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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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771.抗争

「……どうしたの?」

「変な〝気配〟が、今、一瞬だけ……」

 レルマはそれだけで状況を理解してくれた。ちゅ、と頬にキスをしてから、自然な流れで離れてくれる。

 ルセーナも空気を読むのがうまい。言葉にはせずに、目だけで何かあったのかと訴えかけてくる。


「二人に聞くんだけどさ……。こっちの方って、何がある?」

 〝気配〟を感じた方向を指差す。エルトも同じ方角から察知したらしく、「そう、そっち!」と頭の中で肯定している。

「何があるっつっても……」

「パサモンテ城のほうじゃあ、ないわよね……」

 曖昧な問いかけに、ルセーナもレルマも困惑していた。

 もしかしたら本当に気のせいだったのかもしれないと不安になり……そこで、背後で交わされる会話が耳に飛び込んできた。


「マフィア同士の抗争だってよ……!」

「なんだってこんな時に……! どことどこだよ?」

「モンテベルナ・ファミリーとバレンシア・ファミリー! 〝市民軍〟のヒトらが大慌てで報告しに行ってた」

「デモ行進はやるんだろ? 大丈夫なんだろうな……?」

 モンテベルナ・ファミリーとバレンシア・ファミリー。

 言い換えれば〝イエロウ派〟過激派とクロス一派。

 二人とも、その構図にすぐさま気づいていた。


「マズイんじゃねえか、これ……。だってよ……」

「〝マフィア狩り〟の成果とも言えるけど……。このタイミングはなかなかね」

 二人の反応を見るまでもなく、キラは動いていた。

「とにかく、様子見だ――僕が見てくる。二人はここにいて。リーウたちと合流できたら事情を説明してほしい」

「うっし、わかった。増援向かわせるか?」

「――いや。一人で十分」




 〝イエロウ派〟の教会を中心として広がる〝プッチーニ区〟。店の一つもない住宅区は〝イエロウ派〟の中でも過激な思想を持つ人間ばかりが住んでおり、ある意味〝トラエッタ区〟とは真逆の街となる。

 ただし、〝プッチーニ区〟の真の支配者は〝モンテベルナ・ファミリー〟。過激派たちを隠れ蓑にして、アベジャネーダ全体に影響を及ぼすマフィアである。

 貴族や議会議員とも深い繋がりがあり、このファミリーに喧嘩を売るということは、国を敵に回すということに他ならない。どんなに荒くれ者を抱えるマフィアでも、表立って敵対するようなことはしなかった。

 〝モンテベルナ・ファミリー〟一強時代。マフィア間ではそう囁かれていたらしいが……この一週間で崩壊した。


 むろん、原因は〝マフィア狩り〟。

 陽が沈むとどこからともなく現れて、狙われた者は二度と朝日を拝むことはできない。人数を増やしても、待ち構えても、対策をしても……五秒とたたずに皆が死ぬ。

 恐れる他に、手立てがなかった。

 他マフィアからすればまたとない好機……ではあったが、そう簡単にはいかない。

 全てのマフィアが〝マフィア狩り〟の被害に遭い、無事なのはマフィアとも認識されていない使いっ走りの集団のみ。どこもかしこも、よそへ手を出すほど余力はなかった。


 ただし。

 〝バレンシア・ファミリー〟を除いて。 


〈〝プッチーニ区〟……だっけ? 見事に戦場になってる〉

〈〝イエロウ派〟過激派の根城だからいいものの……〉

 〝バレンシア・ファミリー〟は、マフィア同士のしがらみも国云々も関係ない。

 マフィアの皮を被った〝聖母教〟過激派なのだ。アベジャネーダにおいて、彼らの目に映るもの全てが攻撃対象となる。


〈けどまあ、よかった……のかな? てっきり、デモに絡んでくると思ったけど。その方が〝イエロウ派〟を消すって目的に一番近いでしょ〉

〈それしたら私とキラくんで対処してたから……。それを〝バレンシア〟も分かってたんじゃない?〉

〈ふん……。旧エマール領のときは〝聖戦〟だとかなんとか叫んでたけど、今回はそれっぽい雄叫びが聞こえない……。だから……マフィアとして抗争を仕掛けた、ってことになるのかな?〉

〈ふふん。だいぶ追い詰めたね。一強に食ってかからなきゃいけないほど、〝バレンシア〟の未来は狭いってことなんだから。せいぜい足掻いてほしい〉

〈このままジリジリとどっちとも潰れてほしいとこだけど……〉


 マフィア同士の抗争は激化しつつある。

 一本の大樹が聳え立つ広場を二分して、魔法を打ち合っている。

 ビュンッ、と光の玉が飛んでいくかと思えば、それを別の光の塊が食い止め。その一方で、舐めるように地面を這う炎を、水流が堰き止めている。

 氷に雷に風が吹き荒れ、爆発と砂塵と瓦礫とが入り混じる。

 激しい魔法のぶつかり合いの端でも、マフィアたちの接近戦が繰り広げられていた。刃同士がぶつかっては火花を散らし、互いの拳が体にめり込む。


 ざっと見、戦況は五分。

 ただ――少しだけ、〝バレンシア・ファミリー〟に傾き始めた。

 元は〝アルマダ騎士団〟に所属していた異端児たち。単なる殴り合いだけでなく、きちんとした作戦も組み込んでいた。

 魔法を撃ち合い、接近戦も仕掛けるその陰で、何体かのゴーレムを生み出していく。人の倍ほどの大きさしかないものの、ずんずんと進撃する姿は威圧感があった。


〈さっきの〝気配〟、なんだったんだろ? 〝神力〟のような気はするんだけど……〉

〈ああ〜、そういえば。私も、てっきりどっちかに〝授かりし者〟が紛れてるのかと思ったんだけど……。いないね〉

〈〝授かりし者〟を抱えてるとしたら〝バレンシア〟のほうなんだろうけど……。だとしたらさ。思いっきり暴れさせるじゃんね〉

〈んね。ってことは、〝モンテベルナ〟か……全く違うところか〉

〈んー……。一瞬だけ、ってのが気がかりなんだよねえ。なんか、僕らうまいこと釣られたような気がして……〉

〈えー? ……ええ?〉

〈……。違うとは言い切れないんでしょ〉

〈……うん。けどそんな細かい芸当ができるなんて、それこそ――〉


 エルトがほぼそれしかないであろう事実を口にしようとした、まさにその時。

 辺り一体を〝気配〟が飲み込んだ。

 と同時に、炎が吹き荒れる。

 さながら地獄からこぼれ落ちたかのような緑色の炎が。


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