表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

813/961

788.平和の味方

   ◯   ◯   ◯


 振り返ってみれば、過去を悔いるような生き方しかしていなかった

 〝鬼〟とまで恐れられたアベジャネーダ軍〝ゼメラルド〟時代。

 〝授かりし者〟ネプトとの出会いと、記憶に残り続けるその死に様。

 旧エマール領では、調査目的とはいえ一時的に〝イエロウ派〟に加担していた。

 〝隠された村〟でのキラとの共闘も、何かもっといい方法があったのではと思ってしまう。


 もう後悔しないようにと……過去の自分とは違うのだと……それを証明するためにも、スプーナーを改心させようと躍起になったところもある。

 それも失敗したように――リケールの〝闇〟を垣間見て自分に失望したように――ローランは、五年と三ヶ月と四日前から変わっていないと自覚した。


「クソ……クソッ……!」

 ローランは、昔から魔法が苦手だった。

 訓練で多少使えるようにはなったものの、戦場に立つとてんで使い物にならず……剣一本、己の身一つで、戦い抜くことが常だった。

 その日常が変わったあの日。

 まだ九歳の少年を看取った日以来、〝平和〟を深く考えるようになった。


 だが、どこまで行っても戦士だったローランには、答えを見つけることなど叶わなかった。

 出来ることといえば、握っていた剣を手放すだけ。

 そうすればきっと、少なくとも〝平和〟とやらの味方でいられる。どこかで必ず〝平和〟を知る〝隣人〟と出会って、その輪を広げていける。

 そう、信じていた。

 だが、今この瞬間、また解らなくなった。


「ローランさん!」

 数十人を相手にするリーウと、明らかに格上を相手にするセドリックとドミニク……どちらの戦いに駆けつけるかという選択だった。

 圧倒的に数的不利を強いられるリーウを助けて、そのあとで――そういう算段だった。

 それが、結果的に最悪の事態を呼んだ。


「ローランさん、気をしっかり!」

「――わかっている!」

「では私のサポートを――助けます!」


 戦士として、決して戦場で挫けてはならない。

 〝元帥代理〟を任されるだけあって、リーウはそれを心得ていた。


 魔法を使ってまるで滑るかのように前へ飛び出し、その勢いで腕を振う。

 放たれたのは〝風の魔法〟。そよ風から強風、強風から突風へと加速度的に強くなり――渦巻く竜巻となって〝ローレライ海賊団〟二人に襲いかかる。


 だが、おそらく持っても数秒。

 リーウもそれをわかっていただろうが、一つとして迷うことなく、大量の血を流して倒れるセドリックの元へ向かう。海賊二人の方を見向きもしない。


「……!」

 ローランは、己の未熟さに今にも心が折れそうだった。

 一秒ごとに命の灯火が消えていくセドリックに、それを前に呆然とへたり込むドミニクに……そして、その状況でもなお最善を尽くさんと動くリーウに。


「お前は――」

 守らねばならない友がいるというのに。

 心に救いを求める友がいるというのに。

 何もかも諦めないでいる友がいるのに。


「お前は……!」

 かつて。

 〝授かりし者〟ネプトを死なせてしまった。

 〝海の神力〟が暴走し始めたあの瞬間に、半ば諦めてしまったのだ。

 どんな魔法も負けない強靭な身体があると自覚しながら――あの時、少年ネプトを抱きしめてやることさえできなかった。


「お前は〝平和の味方〟だろう、ローラン・シャルルマーニュ……!」

 〝平和〟が解らなかった。

 戦いに明け暮れていたから。

 その〝味方〟であろうとした。

 正体がわかるその日まで、〝平和〟を守るのだと誓って。


 だが違う。

 前提が間違っていた。

 〝平和〟とは〝守るべきもの〟ではない。


 目には見えないものなのだから。形にはならないものなのだから。手に取れるようなものではないのだから。

 皆が皆、必死になってもがいている。

 〝隣人〟とともに、より良き明日が在るようにと……そう願って。


 そのうえで成り立つのが〝平和〟なのならば。

 〝隣人〟たちこそ、〝守るべきもの〟となる。

 誰かが苦しい時、誰かが泣いている時、誰かが頑張っている時――そういう時にこそ、〝平和の味方〟として救けるべきなのである。

 〝平和〟は〝隣人〟がいなければ存在しえない。


「――どけやケツアゴ!」

「――下がったホウがミのためッスよ!」

 ギリギリで海賊たちの前に割り込む。

 と、同時に思考する。


 この場で何を救けるべきなのか。

 それはもちろん、今に消える命を必死で繋ごうとするリーウ。

 だが、ただ敵を食い止めるだけでは不可能。ヒトの――友の命の懸かったこの窮地で、彼女もまた普通ではいられない。

 きっと、絶対に、心がきしんでいる。

 だから。


「ふむん! 我輩は〝平和の味方〟――他者を脅かす無礼者に、貸す耳など持たない!」

 いつもよりも五割り増しで、鬱屈とした空気を笑い飛ばす。

 窮地に現れた余裕綽々のヒーローに、悪党たちは釘付けになる。

 禿頭の海賊ヴェルクは〝水〟で補った左腕を、ニュッと鋭く尖らせ。ヒョロガリな海賊ヘクスターは〝水の鞭〟で大ぶりに薙ぎ払ってくる。


「ム――」

 ローランは〝ゼメラルド〟時代の経験を活用し、瞬時に攻撃を見切った。

 〝水の鞭〟はまずい――届く前になんとかしなければ――リーウもドミニクも範囲に入っている――だが幸い、ヘクスターの動きは遅め。


 ならば。

 ヴェルクに突っ込む、一択。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=811559661&size=88
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ