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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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767.仕事

〈一応、〝アサシン〟とも情報共有したけど……。動くかは微妙だろうなあ〉

〈初代たちが〝アルマダ騎士団〟だったってだけで、今の世代は厳密には正規の騎士じゃないもんねえ。こういう事例って、特殊なノウハウか圧倒的な制圧力がなきゃ対処できないし〉

〈まあ、ともかく……。これでようやく下準備完了ってことだ〉


 〝市民軍〟の抗議活動をサポートする中、突如として浮上したマフィア問題。

 〝聖母教〟過激派の性質も兼ね備える〝バレンシア・ファミリー〟は、何をおしてでも抑えねばならない危険組織である。

 リリィたち〝本部〟も交えて対抗策を練ったところ、当初キラが決意した通り、潰す以外に手立てはなかった。


 問題はその手段。

 〝市民軍〟による抗議活動まで約一週間。その間に〝バレンシア・ファミリー〟に潜入して解体……というのはあまりにもリスキー。

 マフィアとやらは親兄弟のように絆が強く、この短期間で手下として割って入るにはかなり厳しい。


 しかも〝バレンシア・ファミリー〟は、異教徒を滅ぼさんとする過激派〝聖母教〟信者集団でもある――その独特な仲間意識に取り入るのは至難の業。

 ならば外部から取り崩して行くほかない。ただ、正面切って争っては市井に被害が出る。

 そこで、議論の結果編み出されたのが〝マフィア狩り〟だった。


〈これでようやくできるね……。辻斬り……!〉

〈それ、ウキウキしながら言う単語じゃないと思う……〉

 夜の帷が降りたリケール。〝ポルポラ区〟のスラム街の一角で、キラは息を潜めて待つ。

 とは言っても、その体を操るのはエルト。

 黒髪全てを隠すようにフードを深く被っている影響で、血のような真っ赤な瞳が怪しく輝く。

 ルセーナから借りっぱなしのスカーフで鼻まですっぽり覆えば、この夜闇では人相の区別などつきはしない。せいぜい、〝赤目の少年〟が噂になるくらいである。

 これで〝マフィア狩り〟に必須の隠密行動はクリア。


〈エルト。もう一度言うけど、リケールの裏路地って結構狭いから……〉

〈わぁかってるって。この仕事人に任せなさい!〉

〈だからそんなウキウキで……〉

〈ノリが悪いなあ。――ヒトを食い物にするクズを斬るんだよ。ためらいなんてないよ〉

〈……ま。心が傷まないのは確か〉

〈んね〉

 〝マフィア狩り〟の対象は、マフィアを名乗る組織全てである。〝バレンシア・ファミリー〟でなくとも、その悪質性を確認できたならば、誰あろうと斬る。


〈お。一人きた〉

 昨晩、夜が明けるまで〝マフィア狩り〟をしてみたのだが……その成果は一人。

 レルマら〝アサシン〟から大まかなマフィアの縄張りは共有してもらったが、一人一人を斬るとなるとまた勝手が違う。

 具体的にどのあたりにうろついているのか、グループで行動しているのか、そもそも本当にマフィアに所属しているのか……殺す前に考えることが多すぎた。


 そのため、昼間における事前調査は必須だった。

 マフィアは、必ず目に見えるところにそれぞれのシンボルをタトゥーにして入れている。そうとわかっていても、昼間はなかなか苦労していたのだが……。

 ともかく――今、目の前に現れた男の首元には馬蹄のタトゥー。〝ニッツァ・ファミリー〟の一員である。

 狭い路地を塞ぐようにして立つと、当然、男はいきりたつ。


「ア? 邪魔だ、どけ」

 酒を喰らいつつガニ股で歩くその姿には、気品のかけらもない。おまけに、犬が縄張りを主張するように、痰を道端に吐き……。

 集金か、巡回か。どちらにしろ下っ端のようではあった。


「聞いてんのか! ぶっ殺されてェのか、アアッ?」

 エルトはもとより会話する気など一切ない。

 男ががなり立てるその瞬間を狙って、前のめりになり――


「〝猫足〟」

 駆ける。


 反応する隙さえ与えない。

 狭い路地裏であっても、構わず抜刀。

 迷いなく、前へ向けて、居合い切りを撃ち放つ。


〈んん……。やる〉

 ほぼ、刺突。

 首元を過たず掻っ捌く。

 男は、まるで溺れたかのようなくぐもった声を上げて、背中から倒れた。


「で、ここでナントカジョー」

〈斬奸状、ね。本当は殺す理由を書くものだから、ちょっと違うけど〉

 エルトが懐から取り出したのは、三つ折りにした羊皮紙。それで〝センゴの刀〟の血糊を拭ってから、まだピクピクと痙攣している男の胸の上に置く。

 書いてある内容は、『バレンシア・ファミリーに告ぐ。解散せよ』。


〈にしても、よく思いつくよねえ。こんな当てつけみたいな作戦〉

〈いや、だから僕も言ったじゃん。〝バレンシア・ファミリー〟を対象にして、ってさ。そしたらシスが横入りするもんだから……。顔も出さず〝リンク・イヤリング〟で途中参加のくせして……〉

〈まーまー。そのおかげで選定する必要なくなったんだし? 悪も減るしで一石二鳥〉


 マフィアに対する無差別的な辻斬り。

 その狙いは、〝バレンシア・ファミリー〟の孤立化。

 同業で縄張り争いをしているとは言え、謂れのない殺人で多くのファミリーが部下を失うことになる。

 その怒りはもちろん犯人である〝赤目の少年〟に向けられるだろうが、〝バレンシア・ファミリー〟も標的となる。

 対する〝バレンシア・ファミリー〟は、犯人探しと並行して、他マフィアとの抗争も余儀なくされる。アベジャネーダの支配あるいは撲滅どころではなくなるだろう。

 あわよくば、全く関係のないマフィア同士で潰しあってくれれば。キラもわざわざ手を汚さずとも済む。


 とはいえ、それは理想の形。

 〝バレンシア・ファミリー〟が中心となって、マフィア社会全体で結束力を高めることも十分に考えられる。

 そうなった場合は中々厄介ではあるが……少なくとも、〝バレンシア・ファミリー〟の〝クロス一派〟としての側面はつぶすことができる。


〈――十人目。あれ、もうちょっと多いっけ?〉

〈ん〜……ザンカンジョーはあと八枚。十二だね〉

〈……代わる?〉

〈んーん。キラくん、いつもキツイとこで踏ん張ってたでしょ。今回は私の番——任せなさい。アランと組んでたこともあるんだから〉

〈ありがとう。――そろそろ初めの……〝ニッツァ・ファミリー〟の死体が見つかるといいけど。昨日のはなんだかんだで治安局に回収されたっぽいし〉

〈〝ポルポラ区〟、すぐそこだし。ちょっと探ってみようか〉


 エルトは建物に視線をそわせてから、〝猫足〟を発動した。障害物を避けながら、トントントンッ、と一気に屋根の上まで駆け上がる。

 そうして視界が開けたところで、初めて月が明るく輝いていることに気づいた。


〈イイ夜風〜。スッキリするねえ!〉

〈気分がいいことじゃあないからね〉

 一息ついたところで、エルトは〝空梟〟で辺りを探った。

〈ん……。〝気配〟が集まってるとこがある〉

〈風に乗って怒鳴り声も聞こえるような……。しまった……チンピラの声の大きさは勘定に入ってなかったなあ〉

〈どうする? 追い打ちかける?〉

〈んー……今日はパス。近隣には申し訳ないけど……斬奸状あるから勘違いされるなんてことないでしょ〉

〈そ? じゃ、ちょっと休憩ね〉

 そう言ってエルトは体の主導権を渡してきた。

 キラは一応〝空梟〟を展開したまま周囲を警戒。フードもスカーフも外さないでおく。


〈にしても……。変なタイミングでエリックと遭遇するなんて……セドリックも持ってるなあ〉

〈あ〜、ね。しかも配達業なんてさ。意外も意外。セドリックくん、慌てて言葉足りてなかったけど……あの言い方って、多分雑貨店の裏でばったり鉢合わせた、ってことだよね〉

〈そうだと思う。僕も一緒にいたら逃さなかったんだけど〉

〈その言い方、犯人捕まえるみたいになってる。けど、エリックくんも危ない橋渡ってるっていうか……。マフィア関連のこと、知らないのかなあ?〉

〈僕らよりも長く居て、しかも〝トラエッタ区〟のお婆さんとも知り合いみたいだし、知らないわけがないでしょ。知ってる阿呆か、知らない馬鹿か……両方か。どれかだね〉

〈あ。そう言えばキラくん、エリックくんのこと嫌ってたっけ?〉

〈……別に。自分勝手なやつとは思ってるけど……セドリックとドミニクはそうじゃないって信じてるみたいだから〉


 キラはフンと鼻を鳴らしつつ、〝センゴの刀〟を引き抜いた。明るい月明かりの元できらりと輝く刃には、ところどころ血がこびりついている。

 爪でカリカリとこそぎ落としたくなったが、グッと我慢。マントの裾で何度も何度も丁寧に拭き取っていく。


〈まあ、ともかく……色々なことが解決の方に進みそうでよかった。こっちはまだ厄介な方へ転がってく可能性もあるけど〉

〈あとは〝イエロウ派〟の過激派がどう動くか、だよねえ。〝モンテベルナ〟がバックにいるし、何か手は打ってきそうだけど……。〝市民軍〟に喧嘩ふっかけられたら面倒。どーしよっか〉

〈――〝モンテベルナ〟にもう一度仕掛けよう。わざと見つかって、目的を言葉で伝えれば……〝市民軍〟と関係ないところにあるって証明になる〉

〈よし、じゃあそれで行こう〉


 抗議活動まで、あと四日。


   ◯   ◯   ◯

【お知らせ】

二週間ほど投稿をお休みします。

再開は2025年1月8日(水)。

良いお年を!

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