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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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795.度

「――オウオウオウオウ! なんだ、テメェ! どこのモンだッ!」

「もしかしなくとも……。おナカマ、だったりするンすかね?」

 四人が四人とも無事ではないのは見てわかる。そして、毛を逆立てる子猫のようなチンピラ二人組が敵であるということも。

 それを理解して――キラは、不思議と苛立ちが消えていくのを感じた。


「リーウ」

「キラ、さま……。もうしわけ……ございません。私が……!」

「いや。謝ることはないよ。いつだって悪者が一番悪い。――ちょっと待ってて。すぐに片付ける」


 ――曲がりなりにも。

〝コード〟を使っていて、〝赤い雷〟について解ったことがある。

 エルト由来の〝白い雷〟は、彼女の〝覇術〟が〝雷〟に混じり合ってできたもの。

 それと同様に〝赤い雷〟は、キラが本来持つ〝覇術〟と融合したもの……というのは、すでになんとなく理解していた。


 ただ、その使い方がずっと謎だった。

 エルトの〝白い雷〟は彼女自身の意思で引き出せるというのに、〝赤い雷〟はそのほとんどが偶発的なもの。

 〝王都武闘会〟でもユニィに追い詰められて、やはり無意識的な衝動に任せたのだが……その時の〝スカーレット〟の感覚は、今でもはっきりと覚えている。


 その感覚が間違いでないのならば。

 〝赤い雷〟は、一つの波も立てないほど冷静になってこそ姿を現す。

 これまでにも度々覚えのあるあの〝冷たい感覚〟こそが、キラ本来の〝覇術〟だったのだ。


「〝コード〟――〝スカーレット〟」

 そしてもう一つ。

 〝冷たい感覚〟……〝零下の覇術〟は、空間の支配を得意とする。


「〝パルス・レーザーマイン〟」

 掲げた左手の手のひらから、ピュン、と〝赤雷〟が飛んでいく。

 一瞬のうちにあたり一帯を駆け巡り、できたのは〝赤い糸〟によるトラップ。空間に対して掛けられたそれは、まるで出来損ないのクモの巣のようだった。

 〝レーザーマイン〟に閉じ込められた〝人形〟二体は戸惑いをあらわにし……その様子を確認してから、キラは振り返った。


「――で。君らは何?」

 改めてチンピラ二人に問いかけると、二人とも随分と間抜けな表情を見せてくれた。

「寝ぼけてんのか、あァッ?」

「ズイブンとヨユーじゃないっすか。イイんすか、アレ。ホウチしといて」

 検討はずれもいいところな煽りに、キラはため息をついた。


「いいもなにも……。もう終わったよ。――ほら」

 試しとばかりに、巨人が一歩踏みだす。

 その体の性質変化させた上での判断だろうが――それでも甘い。

 ビリビリと唸る〝赤い糸〟に触れた時点で、もう助からない。ボンッ、と〝赤雷〟が立ち上り、それがまた別の〝糸〟の爆発を誘発する。


 一つ一つが鋼鉄をもぶち抜く威力。

 それが二度三度ではなく、十、百、二百と続くのだ。

 どれほど硬化されていようとも、どれだけ灼熱の炎を撒き散らそうと、無意味。

 ものの十数秒で、そこにあったはずのものは無くなっていた。


「まあ……。冷静にならなきゃいけない時点で、普通の戦闘中には使い物にならないってオチさ。――だからホラ、そんな顔引き攣らせなくてもさ。君らには使わないよ」

 キラとしては心外なことに、二人とも化け物にでも出会ったかのような態度をとった。一気に警戒レベルが上がり、顔つきが険しくなる。


「で、もう一度聞くけど……君らは誰? あっちの方にいっぱい倒れてるのはお仲間?」

 二人とも、しばらく沈黙を保っていた。戦いに備えて身構えるだけ。

 その間にキラは状況を分析した。


 この二人が、リーウたち四人を散々な目に合わせたのは間違いない。

 四人のうち誰か一人であっても、相当な実力者でなければ相打ちにすら持っていけないというのに……。

 とはいえ、チンピラたちも無事とは言えない様子だった。

 禿頭の方は片腕を失い、ヒョロガリの方は明らかに体力が切れている。


「ココはひとつ、キュウセンといきませんか?」

 先んじて口を開いたのは、ヒョロガリだった。

 禿頭のほう……ヴェルクとやらがなにやら噛みつくが、ヘクスターという名のヒョロガリは飄々とした調子で続ける。


「アナタとしても、そのホウがケンメイっすよ? なんせボクらは〝ローレライ海賊団〟……。うちのソートク……ヒューガせんちょーのウワサくらいは知ってるっしょ?」

 ヘクスターとしてはその消耗具合もあって戦いを避けたいらしいが、かといってハッタリをかましているわけではない。


「なるほど……。途中、船っぽいのをちらっと見たけど……国を乗っ取りに来たわけだ」

「リカイが早くて助かるっすよ。ボクらは様子見のパシリ……センケンタイなんでね。ホンタイの方々は、それはもうキョウボウでして」

 そんなヘクスターの卑屈な言い方に、我が強くプライドも高そうなヴェルクは猛反論しそうなものだったが……その話は全て本当らしい。

 つまらなさそうではあるが、変に口を挟むことなくそっぽを向いている。


〈頭の痛い話だ……。〝始祖〟をどうにかしなきゃって時なのにさあ……〉

〈あながち嘘っぱちでもないってのがねー〉

 とはいえ。答えなど考えるまでもない。

 そこでキラは、ヘクスターに答える前に、〝空梟〟にひっかかったルセーナとレルマに声をかける。


「二人とも。セドリックたちを頼むよ。リーウは怪我がひどいみたいだから、〝錯覚系統〟かけてあげて」

「ああ、マジか……! ひでえな、おい」

 ルセーナが慌てながらリーウのそばに膝をつき、レルマもこちらを気にしながらもその手伝いをする。

 駆けつけたのは彼女たちだけではなく、〝アルマダ騎士団〟も数名やってきていた。


「ツレないっすねえ。コッチにはゼンゼンきょーみなしっすか?」

「ま……。呑みたいところではあるんだけどね、その休戦条件。ヒューガってのには個人的に聞きたいことが色々あるし」

 全然関係のないところから「ええっ?」という声が聞こえる。治療をしながらも聞き耳を立てていたルセーナが、その感情を視線に込めていた。

 キラは肩をすくめて見せて、言葉を繋げる。


「で、まあこれも個人的なことで……こう見えても結構急いでるんだよ」

「ヘエ? なら、交渉セイリツってことでいいっすか?」

「いや……。そうは言ってない。僕にも立場ってやつができたからね」


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