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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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794.中途半端

〈キラくん、耐えどきだからね!〉

〈わかってる……!〉

 間髪入れず突っ込んで行きたいのを、グッと堪える。

 二体をまとめて倒すには、〝変化の人形〟と〝炎の人形〟が一直線上に重なっていることが前提条件。

 エルトが〝飛ぶ斬撃〟の用意をしてくれている。ゆえに、後先考えずにぶっ放すなどできなかった。

 〝変化の人形〟が戦い方を変えたのならばなおさら、その戦い方をこれ以上変えさせてはならない。


 膝立ちの状態から立ち上がり、ゆっくりとした呼吸を意識しつつ、二体を同時に視界に入れる。

 気づけば〝プッチーニ区〟の広場から随分と遠ざかっていた。


 何か起きているのか、随分と辺りが騒がしい。

 怒号と悲鳴とがいろんなところから聞こえてくる。

 視界の端には船らしきものが突き刺さっているのが見え……しかし、それに気を取られるわけにはいかず、〝人形〟たちを捉え続ける。


〈〝炎〟を撃ってこない……〉

〈〝ミュウ〟にインターバルがあるように、あっちも連続では使えないのかも。帝都に現れた〝キラくんコピー〟は、自分の〝炎〟に焼かれたっていうし〉

〈確かに……右手が焦げてるように見える。それに、強力ではあるけど、これといって変化技もない……。〝神力〟としての完成度で言えば、明らかに〝変化〟のほうが上〉

〈〝人形〟にも、格というかランクというか、そういうのがあるのかも〉


 妙な睨み合いが続く。キラが〝センゴの刀〟を納刀してなお、〝人形〟たちは人形のようにぴくりとも動かない。

 隙がない、というわけでもない。

 まるで何か待っているかのような様子に眉を顰め……。


「――ッ!」

 どこからか飛来する強烈な〝気配〟に、気を取られてしまった。

 〝始祖〟が、現れた。

 そうすぐに直感できるほどの悍ましい〝気配〟に、キラは反射的に視線を向け――。


「クッッッッッソ!」

〈キラくん、冷静に! 落ち着いて!〉

 想定外の連携に、キラは悪態をついた。


 〝人形〟は〝始祖〟の手下。それはつまり、〝始祖〟は〝人形〟の位置を把握していてもおかしくはないということ。

 その状況を利用して来るだろうというのは、簡単に想像がつく。

 だが、その〝始祖〟自身が表舞台に現れようとは、一ミリも考えていなかった。

 おかげで大きな隙を晒し――文字通りに巨人となった〝人形〟に捕らえられる。手のひらに全身をすっぽりと包まれてしまった。


「……!」

 今まで一度も味わったことのない屈辱である。

 身動きが一切できず、〝センゴの刀〟を抜くどころか、腕を動かすことすらできない。

 ただでさえ圧死しそうだというのに、さらに〝炎の人形〟が巨人の肩に乗って仕掛けようとしていた。

 今までとは違って、味方も巻き込む勢いで〝炎〟を撃つつもりだ。


 キラは、瞬時に判断した。

 腕に〝雷〟を流し込み――。


「〝ショート〟……!」

 手首をなんとか曲げて、巨人の手のひらにタッチ。

 〝瞬間移動の人形〟やハルトに対して使ったときのように、〝力〟に干渉した手応えはあった。

 どこからか、ギギッ、と軋む音がして、全身を締め付ける力が和らぐ。


 巨人化の強制解除には至らなかったものの、〝人形〟は何かを嫌がったらしい。

 〝炎の人形〟との連携を無視して、大ぶりに腕を振う。


「んげっ……!」

〈今サポート――〉

「いや、〝炎〟に備えて……!」


 次の事態――すなわち、投擲にむけてキラも対処した。

 ぐわんぐわんと唸るような揺さぶりに酔ってしまいそうだったが、なんとか〝覇術〟に集中する。

 〝躯強化〟を発動――する直前に、投擲。


 何度か空から落下したことはあるが、その数倍の風圧に体が翻弄される。

 体勢を直そうにも制御が効かず、ただただ頭を守るのみ。

 呼吸すらもきつい中、ギリギリなんとか〝躯強化〟に成功し……。


 ドンっっっ!

 衝撃と轟音と痛みが、体を突き抜ける。


「――ぷはっ。ああ、ほんッッッッとに……!」

 酔いと焦りもあって、完璧な〝覇術〟とはならなかった。

 体のいたるところが痛み、立ちあがろうにもなかなかうまく力が入らない。

 肝心なところで中途半端だらけなことに苛立ちを隠せず、感情に任せて被さっていた瓦礫を蹴っ飛ばす。


〈キラくん、右手を!〉

 しかし苛立ったところで、ピンチが覆るわけがない。

 〝変化の人形〟は依然として巨人のまま。それどころか、その足元から〝緑の炎〟が津波のようになだれこんでくる。


 キラは危機に突き動かされてようやく立ち上がり、右目にエルトが宿る。

 ずず、と瞳が真っ赤に染まっていくのと同時に――。


〈〝鳴動ミュウ〟!〉

 エルトはどこまで行っても天才肌だった。

 戦闘中という極限状態におけるたった数回の発動で、その感覚をものの見事に掴み――彼女のいう通り〝パッ〟と〝緑の炎〟を消し去ってしまった。


〈……さすが〉

〈ふふん。嫉妬しちゃうでしょ〉

〈うるさいよ。今度は僕がやる。――けど、その前に〉


 自慢げにいうエルトをよそに、チラリと背後を振り返る。

 一番に目に入ったのは、リーウの様子。

 横腹をひどく負傷しているらしく、うつ伏せになっていた。何度も立ちあがろうとしては、ぺたんと突っ伏してしまう。


 次にセドリックとドミニク。まるで深い眠りから起きたかのような鈍い顔つきのセドリックに、彼に寄りかかって荒い息を繰り返しているドミニク。

 そしてローラン。彼もまた怪我を負い、気絶している。ただ血の量にしては傷は浅く、命に関わるようなことはないだろう。


「――オウオウオウオウ! なんだ、テメェ! どこのモンだッ!」

「もしかしなくとも……。おナカマ、だったりするンすかね?」


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