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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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748.活動内容

「昨日、僕らは当初の予定通りに行動する、って結論づけましたけど……」

「もちろん、それでよい。〝ドンキホーテ商会〟の従業員として、あるいは〝市民軍〟メンバーとして、我々のサポートをしてくれればな」

「けど……こういったらアレですけど、どう片をつけるつもりなんです? 〝市民軍〟がアベジャネーダをひっくり返さなきゃいけないのに、〝アルマダ騎士団〟が出てきたら……。いろんなところにヒビが入るというか、齟齬が生じるというか……」

「うむ、わしも散々……。ん、おほん。気にすることはない。我々〝アサシン〟は五十年もの間この国に潜んできた。過激な思想を持つ〝イエロウ派〟も多いが、そうではない者の数が多くなってきておる。我らの思想もまた、根付いてきておるんじゃ……やりようはいくらでもあるというものよ」


「ちなみに……。このことを〝アサシン〟全員が知ってるってわけじゃないですよね?」

「わしと〝市民軍〟で活動する者たちに限られておる。……くれぐれも、内密に頼みたい。全てを綺麗事で終わらせるつもりはなかったとはいえ、平和的な統合を待ち望んでおる。そのための五十年……どうか」

「それは、もちろん。わかってます」

 よろよろと書斎机から離れ、深く腰を曲げて嘆願する老人を前にしては、誰も無碍にはできない。

 キラは二つ返事をして、今にも前のめりに転びそうなラグーナを再び椅子に座らせた。


「で……。今日の昼頃にはセドリックたちが到着しますけど……今から合流に向かうってことですか?」

「いや、先に〝市民軍〟と接触してもらいたい。あの遠征計画の発表以降、目まぐるしく状況と作戦が変わっていくのでな……また何か大きな変化がないうちに、顔合わせくらいは済ませておきたい」

「わかりました。じゃあリーウも……あれ? リーウはどうすればいいんです?」

「リーウくんは、たしかキラくんの代理人でもあったかな。わしの想定としては、キラくんとシスくんにのみ〝市民軍〟に入ってもらい、他の方々は商会の方で活動してもらうと言うものだったが……」

「フン……。ってことは、別行動が多くなるってことか……」

 キラは腕を組み、考えるふりをして、頭の中のエルトに声をかけた。


〈リーウとシスは離れてた方がいい……よね? 二人はイヤリング持ってて連絡取り合えるんだし〉

〈そうだね〜……。キラくんとシスくんが常に一緒にいるってこともないんだろうけど……効率って面を考えるなら、二人は離しておいた方がいいかな。なにより、今のキラくんなら〝気配面〟で何とかなることも多いだろうしさ〉

 迷うところではあったが、セドリックとドミニクのことも考えれば、リーウも加えて三人で動いてもらった方が安心ではある。

 加えて、商会の方にはローランもいる。少し様子のおかしいところもあるケツアゴ紳士は、戦いはしないものの、驚くほどの頑丈な体を持つ。何かがあっても、文字通り体を張ってくれるだろう。

 キラはそう結論づけて、ラグーナにうなづいて見せた。


「〝市民軍〟は、午前中に一度だけ集合する。前日の活動の報告を行い、その日の内容を調整するのだ。詳しくはリーダーであるシスくんに聞くと良い」

 朝食を終えて〝長老室〟に顔を出したリーウとシスにも内容をざっと共有し、〝アサシン〟としての初日をスタートした。

 別行動となるリーウとは別れて、シスの案内に従う。


 アベジャネーダの首都リケールは、王都や帝都のようにきちんと区画整理されているわけではない。

 都市の成長に合わせて区画や住宅を増やしていったらしく、その結果、大通りが各区画の境界線となったのだ。

 もともと〝教国〟ベルナンドの西端の領土を占領したという歴史的な背景が、歪な街づくりにつながった形である。

 境目を越えれば、同じ街にいるとは思えないほどにがらりと街並みが変わる。

 まるで迷路のような裏路地を抱える区もあれば、定規で計ったかのようにきっちりとした区もある。路面も整備されていたりされていなかったり。

 街の中にいくつもの町が存在しているかのようで、一種の迷路となっていた。


「あとでお教えしますが、スラム街なんかは要注意です。〝アサシン〟たちは平気で情報収集に向かいますけど……アベジャネーダの礼儀も作法も知らない僕らが迷ったら、もう一発ですよ。大通りを使うのが無難ですね」

 そうは言いながらも、シスは人目を避けるかのように小路に入った。潜入任務を生業としているだけあって、地図がなくとも迷うことはないらしい。


「それで言ったら、〝市民軍〟も相当まずい気もするけど……」

「まあ、そこは〝アサシン〟たちがサポートしてくれますよ。戦う力のない”市民軍”にとって、人手はいくらあっても困りませんから。〝アサシン〟の見分けの付け方は分かりますね?」

「ジャ……ジョ……なんとかって人が作ってくれたこの指輪が”証”なんだよね」

「ええ。みんな右手の中指につけていますから。握手の際に指輪同士をぶつけて、交互に強く握るのが合図となります」


 建物の影で一生陽の当たらない泥道は、妙なにおいがした。紙袋やら木箱やらが散乱し、その影に隠れるようにしてネズミがチョロチョロとしている。

 帝都とはまた違った意味でゾクゾクとし、エルトも頭の中で「ひゃあ」と何とも間抜けな声をあげている。キラも鳥肌が立つ腕を無意識にさすりつつ、シスの後を歩く。


「〝市民軍〟って、具体的に何してるの?」

「抗議活動の参加者集めですね」

「抗議?」

「〝パサモンテ城〟前の広場に詰めかけ、政権の引き渡しを要求するんですよ。アベジャネーダを動かすのは〝三竦み〟を筆頭にした貴族たち……一般市民は口出しできないどころか、議事録の閲覧さえ許されていません。〝市民軍〟は市民の代弁者となるべく、抗議活動を成功させるための根回しをしているのです」

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