表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

772/956

747.方針

「名誉挽回の機会をいただいたと、ポジティブに捉えますよ。ええ。当てはあるんで」

「シスも大変だ……。元帥に目をつけられちゃあね」

「他人事のように……。王国最高権力を持つ二人に睨まれる身にもなってください」

「睨んじゃいないよ。僕もリリィもね」

 キラは今更ながらにリーウがいれてくれた紅茶に口をつける。

 メイド本人も、秘書業務に集中するあまり存在そのものを忘れていたらしく、ハッとしてカップに手を伸ばす。


「で……。〝ガリア大陸遠征計画〟……だっけ? それがもう直ぐ始まるから、〝アサシン〟は……っていうか〝アルマダ騎士団〟は急いでるわけだ。……なんで?」

「単純な話です。軍の主だった面々がリケールを留守にするからですよ。〝アルマダ騎士団〟にしてみれば、エマールの〝宿願〟がどうとか〝奥の手〟がなんだとか、そういったことはどうでもいい話ですからね」

「ああ……。領土を取り返すのが目的なら、留守を狙った方が確実か。城を抑えるにしろ、リケールを囲むにしろ、主戦力がいない方が当然やりやすいし。……ってことは、表立って仕掛ける気かな?」

「いえ、おそらくは〝市民軍〟を利用すると思いますよ」

「あー……? 〝市民軍〟を……? じゃあ……革命って体裁を取り繕ったままってことで……?」


 〝聖母教〟と、〝カール哨戒基地〟および〝アサシン〟。平和的解決と戦争的解決。

 領土奪還という同じ目的を持ちながらも、全く異なる手段を取ろうとする二つの組織に、キラは頭が混乱しそうになった。


〈いやに確信を持って言いますわね?〉

「早い話、〝アサシン〟にも二つの派閥があるんですよ。〝戦争派〟と〝平和派〟……もちろん、亀裂が入るほど過激な違いではありませんが。ただ、戦争を視野に入れているか否かは、はっきりと分かれています」

〈では、〝市民軍〟には〝戦争派〟の〝アサシン〟がいると言うことですね?〉

「ええ、そうです。これは僕の推測なんですが、〝市民軍〟の……〝戦争派〟の〝アサシン〟たちを介して軍を展開するのではないかと」

〈確かに効率的な戦略ではありますが……。不安は残りますわね。そもそもこの三百年間、表立って戦争を仕掛けなかったのは〝聖母教〟の思想ゆえでしたのに……。いくら大きな機会が巡ってきたとはいえ、気がかりですわね〉

「〝アルマダ騎士団〟が攻める戦いに長けているとは思えませんからね……。どう転ぶかは僕たちの働き次第、といったところでしょう」


 想像以上にややこしくなってきた事態に、キラは頭が破裂しそうだった。

 前屈みになっていた体から力が抜けて、ソファの背もたれにもたれかかる。


「あ〜……。もう……やだァー……」

 何にも考えていないバカみたいなセリフを、リーウが面白がって一言一句違わずリリィに伝える。

〈ふふ。心配せずとも、キラならば何とかできますわよ〉

「う〜……。じゃあ、結局のとこ、何すればいいわけ……?」

〈合同会議では、先方からは何も要請はありませんでした。ということは、わたくしたちにも内密に動くという意思表示にほかありません。キラは当初の予定通りに動き、何かがあれば号令をかける……簡単にまとめればこういうことです〉

「何か起きたら、その時はその時……頑張るしかないかあ」


 まだ色々と話すべきことがあったかもしれないが、キラはそこで力尽きてしまった。

 そこからは、旅はどうだっただの、エステルがこういうヒトだっただのと、単なる雑談となっていった。




 翌日。午前七時。

 本来ならばまだ寝ている時間だったものの、シスに叩き起こされることになった。

 どうやら〝アサシン〟というのは遅く寝て早く起きる生き物らしく、男子部屋〝一号室〟で寝ているのはキラだけだった。

 着替えもそこそこに寝ぼけ眼で廊下に出れば、町娘姿のリーウがいつもの通りしゃっきりした姿で待ち構えていた。

 これが本当の〝見習いアサシン〟ならば懲罰ものだが、新人とはいえ立派な〝元帥〟。しっかりとした挨拶をされることはあっても、咎め立てされるようなことはない。

 とはいえ、ラグーナからしてみれば甘い境遇らしく、きっちりときつい一言をもらった。


「――〝見習い〟は〝見習い〟。規律を乱してはならん。よいな」

「はい……。……眠い」

 隠れ家三階〝長老室〟。あまりに早い時間帯のため、キラは朝食を取る気にもならず、一人でラグーナの呼び出しに対応していた。

「シスくんの案内に従い、〝市民軍〟に入ってもらうつもりだが……。その前に一つ。〝アルマダ騎士団〟の方針について聞き及んでおるかな?」

 キラはあくびを我慢するので必死で、ラグーナの話をほぼ聞き逃していた。


〈ほら、キラくん、シャキっとする! 昨日話してたことだよ〉

 エルトの〝声〟が脳内にガンガンと鳴り響き、キラは観念して頭を回転させた。

「ん……。まあ……。直接誰かに聞いたってわけじゃないですけど。遠征計画に際して進軍をかけるんじゃ……って話は、昨日しました」

「ふうむ……さすがは竜ノ騎士団。すでに見抜かれておるとは」

「あー……。たぶん、明かすつもりはなかったんですよね。戦争を支援してくれ、って要請ではなかったんで」

「うむ。流石に侵攻作戦の直前には伝えるつもりではあったが、協力の要請はとくに考えておらなんだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=811559661&size=88
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ