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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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791.前のめり

「行きますよ、〝ドッグナイツ〟」

 グレイハウンド、ボーダーコリー、コーギー、ラブラドール、ブルドッグ。

 色とりどりの犬たちが、リーウの意思に沿って散開。コリーとコーギーがタッグになって海賊たちに仕掛ける。


「あァっ? 毛糸の犬?」

「オモシロ魔法ッスね――それだけっすけど!」

 〝水の鞭〟が振るわれる――寸前に、ブルドッグが飛びついた。

 コリーとコーギーが海賊たちの目を奪っているうちに、ドタドタドタッ、と視界の下から駆けつけたのである。


「ご注意を――その子は〝赤〟。燃えます」

「ハッ? あッッッつ!」


 ブルドッグが噛み付いたとは言え、所詮は毛糸。

 牙があるわけでもなければ、本来の咬合力もあるわけではない。せいぜい、手首を拘束する程度。

 チンピラ程度ならばそれで終わるが、海賊が相手。


 〝赤〟のブルドッグから通じる毛糸を通して、〝炎の魔法〟を仕掛ける。

 ヘクスターの手首に絡みついた口を発火――爆発させる。


「このアマ、ふざけやがって――あァっ?」

 ヴェルクがヘクスターに気を取られているところへ、さらに畳み掛ける。

 コーギーとコリーが駆け回ったことで、その足元に毛糸が絡み付いている。二匹を同時に操り、後頭部から転ばす。


「その子たちは〝黄色〟にしておきました――その腕は厄介ですからね」

 転んだヴェルクに駆け寄る二匹の毛糸の犬。普通であれば可愛らしい光景だが、毛糸が逆立ち雷を放つ様はトラウマ的。

 苦しさでのたうち回るヴェルクに接触したヘクスターにも、〝雷〟が移る。


「ハァ……ハァ……!」

 二人が苦悶している間にも、リーウは状況を確認。

 ちらりと背後を振り返る。


 この数十秒の間に、何かが同時に起こったらしい。

 セドリックの容態は、驚くべきことに安定していた。

 怪我などなかったかのように、普通にイビキをかいている。彼に寄りかかっているドミニクが何かをしたのだろう。


 二人とも動けない状況なのは変わりなかったが……それを守るかのように、淡く光るドームが張られていた。

 セドリックの治療に向かわせたグレイハウンドが、その手前でまごついている。

 魔法にしてはどことなく違和感を覚える〝ドーム〟は、ローランと〝気配〟で繋がっていた。


 そのローランはうつぶせになって気絶したまま。ただ、かすかに呻いているのを聞く限り、駆け付けたラブラドールを介した〝治癒の魔法〟が効いているらしい。

 最悪の状況は脱した。

 あとは――。


「私が……!」

 手すきになったグレイハウンドを、海賊二人の元へ向かわせる。

 そこで、ピシッ、とひび割れるかのような頭痛が襲う。反射的に目を細めるものの、気合いで瞼をこじ開ける。


 持って、一分。

 全力を出せるのは、わずか十秒。

 すでに〝ローレライ海賊団〟数十人を相手にして、体力も魔力も消耗してしまっている。その上で〝五重詠唱〟を使っているのだから、限界ギリギリ。

 早く決着をつけねばならない。


 そのためにも――。

「――ふう」


 海賊二人は、たった今、〝ドッグナイツ〟二匹のコンビネーションから逃れた。

 ヴェルクが〝水の腕〟で薄い膜を作って、〝雷の魔法〟を一瞬遮り。

 ヘクスターが〝水の鞭〟を伸ばして地面を掴んで、二人一緒に包囲網から脱出。


 ヴェルクの足元に絡んだ糸も、所詮は毛糸。無理矢理にでも引きちぎることはできる。

 そうして二人の敵視を集めたことを、リーウはことさら意識した。

 消耗しているとバレたら畳み掛けられる――そうなったら防ぐ手立てはない――最後の最後まで虚勢を張り続けなければ。


 すぐさま次の手を打つ。

 が。


「同じ手が――二度も通じるかよッ」

 リーウにとって最も回避したい一手を、ヴェルクが打ってきた。

 素早く間合いを詰め、接近戦を仕掛けてくる。


 リーウは舌打ちしたいのを堪えて、対処に入る。

 腰元からナイフを引き抜きつつ、スピードのあるグレイハウンドを引き戻す。

「ハッ! おもしれェ――ぶっ殺してやるよ!」


 実を言えば。

 キラから直接の接近戦の手解きを受けたことは、それほどない。

 セドリックたちの修行に付き合うかたわら、キラと手合わせをしたことはあるものの、これと言って指示をされた覚えはない。

 キラには『リーウにはそれで十分』と言われ、少なからず不満を持っていたが――今になって、その意味をはっきりと理解できた。


 ヴェルクの動きについていける。

 ギリギリの状況であっても、冷静さを保てる。

 頭が冴え渡る。


 それもこれも、キラを相手にした模擬戦を経験したから。

 ナイフでナックルダスターを受け流し、〝水の腕〟の〝気配〟を感知して避けることができた。


「クソアマが――」

 ヴェルクがスピードを上げる。

 目はついていく。その動きの意図も読み取れる。その姿勢と動きと足捌きで、右側面に回って死角をついてくる。


 だが――対処できるほどの体力が、もう残っていなかった。

 ぎりぎりグレイハウンドのカバーが間に合ったものの――。


「ぶっ飛べやッッッッ!」

 毛糸の柔らかい体では、到底ヴェルクの拳を受け止めきれない。

 グレイハウンドの体をナックルダスターが突き抜ける一瞬。ほんのわずかにできた時間で、〝ドッグナイツ〟を解除し、魔法障壁を展開。


「……ッ!」 

 横っ腹から、鋭い衝撃が突き抜ける。

 威力を殺してもなお、骨の砕ける音が聞こえた。


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