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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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765.顔を出す

「俺らも手伝えることありゃあいいけど……。リーウさんがいるもんなあ」

 メイドということもあり、リーウは意外と〝アロンソ雑貨店〟での仕事に前向きだった。

 とりわけ掃除と倉庫整理に関しては、仕事内容を覚えるだけでなく、〝アサシン〟たちに改善点をアドバイスしたくらいである。元帝国城勤め、現エルトリア家メイドは伊達ではない。

 そんな彼女は竜ノ騎士団の雑用係……ではあるが、実質的には元帥代理。

 キラが一人で〝バレンシア・ファミリー〟撲滅するにあたって、リーウも連絡係として駆り出されることになった。

 〝アロンソ雑貨店〟にも顔を出すものの、一時間やそこらで隠れ家に戻ってしまう。

 まるで姉のように優しく接してくれる彼女がいないのは、なかなか寂しいものだった。


「私たち、そういう隠密行動は得意じゃない……。〝闇ギルド事件〟の時は見事に目をつけられたし」

「つかよ。そこらあたりキラは大丈夫なのか?」

「さあ……。だけど、ここまでの道中で意味不明の気配探知術なんか身につけてたし……」

「ああ、強ぇ……。どうとでもなるか」

 無断でついていくこともチラリと考えたが、あまりにも無謀。ということで、延々と倉庫での仕事に没頭する他なかった。


「ローランさんは……〝市民軍〟に顔を出してるんだっけか?」

「そのはず。意外と顔見知りが多いから、手助けに回ってるんだと思う」

 雑貨店で働く中に、もう一人知り合いがいる。

 〝隠された村〟をキラと共に守り抜いてくれた〝平和の味方〟ローランである。故郷の恩人に改めて礼を言ったところ、彼もまた『キラの友達』として覚えてくれていた。

 アベジャネーダ出身らしいローランは、ずいぶんと顔が広いようだった。

 店先でばったりと知り合いに出くわすことが多く、その人脈の太さを〝市民軍〟としての活動にあてているのだ。


「ローランさん、あれで結構〝鬼〟として有名だったっぽいな。そうは見えねえけど」

「それに……能天気に見えて、かなりの策士。〝市民軍〟として活動してるってこと、知り合いにも全く見せてない」

「てかよ。俺らも〝市民軍〟に……ってのはちょっと安易か?」

「私もそう思うけど……。現実的にほぼ無理。ローランさんみたいに土地勘があるわけでも、キラみたいに単独行動を許される実力はないから」

「ちぇっ……。いつになったらエリックを探しに行けるやら……」


 そこが一番の問題だった。

 セドリックもドミニクも、エリックを連れ戻すためにアベジャネーダまで来ている。

 そのために竜ノ騎士団に入ったと言っても過言ではない。それまでの努力も頑張りも、全ては親友の頬を引っ叩くため。

 任務を放棄するわけにはいかないものの、〝元帥〟であるキラからは『何よりも優先すべき』として、エリック探しについて許可をもらっている。

 とはいっても、さすがに一日目から全力でサボるわけにはいかない。案内人のルセーナも一緒になって仕事の説明をしてくれた手前、最低限の役割はこなしておきたかった。


 それがどうだろう……到着して半日で状況が切迫するとは、想像すらしなかった。

 〝ガリア大陸遠征計画〟の発表に、これに対応する形で動かねばならなかった〝カール哨戒基地〟と〝アサシン〟、そして〝市民軍〟。〝イエロウ派〟過激派による思想的な分断、クロス一派によって結成された〝バレンシア・ファミリー〟の台頭……。

 エリックを探しに勝手に街に繰り出すわけにはいかないと、馬鹿でもわかる状況である。


「せめてどこにいるかさえ分かってりゃあ、あとでどうとでもなんのによ」

「ローランさんが知り合いから聞いた限りだと、旧エマール領からの避難民のために仮設住宅地区が設けられたらしいけど……」

「そんなとこで大人しくしてるかあ……? あいつが? ただでさえ落ち着きねえのに。エマールの首が近くだからって、城に忍び込んでる可能性もあるだろ」

「〝隠された村〟にいた頃だったら、それがいちばん可能性高い。けど……エリックは、避難民と一緒にアベジャネーダまでやってきた」

「そこだよなあ、謎なの。なんで〝イエロウ派〟側についたんだ? エマールに与した……ってのはどうしても考えづらいしよ」

「絶対、何か理由があるはず」

「脅されたとか? ――そんなもんでどうにかなるなら、むしろ助かったんだけどよ」


 考えたところで答えなど出るはずもなく、ドミニクと一緒になって倉庫整理に没頭する。

 〝アロンソ雑貨店〟は、ほぼ毎日ベルナンドからの輸入品を仕入れている。

 特に多いのが食器関係で、造りや紋様の異なる皿がかなり多い。これだけで棚に並ぶ商品の半数を占めていると言っても過言ではない。

 ゆえに、整理整頓に時間がかかる。品名ごとに棚や木箱に納めていかねばならないのだが、微妙に模様が違うのが混じっていたり、品出しの際に違うものが混じっていたり。


 色形はほぼ同じなのに商品としては別なものもあるため、意外と神経を使って確認せねばならない。

 しかも、時折角が欠けていたりヒビが入っていたり……。皿を一種類きちんと片付けるのにも、一時間はかかってしまう。

 リーウによれば、時間短縮の魔法はいくつかあるらしいが、結局はヒトの目で確認する方がいちばん手っ取り早いらしく……困ったように言いながらも、ものの十分ほどで片付けていた。

 単調かつ精細な作業で気が滅入りそうになった時、外の方から声が聞こえてくる。


「すんませーん。備品の配達に来ましたー」

 気分転換するチャンス。セドリックはそう思って腰を上げると、ドミニクも同じようにして立ち上がっていた。思わず顔を見合わせ笑ってしまい、二人一緒に配達の受け取りに向かう。

「伝票にサインお願いしまーす。――」

「……。――」


 〝アロンソ雑貨店〟の敷地は、木の柵で一緒くたに囲まれている。柵とは言っても、腰までの低いものではなく、魔法で浮きでもしない限り中を覗き込めないような高いもの。

 ゆえに、柵越しに配達物を手渡しで受け取るわけにはいかず、扉を開けてきちんと出迎える必要がある。


 その時に。

 探していた友達が。

 配達物を抱えて立っていたとしたら?


「セド……!」

「――へ?」


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