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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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790.ナイト

 〝妖力〟とは。

 魔法とは似て非なる〝維持する力〟。

 ドミニクの場合、この〝妖力〟を中心として魔法が回っていた。

 たとえ魔法使いとして未熟であっても、たとえ〝黄昏現象〟の中にあっても、たとえ精神的に揺れていても。

 どんな場面においてもしっかりと発揮していたのはこのため。


 〝癒しの妖力〟。

 それがドミニクが〝ユニークヒューマン〟たる理由だった。


「魔力が枯れない……これなら……!」

 〝妖力〟は〝維持する力〟。

 それはすなわち、術者が気絶でもしない限り、半永久的に使えるということ。


 その反面、それ単体では無価値。

 そこにあるだけでは、砂糖の塊を見ているだけのようなもの。口に含まなければ、甘いかどうか、そもそも塩と間違っているかすらわからないように……〝魔力〟がなければ、〝妖力〟は真価を発揮できない。


「ああ……! 傷が……塞がっていく……!」

 これまで、〝癒しの妖力〟は原石にすぎなかった。

 それが今回、少し磨かれた。

 と、同時に。ドミニクの意識も自然と変わる。なにしろ、〝癒しの妖力〟は通常の魔法とかけ離れた治癒力を持つのだ。


 痛みを止めるだけ。血を止めるだけ。少しずつ肉体を再生するだけ。

 それが〝治癒の魔法〟の限界だった。飛び抜けた魔法の才能を持つリーウでさえも、セドリックを治療しきれず、最低限の生命維持しか施せなかった。


 〝癒しの妖力〟は、その常識を覆す。

 傷ついた心臓を治し、引き裂かれた肉体と血管を再生する。まるで時間を逆戻しにしているような光景に、ドミニクも違和感を覚える。


「――なんでもいい。だから、セドを……!」

 〝妖力〟と〝魔力〟。二つは両輪であり、片方だけでは動かない。

 そのため、体力の消耗は一段と激しくなる。数十秒〝維持〟するだけでも、ドミニクはボタボタと汗を垂れ流していた。

 それだけでなく、四十度近い発熱も伴っている。


 本来ならば消耗して人体から漏れ出るはずの〝魔力〟が、〝妖力〟によってそのまま体内に留まるのだ。何かしらの影響が色濃く出る。

 普通であれば、もう気を失ってもおかしくない疲労度。

 だがヒトよりも幾分小柄なドミニクは、むしろ目を爛々と輝かせていた。


「顔色が良くなってる……! あとちょっと、もうちょっと……!」

 セドリックに人間らしい色合いが戻ってくる。呼吸にも力が入り、胸が目に見えて上下し始め、唇が鮮やかになっていく。

 んぐう、と。いつも聞く間抜けな寝息も聞こえたりなんかして……。

 その姿にこそ、ドミニクはぽろぽろと涙を流した。


「良かった……。よかったあ……!」

 もう大丈夫。

 ドミニクはそう確信して脱力し、セドリックに覆いかぶさった。


   ◯   ◯   ◯


 ローランが地面に叩きつけられたのを見た瞬間。

 リーウは、決断しなければならなかった。

 誰を救い、誰を見捨てるのか。

 一瞬にしては重すぎる判断を迫られた。


 おそらく、竜ノ騎士団の騎士として教育を受けていたのならば、すぐさま取捨選択ができたのかもしれない。

 セドリックもドミニクも、見習いとはいえ、竜ノ騎士団の一員。有事の際の危険については、重々承知しているはず。時に仲間に対しても非情にならなければならない。


 だがリーウは、純粋で真っ当な正規の騎士ではない。

 本職はメイドで、騎士が副業。

 〝元帥代理〟という肩書きも、幸運なことにキラやリリィやセレナに実力を認められたがゆえ。思想や精神性を買われたわけではない。

 王道の騎士というには、あまりにも未熟。


 ゆえに、〝全て救ける〟という判断以外にはありえなかった。

 なにより――リーウにとっての騎士とは、キラやリリィやセレナのように、とことん諦めの悪いヒトたちのことを指す。それが圧倒的な実力の上で成り立つものであっても……。


 とはいえ、何もかもがギリギリ。

 セドリックの容体は到底放置できないが、ヴェルクとヘクスターの海賊二人も無視はできない。さらには、ローランも地に伏している。

 だからこそ、躊躇などなく。


「〝五重詠唱〟」

 己の限界に挑む。

「〝糸傀儡〟」


 エルトリア家のメイドとして最初に教わったのが、〝毛糸の魔法〟。掃除や片付けに用いる他にも、護身術としても叩き込まれた。

 その発展系である〝糸傀儡〟を思いついたのは、教わってすぐのこと。

 だが……セレナによれば、自らの発想でその〝五重詠唱〟にまで飛躍させた少女がいるという。セレナ自身、彼女に〝毛糸の魔法〟を教えてもらったというのだ。


 それを聞いたからには、リーウも負けていられなかった。いつかセレナやリリィやキラの隣で胸を張って立っていられるように、習得せねばと躍起になった。

 そこで、自然と諦めの悪さが身についたとも言える。

 誰もが〝五重詠唱〟の難しさに言及したものの、誰も「やめておけ」だの「無理だ」だの口にしなかったのだ。リリィやセレナなどは、むしろ弱気を見せると怒るくらいだった。

 だから――この極限の状況においても、難なく発動できた。


「行きますよ、〝ドッグナイツ〟」


【お知らせ】

二週間ほど投稿をお休みいたします。

再開は2月24日(月)。

よろしくお願いします。

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