホント、何がどうなってんだ……?」

 小高い丘の上に立つ〝パサモンテ城〟から逃げ出すには、長く蛇行する坂道を走るしかなかった。

 〝イエロウ派〟騎士たちに追われるようなことはなかったが……下町に出てからが問題だった。


 戦火が広がっていたのだ。

 あちこちで怒号が飛び交い、火の手が上がり、魔法の渦が巻き起こる。騎士と、海賊と、マフィアとが、ごちゃごちゃになって戦っていた。

 しかも、どういうわけかそこら中に海賊船が落ちている。地面に突き刺さっていたり、建物に乗ったり、ともに横倒しになっていたり……。


 立ち尽くしたままでは巻き込まれてしまう。

 エリックは体を引きずるようにして、しかしながら決してアテナを落とさないように、瓦礫の隙間に身を潜めたのである。


「どいつに頼りゃいいかわかりゃしねえ……! とりあえず、なんとか魔法は続いてっけど……」

 シスの〝強制共鳴〟による〝氷の魔法〟は、まだ左手に宿っている。

 走っている間に何度も消えかけ、その度にアテナの命の灯火を消してしまう恐怖を覚え、必死にコツをつかんだ。

 そのおかげで、難なくアテナの発熱を覚まし続けることができている。

 だが、左手に感じる少女の額は依然として熱いまま。限界手前で押し留めているような状態だった。


「どこに行けばいい……? いや、下手に動けば見つかっちまう……」

 少し前ならば、自分に解決する力がないことを嘆いてたただろう。だが今はそんなことなど一切どうでも良く、ただアテナを助けるために頭が働く。

 現状維持ではアテナが持たない――かといって〝強制共鳴〟による魔法を強めることなどできない――辺りには敵がウジャウジャ――。


 希望があるとしたら、シスが口にしていた〝アルマダ騎士団〟。

 さきほどのごちゃついた戦場では到底見極めることなど敵わないが、救助活動をしているというのならば、何もそんな危険地帯へ向かわなくてもいい。

 戦いに巻き込まれないよう動きつつ、彼らの声を探せば……。

 となれば、おとなしく待っていることはできない。エリックはそう判断して、苦しそうにうめくアテナに声をかけて励ましながら、物陰から出る。


 そこで――。

「ここにいたか」

 呼び止めるような声にヒヤリとした。

 海賊かマフィアか、それとも偽物の戦士ヴォルフが追いかけてきたか……嫌な想像を一瞬で膨らませる。

 そろっと振り返ると、そこには息を切らしたマーカスがいた。


「ま、マーカスさん……!」

「ハァ……ハァ……ふぅ! 良かった、無事合流できて。いや、アテナのほうは無事ではないようだが……まあ、ともかく、まだ何事もなくて良かった」

「けど、マーカスさんは……すげえボロボロじゃないっすか……!」

「これか? これは……あー……。こいつを盗み出すときにヘマをしてな。包囲網を脱するのに時間がかかった」


 青いマントは傷だらけで、内側に見える鎧にも切り傷やら煤やら、無事には済んでいない。

 背負っている〝モルドレッドの槍〟には血痕の一つもないのを見るに、逃げに徹していたらしい。

 マーカスは自分のことをバカだというが、その実、アテナもびっくりするほどの記憶力と理解力がある。

 囮になってくれていたのは間違いない。その上で、無駄な血を一滴も流すことなく、駆けつけてくれたのだ。


「ありがとうございます、マーカスさん」

「なんのことやらわからんが……。それはともかく、アテナの容体はどうだ。随分と酷いように見えるが……」

「酷い熱っす。細かいことは省くっすけど、〝氷の魔法〟の手で冷やしてても、全然治んなくって……。それどころか、全身に熱がこもってきてる感じで」

「――動かさないほうがいいな。少し揺れるだけでも〝気配〟が不安定になっている……〝神力〟の暴走が近い」


「じゃあ、どうすれば……!」

「大丈夫だ。エリックが頑張っているし、俺もいる。ここ――俺のマントを敷いたところに寝かせてやってくれ。で、枕になるようなものがあれば……」

「うっす――えっ!」

「? ――!」

 エリックは指示に従うのも忘れて棒立ちになり、マーカスもソレに気づいて〝モルドレッドの槍〟を構える。


「……下がっていろ」

 言われるまでもなく、ソレから一歩二歩と遠ざかる。アテナをことさら抱きしめて。

 音もなく現れたソレが敵であることは、明白。

 問題は――人間であるのかというところ。


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