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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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749.ギリギリ

〈ええっと……? 政権の引き渡しってことは……? 参政権を得るためじゃなくって、ほんとに国を乗っ取ろうと動いてるってこと?〉

〈そうっぽいね。だから〝軍〟なんて呼称してるんじゃない?〉

〈まあまあ無茶じゃない……? エマールたちがガリア大陸に遠征してる隙に、って話なんだろうけど、それでも残ってる兵士たちが貧弱なわけじゃないし〉

〈まあ……。帝国への遠征が大失敗したってことは、騎士たちの同僚が亡くなってることもあるじゃん? だから……〉

〈敵の感情に付け入る? うまくいけばいいけど……〉


〈だから〝アサシン〟たちが決意したんじゃないの? 〝アルマダ騎士団〟が秘密裏に進行作戦を動かした方がまだやりようあるし〉

〈ああ、そういう背景もあるのか……。え……じゃあ、僕らがやるのって、割と無駄なことなんじゃ……〉

〈私たちの役割は、あくまでも〝教国〟ベルナンドの支援。〝戦争派〟の〝アサシン〟と接触できるんなら、無駄骨ってわけでもないよ。……スマートじゃないのは確かだけど〉

〈〝アルマダ騎士団〟に〝アサシン〟に〝市民軍〟……みんな秘密にしたがるのが悪い。しかも隠し通せてないし……〉

 思わずため息が出そうになるのをグッと堪えて、シスに置いていかれないよう小走りになる。


「〝市民軍〟にも隠れ家が?」

「隠れ家というよりも、集合場所といった方がいいですね。〝デカロ区〟に酒場が軒を連ねる通りがありましてね。その一部が〝市民軍〟の集合場所となってるんです。一応、拠点ですね」

「一部? そのうちの一軒とかじゃなくて?」

「〝市民軍〟の興りは、酒場での愚痴大会らしく……。隣り合う三つのお店が実際に行動を起こしたのが始まりなんです」

「ああ……。誰かが決起したわけじゃないから、リーダーがあやふやだったんだ。で、シスが選ばれた」

「〝アサシン〟たちも随分ヤキモキしていたみたいですからね。具体的な活動内容もなかなか決まらなかったようですし」


「そりゃあ、酔っ払いから始まったんじゃあね……。むしろ、よく抗議活動なんてマトモな考えが出たくらいだよ。シスの案?」

「半分は。一般市民の声を拾い上げて、それを国にぶつける……という方針自体は定まっていたので、ならばそれを素直に拡大化すればいいのではと提案したんです。当初の予定では、定期的に〝パサモンテ城〟前で抗議活動をするつもりだったんですよ」

「じゃあ、今は違うんだ」

「〝ガリア大陸遠征計画〟の喧伝をきっかけとして、皆の気が逸りだしたんですよ。確かに、主戦力がリケールを離れるとなれば、これを利用しない手はありませんから。最大のチャンスと言えるでしょう」


「で、そこに〝アルマダ騎士団〟の〝戦争派〟の考えが乗っかった……」

「ええ。一度の抗議活動で国の主導権を奪うという話になったんです。〝市民軍〟と名乗るようになったのも、その意思表示のようなものです。〝パサモンテ城〟の占拠も視野に入れてますし」

「なら、その抗議活動ってのは、エマールの軍がガリア大陸に向けて動きだした後になる……。いつ?」

「一週間後です」

「おぉ……。僕らの到着、結構ギリギリだったんだ……。じゃあ、もう大詰めな感じ?」

「ですね。大体人数も整ってきてまして……。実際に抗議活動に参加する人数が五百人ほど。署名として集まったのが一万。アベジャネーダ全体の人口が五十万ほどという話ですから、それを考えるとまずまずクリアといったところですね」


「おお……。あれ。じゃあ、僕のやることはない……? ってか、今更入ったところで……」

「いえいえ、そんなことはありませんよ。むしろ、ここからが正念場です」

「どういうこと?」

「〝市民軍〟は急拵えにして成功を収めようとしています。〝アサシン〟の根回しが大きいとはいえ、ひと月たらずで一万以上の賛同者を募りましたから。ただ、〝市民軍〟には戦う力がなく、故にスパイ活動並みにひっそりと動かねばなりません」

「ふん……? ん。待って。〝アサシン〟たちならともかく、純粋な〝市民軍〟メンバーがいろいろな状況を加味して判断して、っていうふうに隠し通せるとは思えないんだけど……。一ヶ月で抗議活動できるほどに注目集めたら、それこそどっからか漏れる可能性だってあるんじゃ……?」

「ええ、そうです。といっても、そういう噂があるという程度で、妨害が起きるほどではありませんが」


「なら、あんまり問題はない……ってこともない?」

「この抗議活動において一番に問題なのが、参加者がいなくなったり、署名が取り下げられることです。一人が辞めれば、また一人、もう一人と……ずるずると、辞退者が増えていくでしょう」

「あー……。〝イエロウ派〟の過激派に目をつけられたら……。面倒どころじゃなくなる」

「昨日も話した通り、その思想はともかく、ローランさんにいきなりナイフを突き立てるような集まりです。そしてそれを皆知っています」

「目をつけられたら、って恐怖が伝染すると……一週間と経たずに作戦が飛ぶ。それでも〝アルマダ騎士団〟が控えてるっちゃ控えてるけど……」

「一つ大きな攻め手をなくすことになりますし、残る手立ては正面切っての宣戦布告……。当初〝聖母教〟が要請したものとは、かけ離れた事態となるでしょう」


「ってなったらさあ……。僕の責任?」

「ギリ……ギリ……アウト」

「あ〜あ……。何もしてないうちから窮地に立たされてるよ……」

「あはは……。僕も〝アサシン〟も、できる限りサポートしますから」


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