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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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755.分裂

「心当たりが一つあるわね」

「おお? 何?」

「アナタも知ってると思うけど、アベジャネーダの国境兵には〝アサシン〟が混じってるの。そのおかげで仲間たちが自由に出入りできるわけだけど……同時に、怪しい人物もチェックできるのよ」

「怪しい……?」


「たとえば……。〝教国〟ベルナンドからの移住者たち」

「……それだけ?」

「それだけ。でも、大事なのよ。だって、思想を鞍替えしたってことだもの。ともすれば生きる意味をも曲げた……と捉えることもできるの」

「んー……。じゃあ、その移住者が〝バレンシア・ファミリー〟を変えたって? よそ者で移住者だってのに、なんだって裏社会になんか……」

「……分裂?」


 なんの脈絡もない呟きに、レルマ自身が驚いていた。

 よほど頭を回転させたのか、突拍子も無い考えが降って湧いたらしい。突発的な答えに彼女自身が動揺し、首を傾げてその過程を思い起こそうとしている。


「そういえば……。アベジャネーダが分裂しかかってるとか言ったよね。マフィアが暗躍してるなら、十分そういうこともありうるような気はするけど……」

「そう……そうね。そういう見方もあるかもしれないと、ふと思ったの。思想が変わったから移住したんじゃなくて、変えられないから越してきた……。アタシたち〝アルマダ騎士団〟のように」

 レルマは独り言のように呟き、考えを固めた。


「おそらく移住者たちは、マフィアになるためにアベジャネーダまで来たのよ。辻褄が合うとまではいかないけど……この一ヶ月で〝バレンシア・ファミリー〟が急成長した理由と、アタシが気づけなかった理由とが、その一点で片付くわ」

「あー……。どういうこと?」

「移住者たちは、なんらかの目的を果たすために移住したということよ。その目的を叶えるために、〝バレンシア・ファミリー〟に取り入り、急成長させた。アタシが気づけなかったのも、万一にも外部に漏れないよう細心の注意を払っていたからと推測できるわ」

「おー。……おー?」

「あら、どうかしたの?」

「嫌なこと思い出した……」


 ハテナ顔で続きを待つレルマに、キラはなかなか切り出せなかった。

 今思い起こしたことは、確実ではない。偶然の一致という可能性もある。

 だが……。旧エマール領での〝武装蜂起〟の際に巻き起こった騒動と、酷似しているというのまた事実だった。


「その移住者たちってのは、間違いなくベルナンド人なんだよね?」

「ええ。そうだけど」

「じゃあ……。〝聖母教〟信仰者?」

「もちろん。……一体、何を思い出したのかしら?」

「旧エマール領……シーザー・J・エマールがエグバート王国で持っていた領地なんだけどさ。そこで武装蜂起が起きたんだよ。エマールから領地を奪って、自分たちに平和をもたらすために」

「あなたは奪う側……いわば反乱軍側ね」

「うん。それで……。その作戦の途中にさ。邪魔が入って結構な混乱が起きたんだ。その邪魔者っていうのがクロス一派……〝聖母教〟を絶対とする過激派たち。〝イエロウ派〟をひどく憎んでいたんだよ」


「あらあら……。なら、アナタが思い至ったのは……」

「〝聖母教〟が〝イエロウ派〟を憎む。簡単にいえばそう表せる構図が、このアベジャネーダでも当てはまるんじゃ無いかなあ……って思ったんだよ。移住者たちの目的が、もしも〝イエロウ派〟の抹殺だったりしたら……裏社会にだって手を伸ばす。なんせ〝イエロウ派〟――この国全てが標的」

「ちょーっと……。マズイことになったわね……」

 これまで一度たりとも表情を崩したことのなかったレルマが、顔色を変える。目つきを鋭くしてつと立ち上がり、苛立ちを隠すかのようにウロウロと足を動かす。


「クロス一派、クロス……〝狂信者〟クロス。でしょう?」

「そういう呼ばれ方をしてたかは知らないけど、クロスって名前ではあったよ」

「ああ……。だとしたら、マフィアに取り入り、急成長させるだなんて簡単なことね」

「ひょっとして、かなりヤバい? 本人はもう死んでるんだけど……」

「そうね……。〝アルマダ騎士団〟に所属していた騎士よ……随分前に、その過激な考えから追放されたの。当時結構な騒動になったらしくってね。クロスを追って辞める騎士が後を絶たなかったそうなの。それこそ、一個大隊が丸ごと消えてなくなるくらいに」

「少なくとも五百人……? でもあの時はそんな数はいなかった……。せいぜい、クロスの思想に共鳴する人たちをかき集めたくらいと思ったけど……」


「ということは、ベルナンドに残った過激派たちも多くいて……。その一部がアベジャネーダに直接乗り込んだのだとしたら……」

「もともと騎士だったんなら……。大きなファミリーはともかく、どこかに寄生しないとやってけない小規模ファミリーはあっという間に乗っ取れる。腕っぷしもあって、死ぬことすら栄誉だとか思う連中だから……ほんと、無敵の集団になる」

「至急、対策が必要ね。けど……」

「抗議活動まで一週間でしょ……? しかも〝市民軍〟には戦う力がない。僕が片付けてもいいんだけど、旧エマール領で敵対した感じだと、騒ぎを起こさず潰せるかどうかは分からない」


 言葉を重ねるたびに、状況が塞がっていくようだった。

 〝バレンシア・ファミリー〟を潰そうにも、元騎士の連中で構成されているのならば、それなりの労力がかかる。

 かといって放置しておけば、必ず抗議活動に介入してくる。

 たとえこの一週間大人しくしていたとしても、〝ガリア大陸遠征計画〟によりエマールの軍が出発するタイミングをみすみす逃すとは思えない。

 〝市民軍〟もろともねじ伏せるような策を打ってきてもおかしくはない。


「アルマダ騎士団はどう動く?」

 レルマは小さな広場を行ったり来たりしながら応えた。

 明確な答えというよりも、自らの考えを整理しているかのようで、喉の奥から押し出すような声になっていた。


「……私たちが教皇庁にすら内密で侵攻作戦を進めているのは、アベジャネーダが分裂しかかっているから。〝イエロウ派〟の過激な思想が分断する様を、もう見過ごすようなことはできなくなったから」

「分断……っていうと?」

「〝イエロウ派〟の敵は、あくまでも〝悪魔〟……〝授かりし者〟だったはずなの。けどここ最近の過激派は、自分たちの意見に反対するヒトにも攻撃的になってきている。行き過ぎた思想が、国民を真っ二つに引き裂こうとしてるの」


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