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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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792.インターバル

 想像以上の痛みに一瞬意識が飛び、気づいた時には地面で頬を擦っていた。

 強かに打ち付けたらしく、ぼうっとして頭が働かない。

 早く動かねばとはわかっていたが、そう思っているだけ。


 広場の砕かれた石畳を掴んで起きあがろうとしている間にも、ヴェルクとヘクスターが近づいてくる。

 二人とも、もうすでに全快近く回復している。


「どーしてくれよォかァ……。この苛立ちをよォ」

「いっそのことラチったらどうっすかァ? デッケェ戦力になるっしょ」

「テメェ、ヘクスター! 海に女連れ込んだらどうなるか……!」

「まーだそんなコドモじみたメーシン信じてんすか?」


 もうこの場に戦える者は残っていない。

 ローランはすでに気絶しており、セドリックも全快したとはいえ動ける状態にない。ドミニクは意識があるようだが、彼女もまた消耗が激しすぎて立ち上がれていない。

 ならばやはり自分が……。はっきりとしてきた頭で策を練る。


 だが。何をどう考えても、待っているのは暗い絶望のみ。

 足音が近づくたびに、ありとあらゆる可能性が潰れていき……。

「んン……?」

 ふいに、それが止まった。


「なんだァ……?」

「どーやら……このクニトリ、もっとオモシロクなりそうっすねぇ」

 海賊二人が何を言っているのか。リーウも数秒後に理解できた。

 この広場を飲み込むほどに大きく、そして、深い眠りについていたセドリックさえも叩き起こすほどに強い〝気配〟が、近づいてくる。

 続けて響き渡る轟音を、リーウは見た。

 ぎょ、と目が飛び出る。


「俺、生きて……。おお――な、なんだあっ?」

 広場に隣接する三階建てのアパートメント。

 その中程に穴が開き、何かが飛んでくる。その何かは広場の地面に突き刺さり、ザザザッ、と猛烈な土煙を上げる。


 と同時に、

 三傀建てアパートを、巨人が乗り越えてきたのだ。踵が引っかかるも、そのまま薙ぎ倒し、大股に広場に侵入する。

 そして。


「あの……炎は……!」

 帝都で見た〝緑色の炎〟。地獄を模したかのようなそれが、津波のように迫ってくる。

 死。

 それを目の当たりにしたかのような気分だった。

 しかしリーウは、今度は絶望などしなかった。なぜなら――。


「――ぷはっ。ああ、ほんッッッッとに……!」

 最初に飛来してきた何か。その正体が、起き上がるのと同時に判明したから。

 彼を見るたびに、心の底から思うのである。

 諦めなくてよかった、と。


   ◯   ◯   ◯

 

 セドリックが瀕死に陥り、ドミニクとローランが同時に〝妖力〟を覚醒した――その少し前。

 キラは、呆然と立ち尽くすスプーナーを守る立ち回りをしていた。


〈インターバル――がバレてる!〉

〈三十秒まで縮めて!〉


 スプーナーの身に何があったかなど、まったく知らない。

 シスター・マリノとやらのいう〝ローディ〟という名前にも聞き覚えはない。

 ただ、どうやら彼女がスプーナーの大切なものを踏み躙ったというのは理解できた。

 きっとそれが、旧エマール領でスプーナーが見せた〝悪魔〟的な狂気に繋がっているのだろうことも。


 ただの他人に降りかかった出来事。それも、こうして再会する以前は敵同士。

 助けてやる義理も道理もない。

 だが。


〈ううう! 了解――その代わり、キラくんもきっちりやってよ!〉

〈わかってる……!〉

 どういう因果か。キラが憧れたのはリリィ・エルトリアという騎士と、〝誰をも妥協なく救済する〟その心意気。

 過去を悔い、赦しを請い、前を向こうとしている人間を捨て置いては――彼女に憧れたこと自体が罪となる。


「やりにくい……!」

 スプーナーを守るのは簡単なことだった。

 〝緑の炎〟を宿す〝人形〟と、その大きさを変幻自在に変えられる〝人形〟。

 二体の〝人形〟は、紛れもなく〝始祖〟の配下――つまり、狙いは〝神力〟。

 スプーナーから離れればそれで済む。あとはシスター・マリノとかいう性悪中年女だが、それはスプーナー自身がなんとかしなければならない。

 だからこそ……。


〈あと十五!〉

 二体の〝人形〟との、シンプルな殺し合いが待っている。

 一方は地獄の〝炎〟を撒き散らし、もう一方は姿を消すかのように小さくなりながら接近戦を仕掛けてくる。


 厄介なのは、〝変化の人形〟のほう。

 今まで戦ってきたどの〝人形〟よりも好戦的で野生的。

 得意とする徒手空拳で立ち回り、両手両足に膝に肘、さらには頭、その上で瓦礫を蹴ったり、木の棒を拾って見せかけの棒術を仕掛けてきたり。

 やれることはなんでもやってくる。


 その戦闘センスはバカにならず、どれだけ〝未来視〟で先読みしようとも、なかなか一撃が決まらない。

 幸いなことに、攻撃を仕掛けてくるのは通常の大きさの場合のみ。どうやら、〝人形〟に宿る人格じみた個性がそうさせているらしい。


〈あと五!〉

〈長い……!〉


 〝変化の人形〟がいかにトリッキーだからといっても、攻めきれないほどではない。

 部分的にあるいは全体的に、大きくなったり小さくなったりしようとも、〝瞬間移動〟のようにその場から消えてなくなるわけではない。

 腕の振り方、足の向き、腰の落とし方、間合いやタイミング……。自分の動き一つ一つをブラフにして、〝人形〟の攻撃を誘い出せば、やりようはいくらでもある。


 だが、〝緑の炎〟がそれを許してくれない。

 ひとたび放たれると、周囲をあっという間に地獄に落とす〝炎〟。触れたもの全てを焼きつくし、存在することそのものを否定する。

 それこそ〝緑の炎〟を無造作に撒き散らされれば、キラも無事では済まなかった。


 ただ、これも〝人形〟の個性の一つか、〝変化の人形〟が巻き込まれるのをひどく嫌う傾向にあった。

 何があっても、接近戦の際に強引に捩じ込むようなことはない。

 ゆえにキラは、〝変化の人形〟との至近距離を保たねばならなかった。

 到底優位な立ち回りを考えていられる状況ではなく――少しでも油断すれば、今のように、〝緑の炎〟が濁流のように襲いかかる羽目になる。


 残り三秒――エルトの〝覇術〟に干渉して〝猫足〟では逃げれない――〝隼〟もあるが周辺の状況を把握しきれていないために使えない。

 かといって背中を向けて全力で逃げれば、その隙を〝変化の人形〟につかれかねない。単に足を払われるだけでも死につながるのだ。目を離せない。

 できることといえば、絡みつく〝炎〟をなんとか腕で振り払いつつ、バックステップで距離を取ることだった。


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