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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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772.狂乱

〈これ……!〉

〈やっぱり! いっつもいっつも――なんで〝始祖〟が絡んでくんのよ!〉

 勢い任せに飛び出ていきたいところを、キラはグッと堪えた。瞬時に〝弐ノ型〟を発動して、ありとあらゆる感覚を尖らせる。

 〝緑の炎〟が飲み込んだのは、〝バレンシア・ファミリー〟。

 拮抗していた魔法の撃ち合いをその身一つで破り、〝モンテベルナ・ファミリー〟側に踏み込もうとしていたゴーレムたちを、一瞬でどろりと溶かしてしまう。


 無論それだけではなく、ゴーレムたちの進撃に合わせて放たれた雨霰のような魔法も、丸ごと消し去る。

 パッ、と飛び散った緑色の火の粉が〝バレンシア・ファミリー〟の何人かに降りかかり――あっという間に緑色に染め上げる。

 途端に、あちこちから悲鳴が響き渡った。

 竦みあがるような断末魔に、〝モンテベルナ・ファミリー〟までもが戸惑っていた。


〈この〝神力〟――歪だ〉

〈……確かに。変な感じがする。純粋な〝神力〟じゃないのかな……? でも、なんかどこかで……〉

〈〝被験体十六号〟……。帝都でリリィたちと交戦してたやつ――あれに似てる〉

〈ああ……! 〝キラくんコピー〟! ――きも!〉

〈あのさ……。そうやって繋げるのやめてくれる?〉

〈ゴメンゴメン。でも――一体、誰がこんな〝力〟を? 〝モンテベルナ〟側なんだろうけど、それらしいのなんてどこにも……〉

〈あ。――いた〉


 キラが見つけずとも、数秒で〝力〟の発生源が判明した。

 戦場の隅の隅。〝モンテベルナ・ファミリー〟でもその傘下のチンピラでもない、妙齢のシスターがいた。


「恐れることはありません! 神のご加護は我らに!」

 戦いとは縁遠いにも関わらず、目の前の戦場に臆した様子はない。むしろ、何人かのマフィアが慌てて引き留めねばならないほど、前のめりになっている。

 両手で掲げているのは十字架。正しくは、十字架と共に手のひらに収まっている二体の小さな〝人形〟。


〈ものはいいようね……! 自分が知らなきゃ〝悪魔〟も〝神〟になる!〉

〈たぶん、ゲオたちと同じだ――〝神力〟を〝人形〟として与えられてる!〉

 シスターが何を願って〝力〟を手にしたかはともかく、止めなければならない。

 キラは〝気配面〟で〝防御面〟を呼び起こし、観察場所であるアパートの屋根から飛び降りた。


〈まずは炎を止めたい――何か方法ある?〉

〈師匠の覇術を真似ればいけるけど――〉

〈いける?〉

〈――やってみる。一分頂戴!〉

〈了解〉


 〝躯強化〟で着地のダメージを軽減している間にも、状況を把握する。

 目の前はもはや地獄。ゴーレムを飲み込んだ〝緑の炎〟は、そのまま広場を覆い尽くした。敵も味方もなく、存在するもの全てを焼き尽くす勢いである。

 そんな中、シスターは笑っていた。


「アッハハハハハ! 悪人たちよ、感謝するのです! この聖なる炎に抱かれて逝けるのですから――誉ある死を迎えられるのですから!」

 彼女にとって、〝モンテベルナ・ファミリー〟も〝バレンシア・ファミリー〟もさして変わらないのだろう。

 〝マフィア狩り〟で無差別殺人をこなしたキラも、ヒトのことをとやかく言えたものではないが――。


「イカれてる……!」

 あまりの狂人っぷりに反吐が出る。

 しかし皮肉なことに、そのおかげで接近しやすくなっている。マフィアたちは抗争どころではなく散り散りとなり、シスターを守る者たちもいなくなった。

 〝緑の炎〟に注意さえすれば、ほぼ一直線。

 エルトの〝猫足〟を借りて駆け抜ければ、ものの数秒で制圧できる。

 一瞬のうちに算段をつけ、脚に力を込め――しかしそこで〝気配面〟が危険を告げてきた。


「――!」

 シスターが持っていた〝人形〟は、一体ではなかった。

 その事実を思い出したのは、目の前に巨大な拳が迫ってきてからだった。


「これは――」

 一瞬、帝国城での苦い記憶が蘇る。

 〝コルベール号〟のゲオルグとサガノフの友達。ぽっちゃりとしたダヴィードが似たような〝力〟を使っていた。体の一部を泥や鉄に変化させる以外にも、手を巨大化させていた。


 それと同じ。

 いわば〝変化の人形〟。

 目の前に躍り出た〝人形〟が、自らの右腕を巨大化させて殴りかかってきたのだ。


 咄嗟に〝防御面〟が出るほど、まだ器用ではない――そこでキラは〝猫足〟の脚力で横へ跳んだ。

 急激な方向転換に転びそうになるところを、なんとか足運びでカバー。


「ギリギリ……!」

 巨大化した拳の風圧で体が持っていかれそうなところ、左手と右膝をついて耐える。

 その間も俯くことはできない。

 〝人形〟とシスターの両方を視界に収め続ける。


 一方でシスターも、自分が狙われているのだと自覚していた。

 〝緑の炎〟を振り向けようと、今に〝人形〟を掲げようとしている。

 〝変化の人形〟も次なる行動に出る。


 ほぼ同じタイミング――〝緑の炎〟は〝雷〟でなければ無理――同時に対処するには――。

 ふ、と息を吐き、〝猫足〟で距離をとる。


 まだ強大な〝雷〟をコントロールできるわけではない。ある程度方向性を決めて、暴れさせるだけ。

 その範囲内に〝緑の炎〟と〝人形〟とを収める。

 タイミングを測って、〝雷〟を汲み上げ――右手がパチリと唸ったところで。


「――はッ?」

 〝人形〟が、目の前からフッと消えた。


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