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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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793.耐えどき

「ク……!」

 右の脇腹に噛みつかれ、左の太ももに触れられ――。

〈いくよ――〝鳴動ミュウ〟!〉

 エルトの合図と共に、がむしゃらになって左腕を振り向ける。勢い余って背中から倒れ――素早く体勢を立て直した時には、〝緑の炎〟の脅威は去っていた。


 だがもちろん、これで戦いが終わったわけではない。

 むしろ、この十数分間、ずっとこの繰り返し。

 最初はまだ余裕があったものの、〝炎の人形〟にインターバルを読まれた――次はない。


〈キラくん!〉

〈わかってる――〉

 とはいえ、〝変化の人形〟が常に邪魔。

 〝炎〟が消えたのと同時に距離を詰めるあたり、〝変化の人形〟も戦い方に順応しつつある。

 人形ながらも天才の片鱗が見えることに舌打ちをしたい気分だが……キラも、散々〝変化〟に振り回された甲斐あって、攻略の糸口を掴みつつあった。


 小さくなるのは全体的で回避的。

 とりわけ〝センゴの刀〟を避ける際には、その軌跡から逃げるようにして体をずらし、その上で全体的に小さくなるという徹底っぷりである。

 逆に大きくなるのは、部分的で攻撃的。

 足を使うこともあるが、ほぼ腕。それも片腕だけであり、懐に潜り込んだ際にのみ使ってくる。


 トリッキーに見えていても、その〝力〟の使い方は実に規則的。

 〝未来視〟で捉えようとしてもほぼ無駄というだけで……仕留め方は無数にある。


〈二体同時に倒す――エルトも準備しておいて〉

〈おっけい!〉

 先ほどまでと同様に、〝変化の人形〟と近接戦で立ち回る。

 〝人形〟は瓦礫の中から見つけた木の破片を逆手に持ち、まるでナイフのようにして振るってくる。


 随分器用な戦い方に舌を巻くも、馬鹿正直に付き合ってはやらない。

 右へ左へ避けつつ、時折バックステップで距離を取り――〝変化の人形〟の影に隠れる〝炎の人形〟を視界に入れる。


 そこで一つ、布石をうつ。

 わざとらしく距離をとったところで、〝センゴの刀〟の先端にまで神経を行き渡らせ――〝覇術〟を使う。


 飛ぶ斬撃――〝飛燕〟。

 だがこれは、〝炎の人形〟が避けたことで外れた。


〈ぬう……! 今のでやれてりゃ……!〉

〈ん〜、そういうこと――なら、ジャカジャカ撃ってこう!〉

 〝変化の人形〟も仲間思い。一貫して〝炎の人形〟を背中にしたまま戦うのはそういうことである。

 はたして〝人形〟にそういう人間じみた感情が備わっているかはともかく――そこを、強く意識させる。

 一度だけではなく、二度、三度と続けて〝炎の人形〟へ〝飛燕〟を打ち込めば。〝変化の人形〟に戦い方を強制できる。


〈次――決める!〉

〈かしこま!〉

 これまで以上に超至近距離での格闘戦に持ち込む〝変化の人形〟。

 百二十センチほどの小柄な体格を活かして、身軽に懐に潜り込んでくる。


 地面に屈むほどに低い姿勢、からの、肘打ちに正拳突きに足払い。

 〝センゴの刀〟の背で受け、ステップで避けて、刀の鋒で打ち払う。


 視線を低く誘導されている――と自覚すると共に、〝変化の人形〟が仕掛けてくる。

 途端に、その姿が視界から消える。

 ゴマ粒ほどに小さくなったのだ。


 ほぼ無意識に〝未来視〟を発動するも、無駄。

 何も視えない。


「……ッ!」

 それもそのはず。

 〝変化の人形〟は視界外にいる。

 超至近距離に踏み込んだのも、格闘術で立ち回ったのも、姿勢を低くしていたのも——全ては〝未来視〟を殺すため。

 小さくなった〝人形〟は、視界という壁を突き破るかのように、高く飛び上がったのである。


 キラの目が追いついた時には、〝変化の人形〟は片腕を巨大化していた。

 背中に建物を背負っている状況――両側は建物に挟まれている――避けられない。

 考えが巡るうちに、答えは出ていた。


「〝躯強化〟……!」

 脳と心臓が悲鳴をあげる。エルトが別に〝覇術〟を用意しているのだ――併用するには、あまりにも負荷が大きい。

 それでも、体勢を整えて、腕をクロスする。 


 〝変化の人形〟の腕は、これまでとは違い、ただデカくなるだけではなかった。

 見た目にもわかるほどに硬質化している――鉄の塊へと化けた。


 すでに身体は限界の一歩手前。右脇腹と左太ももの火傷はジリジリと痛み、二つの〝覇術〟で悲鳴をあげている。

 まともに受け止め、その上で背中の建物に押し付けられようものなら。


「フッ――!」

 そうならないためにも、流す。


 インパクト、の瞬間を狙って。

 眼前に迫る巨大な拳に突っ込む。

 硬化した身体で低く沈み、中指第一関節にクロスした腕を当てた。


 圧倒的なパワーで抑え込まれそうなところを、奥歯を噛んで耐え――腕、肩、腰の順に体を捻って、足捌きで負荷を逃す。

 関節がボキボキと悲鳴をあげたが、吹き飛ばされずに受け流すことに成功した。

 直後、ドンッ、と建物に穴が開く。


「ハァ……ハァ……!」

 息切れする呼吸を無理やり飲み込み、キラは頭を回した。

 〝変化の人形〟の戦い方が変わった――巨大化だけでなくその性質まで変化――帝都の個体と同じように姿も変えられるかもしれない。


 これまでそうしなかったのは、おそらく〝人形〟自身の性格。

 安定的で規則的な戦い方を好む一方で、博打的な戦い方を苦手としているのだろう。

 ここにきて使ってきたのは、それだけ追い詰めたとも言えるが……決着に向けて畳み掛けてきたということでもある。


 なにしろ〝炎の人形〟もいる。

 それを加味して、支配力を高めたのだ。

 〝雷〟を使って一気に形成逆転と行きたいが――。


〈キラくん、耐えどきだからね!〉

〈わかってる……!〉


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